異世界召喚されて吸血鬼になったらしく、あげく元の世界に帰れそうにないんだが……人間らしく暮らしたい。

ぽんぽこ狸

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生きるためには 8

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 そうして、アルベリクのところへ向かうと彼は俺たちの突然の来訪にか、もしくは、眷属化しているルシアンにか、将又、俺が抱き上げられて登場したことにか、どれかにおどろいて、部屋にいた使用人らしい人間を急いで下がらせた。

 事態の意味は大体把握しているらしく、警戒しながらもソファーにかけるように指示されて、座ると彼も向かいに座った。

 それから気持ちを落ち着けるようにゆっくりと深呼吸をして、それからバレたと知った時のルシアンとは違って、すぐに俺に切り出した。

「べ、弁解をさせてください。リヒト殿」

 やっぱり、話の分かる男で助かったと思いつつ、背後に控えているルシアンに、普通はこうなるんだと言ってやりたくなった。

 しかし今は目の前にいるアルベリクに話を聞くのが先だ。

 まだ若い青年をこんな風に虐めるようなことをするのは心苦しいが、仕方がない。

「弁解も何も、サラを使って俺に血盟魔法の刻印の解読を可能にさせたのは君だろう、アルベリク」
「そ、その通りです」
「君のその行動がなければ俺は生贄にされていた。そうだよな。じゃあ、俺はそもそも君に助けられたわけだ、そうだよね」
「……」
「何をそんなにへりくだることがあるのかな」

