異世界召喚されて吸血鬼になったらしく、あげく元の世界に帰れそうにないんだが……人間らしく暮らしたい。

ぽんぽこ狸

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強者が求めるもの 10

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 これを口に出したら、ルシアンが、俺たちに協力してくれない場合、彼を切り捨てても、切り捨てられなくても俺は痛手を負う。それが確定してしまう。

 それをわざわざ言うのは自分らしくは無くて、彼にはなんとなく、道を選ぶことなく、俺に血を分けてくれ続ければいいと思うのに、今までの自分では味気なくて、つまらない人間のままだと思うと思わず口にしていた。

「選択権を握っているのはなんにせよ君で、俺は、君がその役目を下りない限りは、渇き続ける人生を送るか、君らの嘘で何かしらの被害を被ることが確定してる」

 ……だから、君の選択肢を奪えないし、俺は君を信用できない。してしまっては、ルシアンを切り捨てる選択ができなくなってナオにまでその嘘の不利益をかぶせることになるからだ。

「だから、君は俺に嫌味をこれからも言っていいし……役目を果たせばいいさ。弱者には何もないなんてことは無い、俺の人生を握ってるんだから」

 言い切って、呆然とするルシアンに、近づいてまた首筋をなめる。滲んだ血液の味がしてごくっと喉を鳴らした。

「…………俺だけに、選択の権利は、ない」
「? どういう意味かな」

 今までの言葉を理解はしていたらしいが、答えがそんな風に返ってきて、しかしその意味は俺にはわからない。けれども、分かるように言うつもりはないらしく、彼はつづけた。

「自分は、ただ……っ、許してくれ、リヒト」

 そう思い詰めたように言った。きっと許せるような事態にはならない事を彼は知っているのだろう。しかし、それを教えてもくれないし、今それを聞く気もない。
 
 ただ、真面目な男だというのは知っている。きっと思い悩んでくれるだろう。

 そう、狙ったわけでもなかったが、結果的に彼の罪悪感を煽れたようで、ラッキーだったと思えてしまうのも、これまた俺が人間らしくない部分だと思う。

「……選択を君ができるんだから謝るなよ。それはずるくないかな」
「っ、そう、だな。そうだ、分かっている」

 さらに言えば彼は、頭を抱えて深く考え込んだ。そんな彼を無視して布団の中に入り、それから同じように横になるようにルシアンに目で訴えた。

「……今更、聞くのもなんだが、なにがしたいんだ、君は」
「最近夜は冷えるだろうからな、一緒に寝よう。監視対象が傍で寝てれば気を張らずにすむだろうしな」

 そういうと、彼は、これまたつらそうな顔をして、しかし自分の体が限界であることは理解できているらしく、大人しく横になった。

 至近距離で枕を並べて男が二人、多少むさくるしくはあるが、療養のためだ。我慢しよう。

 目をつむって眠る体勢を取る。それから頭の中で考えた。

 ……しかしきっとどうせ、今の言葉だって、何の意味もなかったんだろうな。

 人間はそう簡単に今まで生きていた教示を変えられない。俺が自分から誰かを本心から信頼できないように、ルシアンだってこんな化け物の為に立場を捨てるはずがないだろう。

 ……全部ルシアンの選択にかかっているというのならば、俺は、彼を全面的に信用している素振りでなければならない、それでも俺は彼を切り捨てられるように今だって、心理的に距離を置こうとしているし、そうであるべきだと思っている。

 それに、他人に選択権を預けて生きられるのならもっと前から俺は、元の世界で一般的な幸せを手に入れられただろう。

 結局は、運命の出会いなんてのも、すべてをさらけ出せる人なんて言うのも幻想で、最後は同じ道に戻る。そして、それは俺が望んでいるからだ。他人にすべてをゆだねた場合の不利益はこの世で最も回避するべき事項だ。

 今の話だって全部くだらない、茶番劇だった。俺はそう思う。

 そんなことより、サラからの手紙の方が重要だ。あれに書かれていたのは、ナオが教えてくれたルーン文字とその意味だった、しかしそれを読んだだけでは、彼女が何を俺に伝えたかったのかはわからない。

 ……祭壇のレリーフに彫られていたと言っていたし、明日確認してみよう。

 そう考えて本格的に眠った。後ろでルシアンがどんな表情をしていたのかも知らずに、いつも通り、明日の予定なんかを考えながら。




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