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38 侍女見習い
しおりを挟むフィオナ様から聞いた話によると、ルイーザは今、侍女見習いとしてこの離宮にいることになっているらしい。
といっても離宮の侍女見習いではなくフィオナ様のお付きの侍女見習いなのでフィオナ様の希望によって教師をつけてもらってお勉強をしたり、侍女としての仕事の事も教えてもらったりできて、将来の道が決まっていないルイーザにとってはとてもうれしい事だった。
マナーについてはテリーサ様からも教えてもらっていたが、お嫁に行く以外で自分が暮らしていく術がなかった分、技能を手に入れられることがうれしいし楽しい。
フィオナ様とマーシア王妃殿下とメーベル王太子妃殿下で協力して話し合って、ルイーザの事を決めてくれたらしいのだが、こうなってとても良かったと思う。
すこし前までのルイーザはフィオナ様以外の大人は、どうにも信用できないしフィオナ様のそばにいるだけでいいと思っていた。
しかし実際問題はそうもいかない。
フィオナ様はそれでもいいというかもしれないけれど、ルイーザはこうして自分を尊重してくれる相手と共に逃げ出してきて学んだのだ。
大人には大人のいいとこがある。
それは打算的であるけれども確実で将来性があることを提案したり、実行したりできる力を持っていることだ。
そして大人にはないものは感情で動いて思いやってくれる気持ちだ、手を伸ばしたら絶対に離したりしないし、そばにいてくれる。
けれどもその二つは、きっとどちらかだけでは駄目で協力したりバランスをとったりしていい選択肢を見つけていく。
きっとそれが善良な大人なのだ。
そして善良であるかどうかは人による。大人だとか子供だとか、それだけですべてが決まるわけではない。
フィオナ様はフィオナ様で優しくて約束を守ってくれるいい人、そんな人にルイーザの将来を考えて提案をしてくれるノア王子殿下やマーシア王妃殿下、そういう人がいて丁度良いバランスを取れるのだ。
そのことを知ってルイーザはとても自分も大人っぽくなったような気がしていた。
「ルイーザ、今日はこのあたりで終わりにしましょう」
「え、なんで? まだ時間があるんじゃないの?」
ロージーは丁寧に資料を纏めて、ふと顔をあげた。
その視線の先には時計があり、いつもの授業の時間よりもだいぶ早く終わりを告げたロージーに、ルイーザは首を傾げた。
ロージーからは侍女見習いとしての仕事のやり方や、基礎知識などを教えてもらっている。
フィオナ様のお付きの侍女としての仕事が少ない時に少し時間を割いてもらっているが、今日は特別時間がみじかかった。
ルイーザの問いかけにロージーは少し考えて、それから困ったように笑みを浮かべた。
「明確な理由があるわけではありません。ただフィオナ様が先日よりすこしだけ気落ちしているようにお見受けられたので、出来れば話を伺えればと思ったのです」
「……そうなんだ。私、全然気がつかなかった」
「私の気のせいかもしれないのであまり当てになさらず」
「う、ううん。それも侍女の仕事として大事な感性ってやつなんだよね!」
「……えっと、そうですね、人として思いやる気持ちをまずは主人にもつことはとても大切です」
持ってきていたこの国に流通しているお茶の種類と扱い方の資料をロージーは片付けながら彼女は椅子を立つ。
ルイーザは自分用のノートにお茶の授業の内容だけではなく、心構えもきちんと記載して、パタンとノートを閉じた。
それから、授業のお礼を言って、ルイーザはロージーの事を見送った。
彼女は長く侍女として務めているので、とても為になることを教えてくれる。それだけ仕事が好きなのだということも話の内容から伝わってくる。
そんなロージーの仕事の邪魔になってはいけないので、ルイーザはフィオナ様が少し心配だったけれど、ぐっと我慢して授業の内容を復習をした。
今度彼女をあっと驚かせる美味しい紅茶を淹れてあげられるように頑張った。
しばらくはヴェロニカ王妃殿下との揉め事が終わるまで、フィオナ様は忙しい、それまでルイーザも自分なりに努力をして彼女を支えてあげられる人になりたいのだ。
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