 試すようにそう言う。しかしアルベリクはきちんと、状況を理解しているらしくそんなことを言っても、じとじと汗をかいて伺うようにこちらを見るのは変わらなかった。

「申し訳、ありません。ただ、味方になりたいと、思っています、リヒト殿」
 
 その切れ長の気難しそうな瞳を、俺の機嫌を取るように、伏せって焦りの滲んだような声で言う。

 彼がすべて悪いというわけでもないし、もちろん俺は彼に対する恨みもない。
 
 ただ、味方か。と思う。それは変な言い方だ。

「味方、なぁ……勝手に召喚されて、勝手に身寄りもなくされて挙句、生贄にされそうになって、俺たちは生きるのに必死だってのに、味方か」
「っ、」
「随分偉そうだな」

 実際にえらい高い身分の人間に言う事ではないような気もしたが、事実だ。

 そもそもこの世界の人間は皆敵だろう。それを味方になりたいです、身内の情報を持ってきました。なんてやつはただの敵より信用ならない。

 俺の言葉に言い淀んで、何も言えなくなった彼はうつむいて、ただ静かになった。

 そのつむじをじっと見て、物言いも自分らしいし、調子が戻ったような気がする。

 ルシアン相手になるとどうにも変なことばかりで、困っていたんだ。分かりやすく、対応できる一般的な範疇でアルベリクはとても接しやすい。

 こんな豪華で広い部屋に住んでいて、贅を尽くしていても、こうして普通の反応をしてくれるのだから王族なんて言っても普通の人間だと思う。

「それで? とりあえず全部、話してほしいんだ。俺の知っている情報が正しいのか、ああ後、君が俺になにを提案しようとしているのかもね」

 そう付け加えた。こうして俺に答えを知らせて、嘘を見破らせた。

 それにはきっと解決策、味方になるなんて言うからには、俺や、ナオが生贄にならなくていい方法があるのだろうと思って促した。

「なにか策があるから、こうして俺に嘘を見破るように仕向けたんだろう。怒って悪かったな。こちらも少し、焦っているんだ」

 さらに話をしやすいようにそう付け加えると、さも当たり前のようにアルベリクは痛ましいような顔をして「申し訳ありません、本当に」と言った。

 それから切り替えたように、両ひざの上に拳を握って、俺に視線をもどした。

「この召喚者の儀式において、すべて話をさせていただきす。こうしてリヒト殿が来るのを待っていました」
「うん。よろしく頼むよ」
「はい」

 そう言って、彼は視線を俺から窓際の方へと移動させる。

 大きな窓は今はカーテンが閉じられていて外を見ることが出来ない。その代わりに重たそうな布の美しい刺繍のカーテンが見えた。

「すべては、鬼族、獣族、人族の争いが原因であり、平和の代償に聖レジスが望んだことから始まります」

 言われて、彼が見ていたのは窓際の壁近くにある、簡易的な祭壇だということに気がついた。

 それは、召喚者塔の俺の部屋にもあった祭壇であり、レリーフとそれから花が飾られていた。

「人間は他種族よりも、繁殖力という点では勝っていましたが、それ以外ではまったく、手も足も出ない劣等種族でした。……獣人のようにタフな体も獣の形も持たず、吸血鬼のような不死性も持ち合わせず、多くの戦士が倒れ、稼ぎ手や作り手を失って国も貧しくなるばかり、それが千年前の戦争の状況だったと伝えられています」

 何やら話が長くなりそうな入りだと思い、やっぱり結論だけでいいよと言いたくなったけれども、堪えて話を聞く。

「そんなときに聖レジスは、他の種族すら知らない魔法を駆使して、彼らを取り込み、当時のそれぞれの種族の長とも言える者を集めて、契約を結ぶ提案を人間に持ち込んできました」

 その話は、ルシアンがナオにしているのを聞いた気がしたが、なんだかニュアンスが違う。

「その提案には、召喚魔術、転移魔術とも呼ばれるものを聖レジスが提供し、人間の数の力によって沢山の魔力を集めて、莫大な魔力が必要な召喚魔術を成り立たせることがまず前提条件としてて提示されました。……次に、これからも人間に協力する代わりに、聖レジスとともに形亡き者になる生贄を二人、百年に一度、捧げるようにという契約でした」

 ……形亡き者、か。

「もちろん、当時は簡単に生贄を出すことが出来ましたが、盟友の誓いをむすび戦争が終わってからは、生贄の出し方について人間側が揉めることが増え、国側も平和の為に国民を犠牲にするのはどうなのかという、反レジス派の声に押されて、さらにある取り決めをしました」
「……」
「それが、戦争を終結へと導いた召喚魔術をもちいて、国は魔力を負担し、召喚者を呼び出し、生贄とするという今の儀式の形です」

 もともとはこちらの世界だけで完結してたものを、自分たちの身を削るのが嫌でよそ者に押し付けたという事なんだろう。
 
 成り立ちは納得がいった。しかし、それならば、呼び出された時点で生贄にしてしまえばいいだろう。

「聞いていいかな。じゃあどうして、すぐにそうしないのかな」
「はい、それは、血盟魔術によって、聖レジスの同族へと死ののちに変わるのですが、血盟魔術は血液に宿った魔力が効力を生みます……ですから、こちらに来たばかりの魔力のない体では、呼び出した時の契約が発動していません。あ、血盟魔術は分かりますか?」
「ああ、大丈夫だよ」
「そうですか…………生贄の儀式自体には契約魔術は存在せず、その儀式は様々な形で行われてきました。俺たち王族は常それを取り仕切り、この国の長としてその役目を担っています」
「役目ね……生贄の儀式事態に契約がないんなら行わなくてもいいんじゃないのかな」

 俺が、思い付きでそういうと、アルベリクは首を振って、難しい顔で答える。

「我々人間は、聖レジスの盟友の誓い無しでは、平和を維持できません、彼の機嫌を損ねるわけには行けませんから」
「ああ、なるほど。それを引き合いに出されているのか、平和を人質に、面倒な生贄の儀式をやってるわけだ」
「……その通りです。それに、聖レジスは、約束が守られなかった場合には、未曽有の大災害を引き起こし、すべての人間を形亡き者へと変貌させるとも発言しています」

 ……それで、ルシアンの裏切れない発言に繋がるのか。

 まあ、たしかにこれでは、召喚者に協力をしてしまえば、同じ人間から恨まれることになるだろう。




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