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47 自立

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 ヴェロニカの処刑が終わり、彼女の面影は徐々に消えつつある。

 フィオナが関わっていた人身売買について出来る限り売り払われた少女たちを探し出し、マーシアの派閥の子供がいない貴族の家庭に振り分けられた。

 子供を売った親たちは、それぞれにふさわしい罪で裁かれ、ことが落ち着いてきたころにルイーザの順番がやってきた。

 もちろんフィオナのところにずっといたっていいし、何ならノアと結婚して養子に迎えるという手段があった。

 しかし、ルイーザ自身が自立することを選び、受け入れ先としてアシュトン伯爵家を望んだ。

 人身売買に協力していたアシュトン伯爵家をわざわざ選んだ理由を聞くと、まったく知らない大人の元よりも、知っているテリーサのところに行く方が安心できるからなんだそうだ。

 フィオナはそんなルイーザの言葉を聞いても、嫌な思い出の方が多いアシュトン伯爵家にいくのはどうなのだろうと言う気持ちが大きかったがフィオナが口を出すことでもないと思い、準備を一緒に進めた。

 しかし進めていくごとにどんどんと寂しくなってきてしまって、ルイーザが離宮を発つその日になって寂しさが頂点に達していた。

 だってこうして落ち着くまでの間、夜には二人で遊んだり寂しい夜は添い寝をして、話し相手になってくれた可愛いルイーザが居なくなってしまうのだ。

 体に似合わない大きなトランクを持って馬車を待っている彼女を見ると、ボロボロと涙が出てきて、何気ない質問をしてこちらを振り返ったルイーザはぎょっとしてフィオナに問いかけた。

「フィオナ様、どこか痛いの?」

 あまりに猛烈に泣いているものだからルイーザはトランクを置いて心配そうにフィオナの涙を背伸びして拭った。

 そんなルイーザに合わせるようにフィオナはかがむ。

 すると彼女は優しくフィオナの背中を撫でた。

「少々、胸が苦しくて」
「心臓の病気って事?」
「いえ、わかれが寂しくて苦しくなってしまいました」

 ぐっと胸を抑えるフィオナに、ルイーザは、キョトンとしてそれから困り眉のまま元気な笑みを浮かべた。

 日差しの下で照らされてキラキラと輝く笑顔は、とても愛らしくて健全なその姿がフィオナにとっては何より愛おしい。

「フィオナ様ったら、お子様だね。また会えるんだからそんなに泣いたりしたらいけないんだよ」
「はい、っはい。わかってるんです。あなたも寂しいはずですよね」
「そうなの! そんなに泣いたら湿っぽい別れになっちゃうでしょ?」
「はい」
「それに、こういう時は私が泣いちゃってそれを慰めるのがフィオナ様の役目なんだよ」

 自慢げに話す彼女に、フィオナは頷いて、その通りだと示す。

 相変わらずどちらが大人かわからない状況にロージーがくすくすと笑った。

「……でも、私も寂しいです、ルイーザ。またきっと遊びに来て下いね」
「うんっ、あ、馬車が来た見たい」

 話をしていると丁度定刻通りに、アシュトン伯爵家の馬車がやってくる。

 離宮の前につけると御者が、ルイーザの荷物を受け取り積み込み、中からテリーサが下りてきた。

「フィオナ! ルイーザ! 久しぶり。元気そうで何よりだわ」

 彼女は開口一番元気にそういって、仁王立ちになって笑みを浮かべる。

「テリーサ、お迎えありがとうございます」
「ええ、いいのよ。だってルイーザの為だし」
「テリーサ様ありがとうございます。よろしくお願いします」
「こちらこそ、改めてよろしく。色々あった場所だけど、今はあの人たちも追い出して屋敷も新しい雰囲気になっているから気軽に過ごせると思うよ」

 手紙で聞いていた通り、テリーサは容赦なく両親を領地内の僻地へと追いやったらしい。

 もちろんヴェロニカが破滅した今、そのぐらい潔く方向転換をすることはとても重要だが、誰でもできることではない。

 とても苦労しただろうしこれからも同じように領地運営の仕事を続けていかなければならない以上、楽はできない。

 そういう苦労を鑑みたうえでも、彼らの悪事を軽く見ることはなくきちんと処置をしたことはとても素晴らしい事だと思う。

「はい、私も馴染めるように頑張ります」
「それほど気負わないでいいよ。ダグラスおじさんも厳しい人ではないから。それよりルイーザの部屋は角の一番大きな部屋にしたんだ。帰ったらすぐに壁紙を決めてカーテンをつけよう」
「うんっ、あ、はい!」

 ルイーザはテリーサに向かって慣れない敬語を話をしつつ、馬車へと乗り込んでいく。

 離宮で少しお茶をしてから帰ってもいいじゃないかと口にしたくなったけれども、すでに何度もテリーサにこの場所に来てもらい、打ち合わせはしているのだ。

 今更とどまってもらっても話すことはない。

 ただ無意味にこの場所にとどまらせるだけになってしまう。

 それはいい事とは言えないだろう。

「……」

 ピシッと背筋を伸ばして可愛いドレスに身を包み、馬車の中に入っていくルイーザにきっと幸せになってほしいと願うと、引っ込んでいた涙がまた出てきてぽろぽろと涙が零れ落ちた。

「それじゃあ、フィオナお見送りありがとう……って、うそでしょ?」
「っ……ふっ、っ」
「バッカみたい。馬車に乗れば半時しかかからない場所にいくだけなのに、何泣いてんの?」
「わ、わかっています」
「そんなのお淑やかじゃないわ。女性の涙は自分の子供が自立した時に初めて流すものなのよ、こんなことで泣いてたら軽い女だと思われるから」
「わ、わかってますってば」
「もう! 相変わらず、フィオナは駄目ね」

 呆れたように言うテリーサに、反応してルイーザはひょっこりと馬車の中から顔を出した。

 するとルイーザも困ったような顔をしたけれど「でも私は、嬉しい」と呟くように言った。

 その声音にはフィオナと同じ寂しいという気持ちがにじんでいて、このままでは彼女も泣き出してしまいそうだった。
 
 ……流石にそうなっては、大変です。

 ルイーザだって笑顔でお別れがしたいはずなのだ。それなのにフィオナがこんな風に泣いてばかりいたら引っ張られてしまうだろう。

 そう考えてぐっと目をつむって涙をぬぐった後に、フィオナは笑みを浮かべていった。

「すぐに会いに行きますから」
「うんッ、待ってる、フィオナ様」
「当たり前でしょ。それじゃあ、またね。フィオナごきげんよう」

 馬車の扉は閉められてゆっくりと出発する。窓の中からルイーザはフィオナが見えなくなるまでずっと手を振っていたのだった。



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