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結論 6
しおりを挟む「は、ハイッ、お兄さん。お兄さんも、お疲れ様です。おかえんなさい」
「おかえり、三人とも」
リヒトに応えるようにして二人はそう返し、彼らは部屋へと入ってくる。それに、付け加えるようにして、私も口を開く。
「私もいるのだ、リヒト」
「……君も懲りないな。本当に」
するとリヒトは流石にその言葉を無視することは無く、呆れたように私に視線を向けながら重たそうな毛皮のマントを外し、ルシアンに渡した。
それからナオの隣に座りつつ、扉の近くで立ったままの男へと視線を向けた。
「あ……はぁ、またレジスは不在なのかな」
「先程、教会の方からも圧力をかけると言っていたからその件だろう。部屋に戻しておくか?」
「いいよ。隣にいさせとく。何も言わずにいなくなるのはやめろってあれほど言ってるのにな」
それからたまにする彼らの意味の分からない会話を始めた。
私はそれを毎回とても奇妙な心地で見ている。
神の名を冠する赤毛の男はリヒトの眷属らしく赤い瞳を持っていて、彼ら召喚者一行にしれっと加わっていた謎の人物だ。
名前からもわかる通り、個人名にしてはいけないその名前を使った人間らしき男であり、赤毛がよく目立つ。
首筋には、反レジス勢力であることを示す、レジス教のシンボルに罰印をかけた刺青がなされていた。
しかし、彼はレジスと呼ばれ、経歴は一切不明、どこの誰かもわからなければ、意識があるまま中身が不在になるという冗談のような性質をしている。
それを召喚者たちは当たり前の事のように受け入れて、共に生活している。
それはとても不自然であり、冗談のような光景だったが一度、彼についてリヒトに説明を求めると、名前のままの存在だと返されて、ぞっとして詮索をするのをやめた。
人間の神というのは、我々、鬼族にも獣族にも枷を与え、戦争を終わらせる代わりに、生贄を要求するような非常な生き物だ。
しかしそれの正体についてはどんなに文献をあさっても、見つからなく、ただ神という存在として描かれている。
人間由来の大魔導士が神になったという事ではなく、ある時突然に世界に登場し、人間と契約を結んだ存在だ。
そんな不確定であり、ある種、不気味な存在を認めてそばに置いてるような素振りの彼らは、私から見るとやはり不気味で、この世界の何か触れてはいけない、自分には背負いきれない事実が隠されていそうで今までもずっと目をそらしてきた。
そして今日もその疑問を口に出せずに、ただ静観し、会合の行く末や、今後のことについて話し合う彼らに口を出さずに、見ていた。
しばらく話し合うと、ふと息を吹き返したようにレジスが動き出し、座って話し会うリヒトの背中に手を置いた。
「……目が覚めたのかな」
「うん。一応は根回ししてきた。これでだいぶスムーズに貴族社会に参加することが出来る。教団の息のかかっているものは多い」
「助かったよ、レジス……助かったが、勝手にいなくならないでくれるかな、扱いに困るんだ」
「……」
リヒトが苦言を呈すると、レジスは腑に落ちないとばかりに無言になってそれから、空いている席に座った。
ここはもともと図書室として使われていた場所なので、大きな見分台があり椅子はいくつも用意されている。こんな人数でも顔を突き合わせて座れるだけの大きな机であるために窮屈ではない。
「レジスさま、お兄さんをあんまり、こ、困らせないでください」
「そうだレジス、君はもう少しリヒトを見習って、人間らしくする努力がひつようだろ」
「……そんなことを言われようとも、真面目に人間をやるのは初めてだ。多少は綻びも出る」
ナオが困ったとばかりにそう言って、ルシアンは、リヒトを気遣うようにレジスに言うが、当の本人はこれまた奇怪な発言をしていてやはり状況が私の目にはおかしく映る。
……正直いうとこんな場にいると、なにか毒されてるような気がするし、どう考えても彼らの一員ではない私は、完全に場違いなんだが、命令だから仕方がない。
そう考えて、我関せずとばかりに聞き耳だけ立てて、異人とその周りの人物の価値観にあまり毒されないようにと思いながらも、どこかこの奇妙な屋敷を面白がっている自分もいる。
「それより、問題は獣人の血を引いている貴族だ。私はそのあたりはリシャールも顔を出せば解決すると踏んでいる。お前、オオカミだろう?」
「そうだけど……あんまり期待しないでよ。俺ハグレモノだからね」
「精々気張れ、ある程度地位が確立すれば同世代の貴族とのナオの交流や、優れた楽師を呼ぶこともできる」
「……もちろん、頑張るけど」
ナオを引き合いに出されるとリシャールは色よい返事を返しそれに、ナオがすぐに反応する。
「リシャール、無理はダメですよ。や、約束です。僕は貴方が一番大事ですからね」
「……うん、ちゃんとわかってるよ」
彼らはそうしてすぐにのろけだして、リシャールはナオの頭を心底いとおしそうに撫でるのだった。
それを多少面白くなさそうにレジスは見ていたが、リヒトが彼に話しかけてすぐに別の話題に移る。
「それにしても、今日言われたが体の件については結局どう説明するのかな」
「……」
「たしかにそんな話題もあったな、それにその首の入れ墨、目立ちすぎだろう、レジス」
ルシアンとリヒトに言われてレジスは刺青のある首元を摩ってそれから、うっとおしそうに、適当に言った。
「燃やすか」
「やめろ。そもそも首周りの開いた服を着る方が悪い、君も自分のようにきちっとした服を着ろ、一応は神だろ」
「一応じゃない。それに神だからこそこうしてラフにしているというのにわかっていないな」
「ああそうか、では君は裸でうろつけばいい」
若干投げやりに言ったルシアンに、リヒトは「ふっ、くく」と喉を鳴らして、肩まである銀髪を揺らして口元へと手を運んで笑顔を見せた。
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