異世界召喚されて吸血鬼になったらしく、あげく元の世界に帰れそうにないんだが……人間らしく暮らしたい。

ぽんぽこ狸

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強者が求めるもの 5

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 魔法については召喚者塔にきてすぐにリシャールから話を聞いて、本も読んでいたけれど実際にそれを見るのは初めて、ワクワクしながらここに来た。

 しかし、リヒトお兄さんの見せてくれた魔法は、契約魔法というもので、もっとこうキラキラしたエフェクトとか、不思議とファンタジーの権化みたいなものを想像していただけあって、多少なりともがっかりしてしまった。

 なんせ、元の世界の事務仕事のようにカタカタとキーボードで文字を打って、最終的には印刷されたみたいなガラスみたいな板に契約がきざまれて出てくるだけだったのだから、ファンタジーでもなんでもなかった。

「ナオくん、リヒト、俺、部屋から暇つぶし持ってくるから、ここにいてね」

 そういってリシャールは暇つぶし用の刺繍セットを部屋に取りに行ってしまう。僕もついて行ってムーンハープを持ってきたかったけれど、僕が魔法を見せてほしいといったのだからそんなことも言えるはずもない。

 隣でカタカタと文字を打っているリヒトお兄さんの横顔を眺めながら、あの時言ったことを少し後悔した。

 しかし、それもすぐに忘れて、さらさら揺れるシルバーの髪に見入ってしまう。キラキラとして光を孕んだような美しい髪は日の光の下にいればもっと輝くと思うのに、リヒトお兄さんは日焼けが嫌いなようで外に出ることも少ないし、それに今日も日傘をさしていた。

 ……男の人が日傘をさしてるのを今日初めて見ました。……意外と美容に興味があったり……。

 そう考えてから、それはないかと思う。他人からどういう外見に見えているのかというのは、あまり興味があるようには思えなかったからだ。

 ……だってリヒトお兄さん身だしなみはすごくちゃんとしているのに、こんな中学生みたいな容姿でワインボトル持って歩いてたり、タバコ吸ってたりするんですもん。それに歩きながら、一見したら年上に見えるルシアンをくどくど説教しながら廊下歩いてたりしますしね。

 だから、メイドさんたちも余計にリヒトお兄さんの事を怖がってるみたいで、それにあんまり笑わない人だから気難しそうにも見えるみたいです。

 もし、人から見た自分を気にする人だったら、きっともっと笑顔が増えたり、自分の事をよく見せようとするはずで、しかし、リヒトお兄さんはそんなことはしない。

 つまりは、別の意味があって日傘をさしていたのかななんて思う。

 その理由をうーんと考えていると、はっと、前世での僕のオタク知識が火を吹きました。

 ……リヒトお兄さんって吸血鬼ですもんね、太陽が苦手なんですよっ!

 それに思い至ると納得がいって、ついでに、今日こうして僕と行動を共にしているのも吸血鬼ならではの理由だった。

 ……ルシアンの血を吸ったから休んでもらってるんでしたよね。

 でも、吸血鬼って、女の人とか子供の血が好きって設定が多くて、女の人が吸血鬼でも大体異性の血を吸ってるような気がするんですけど……。

 それに、吸血する相手も恋人とか眷属とか、これからそんな風な関係に発展することが多いと思うんです。そう考えると、ルシアンとリヒトお兄さんの関係ってどうなってるんでしょう。

 さらにさらに、吸血ってどういうスタイルなんですかね?スタンダードに首筋から?それとも男同士ですから、痛そうですけど肌を傷つけてその血をグラスに入れて飲むなんてのもありそうです。

 いろいろと考えを巡らせていると、目の前にいるリヒトお兄さんが、いつかのアニメで見た吸血鬼の女の子みたいに、ルシアンの体に縋りついて必死に血を飲んでいるところを想像してしまう。

 確かに、リヒトお兄さんは中世的で、髪だってボブカットでサラッとしていて、まつ毛がながくて女の子みたいだけれど、中身はおじさんで大人っぽいのだとその想像を否定する。

