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29 フィオナの望む選択肢 その一

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  王宮で行われる定例のお茶会、そこでは熾烈な派閥争いが繰り広げられている。 

 といっても国王陛下は常に不参加だ。彼はどちらにも加担しないし、どちらかと離婚するつもりもない。

 だからと言って何か策があるのかと言われるとそうではなく、ただ単純に、政略結婚をする必要があったからそうしたら、二人が揉め始めて面倒くさいことになったから放置しているような具合だ。

 なのでせっかく王族同士の交流の場になるはずだった定例のお茶会はそんな荒れようになっている。

 しかしながらマーシア、ランドル、メーベルがマーシア陣営で、ヴェロニカ、メルヴィン、フィオナがヴェロニカ陣営として参加していた。ちなみにノアは数に入っていない。

 彼はいない事が多いのでそういう扱いになっている。

 だからこそ今まで三対三の丁度良い拮抗具合だったのだが、フィオナがいなくなったことにより、ヴェロニカが荒稼ぎしていた悪事を働くことが難しくなったうえに、数的にも不利。

 そんな場所にヴェロニカが姿を現すことはないとフィオナは知っていた。

 今はそんなことより、お客たちやそれぞれの取引相手との調整に大忙しだろう。

 王宮のフィオナ捜索もメルヴィンに任せている様子だったので、今度のお茶会の面子は簡単に想像がつく。

 そしてイラついたメルヴィンが一番先に廊下に出てくるだろうということも予想できるだろう。

 だてに長年、婚約者をしていない。彼がどんな風に怒って、どういう行動に出るのかフィオナはよく知っていた。

 花園が見えるお茶会の開催場所である応接室は部屋の外に騎士がおり、中にいる要人を守っている。きっとメルヴィンも騎士を連れて出てくるだろう。

 普通に剣を抜いたり武器を持っていれば当たり前のように拘束される。

 魔法は基本的に剣を使うよりも遅い、だからこそ手ぶらでやってきたフィオナの事を不審そうに見つめるだけで彼らは動かなかった。

 きっとフィオナの立場を理解しているからだ。元はこのお茶会に参加していた、メルヴィンの婚約者である。そして今も参加資格はある。

 それにできるだけ警戒されないように、一人で来たのだ。こうでなければ困る。

「……」

 扉の前で静かにただ待っていればゆっくりと時間が流れていく。

 騎士たちは気まずそうにフィオナのことを見ている。厄介事にならないといいけれど、と考えている様子で二人は視線を交わしていた。

 そんな雰囲気もフィオナは気にせずに、佇んでいると微かに中からの声が聞こえてきてメルヴィンが声を荒げているのがわかる。
 
 次第に声は大きくなって、怒気を含む。

 いつ飛び出してきてもおかしくないだろうと考えて意識を逸らさずにフィオナは美しい彫刻が掘られた木製のドアを見つめた。

 ドア一つとっても王宮にあるものはとても高級品ばかりだなと、考えた矢先、使用人によって扉が開かれる。

 中から見飽きるほどにそばにいたメルヴィンが外に出ようとして、驚いた顔をした。

「っ、お前……」

 フィオナがこの場所にいることに一度驚いて、彼の後ろをついていた騎士が気が付く、しかし危険はないと判断したのかメルヴィンを守ろうとはしない。

 当のメルヴィンはほんの瞬きの間に鬼のように形相を変えて、自分のプライドを傷つけた女に怒りを向ける。

 その表情にフィオナだって腹が立った。フィオナだって彼に怒る権利はあると思うし、彼は謝るべきことしかしてないのにどうしてフィオナに怒っているのだろう。

 ……やっぱり理不尽な人です。

 そう思えたからこそフィオナは躊躇なく彼に向かって一歩踏み出して飛びつくように手を伸ばした。

 首の後ろに手を伸ばし体を接触させる。

 フィオナの魔法は接触面が多いほど発動が早い。

 メルヴィンは突然の事に驚いて一歩引いたが、フィオナの勢いに押されてそのまま部屋の中に戻る。

 驚いた様子のマーシアやメーベルの姿が見えて、計画通りだと心の中でほくそ笑んだ。

 強く魔力を注ぎ込みながら彼の記憶に干渉する。フィオナの魔法はこうして触れないと使うことができない、しかし触れてしまえば早い。

 ……あなたは私の人生の大半を奪いました。なら私もあなたの人生の大半をしめるものを最後に貰っていきます。

 

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