「ナオ、一ついいかな」
「は、ひゃいっ」
「? どうかしたかな」
 
 変な想像をしていたせいで、リヒトお兄さんに声を掛けられて妙な返事をしてしまう。首をかしげて真っ赤な瞳で僕の事をじっと見上げた。

 ……そういえば、さっき、リシャールの耳をリヒトお兄さんが引っ張ってた時、目が光ってるみたいに見えたんですよね。

 今はまったくその光はないが、瞳の色はザクロみたいな濃い赤をしていて、神秘的と不気味を足して二で割ったようなそんな具合だ。

「イエ、いいえ!」
「そうかな。……まあ、いいか。それより、ナオ。リシャールは割と頻繁に席を外すのかな」

 真剣に僕に問いかけてきたお兄さんは、意外にも少し切羽詰まっているように見えて、僕はなんでそんなことを聞いてくるのかはわからなかったけれど、ちゃんと考えて答える。

「っそ、そうですね。十分ぐらいだったら、何か取りに行ったり、別行動することはよくあります」
「……そうか」

 でも席を外すといっても、私用なことは少なくて、僕のジュースとお菓子を取りにってくれたり、運動しているときに、他の使用人さんに指示を出しに行ってくれたりしてるらしい。

 ……それに、リシャールもルシアンもそんなの一緒だと思ってたんですけど、お兄さんの言い方的に違うんですかね?

 それだと、ずっとひと時も離れないということになってしまう気がして、息が詰まりそうだと思う。もしかしたらお兄さんはそれを悩んでいるのかもしれない。

「なあナオ、これはリシャールには内緒にしてほしいんだけど……」

 言いながら、お兄さんは、テーブルに置かれていた依頼書を一枚とってペンを用意する。それから胸ポケットから、封筒を取り出して中の紙を僕から見えない位置で開いて、よく見てから図形をいくつか書いた。

「このマーク、どこかで見たことあるかな」

 それらは、直線だけで構成されているアルファベットみたいな図形だけど、アルファベットにはないような形も描かれ、まるで何かの暗号のように映る。

 到底、意味が分からないような気がしたけれど、よくよく考えてみると、魔法もののアニメなんかによく出てくる謎文字改め、ルーン文字だとピンとくる。

 そして、それは、僕のお部屋にある大きな神棚のレリーフにもきざまれていた。それをみて、ファンタジーだなと感じたのを覚えている。

「あ、あります! ルーン文字ですよこれ、元の世界にもありました」
「! そうなのか、あまり詳しくなくてな、どういうものなのかな」

 僕がそういうとお兄さんは、すぐこの話題に食いついてきてリヒトお兄さんがそれだけ気にしているなんて、よっぽど大切な情報になるのだろうと出来るだけ真面目な言葉を使って話す。

「ええ、エット、昔の人が使ってた、呪術?とかおまじないの意味で使う文字だったと思います」
「まじない……魔法も似たようなものだしな」
「そうですね、それぞれに意味があって、アニメに出てくる文字の意味を解読するの楽しかったですよ。もう忘れちゃいま、ましたけどね」

 お兄さんの助けになったようで何よりだと思いながら、記憶力の無さに恥ずかしくなりつつそう答えると、リヒトお兄さんは眉間に皺を寄せてものすごく厳しい顔で悩み始める。

 その顔はすごく深刻そうで、これだけの情報では、何か困ったことになってしまっているのかもしれないと不安になって口を開く。

「そ、ッソノ、こっちでも、神棚に書かれているの見ました、お兄さんの部屋にはないですか?」
「神棚……あるな。……嫌な予感しかしないな」

 そうつぶやいて、急いでお兄さんは紙を封筒にしまって手早く自分の胸ポケットに入れて、ルーン文字を書いた紙もびりびりとすごく細かくなるまでちぎってゴミ箱に捨てた。

「……助かったよ、ナオ。これで少しは謎が解けるといいんだけど」

 そういって、完全に証拠を隠滅してから、取り繕ったように笑う。そういう笑顔をされるとこれ以上何かを僕が聞くべきではないのだと、理解したくなくても理解してしまって、それでもはぐらかされるとわかっていても、一応口にする。

「謎って、なな、何の、ですか」
「ただの調べものだよ。ナオには関係ない事だ。ただ、誰にも言わないでくれな」

 僕が聞くと、騙す気のない嘘が返ってきて、誰にも言ったりなんてしないから本当の事を教えてほしいと思うのに、嘘をつかれたという事実が心に重たくのしかかってそれ以上聞くことは出来なくなる。



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