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強者が求めるもの 4
しおりを挟む納得しつつ、ナオにこっちに来るように手招きする。すると彼はおずおずと近づいてきて、それからすとんとしゃがんだ。
「……リ、リシャール、お兄さんを怒らせることしたんですか?」
「ちが、うよ。ただ、そのね。本能的に、リヒトは逆らい難いというかさ」
「確かに、ぼ、暴力的な可愛さ、あ、イエ、かっこよさですけど」
リシャールの説明ではやはりナオは理解できなかったようで、首をかしげながら、俺を見上げる。可愛いでもかっこいいでもどちらでもいいが、こんな野性的なやり取りをナオに知られるのは、あまり教育上よくないので、思い切り話を逸らした。
「ナオ、リシャールが耳を触らせてくれるって、言ってたよな? リシャール」
「……」
「リシャール、終わったら離してやるからな」
「エ?エエ?いいの?」
リシャールは返事をしなかったが、その代わり耳を撫でられるように後ろに伏せって下を向いた。
「エッえ、ア、ああ、ホント、いいの?」
その反応にナオは途端に顔をぱあっと明るくして、震える手でリシャールの耳にそーっと手を伸ばす。それから「触るよ?触っちゃうよぉっ?」と変態のようにリシャールに問いかけた。
それにもリシャールは何も言わずに、ナオの手は彼の耳に触れて、ゆっくりとなでつけた。ガルっと反射のように少し鳴いて、しかしナオの手つきにこそばゆそうに肩をすくめた。
「ア、アア~、気持ちいいふわふわする、いい、すごい、いいっ」
「くははっ、なんだその反応。……よしっ、このくらいでいいか。立ってもいいよ、リシャール」
そう声を掛けながら手を離すと、彼は素早く立ち上がった。そうなるとやっぱり彼は背が高くて見上げることになる。しかし、先程とは違って少し距離を置かれた位置で困ったように俺を見るのだった。
「こんなに、序列をはっきりさせられたの、子供の時以来だよ」
「不服かな」
「……まあまあ」
「ふ、二人とも? 何の話ですか」
俺たちの意味深な会話にナオが割って入って、自分にも教えてほしいとばかりにニコニコしながら聞いて来た。それに俺たちは二人そろって返す。
「ナオくんは知らなくていいの」
「ナオには分からなくていい」
そう返されると二人分の拒否にナオは少ししょんぼりして、でもすぐに別の事に気が付いて話題を変える。
「とと、ところでなんでリヒトお兄さんは一人でここに?」
それは当たり前の疑問であり、俺はここまでの経緯をリシャールにしたように説明し直した。
するとその説明を聞いたナオは、素直にうれしそうに笑って、俺の手を取った。
「……あったかくなってる」
そういって、すごく安心したようにほっと息をついた。ナオも俺が飢餓状態になると極端に体温が下がることに気が付いていたらしく、それが解消されたことは彼にとってもうれしい事だったらしい。
それが、同じ召喚者である俺が人間らしくあってほしいという願いからなのか、それともそんな化け物が同じ塔にいてはおちおち眠ることもできないからなのかは、分からない。
「良かったです。き、キット、すごく寒いんだろうなって思ってましたから」
俺の気持ちとは裏腹にナオはそんなことを言う。彼は、純朴に笑ってそのくるくるとした愛嬌のある黒髪を揺らす。
「それに、ボ、ボクも真似しようかな……なんて、えへへ」
「……何をかな」
「従者の二人が変わりばんこでも、お、おやすみをとれるように、お兄さんとこ、行動するとか」
「そう、か。いいんじゃないかな」
俺が適当にそう返すと、ナオは、「ハイ」と元気に返してきて、ものすごく不思議な現象に戸惑った。
彼は、あまり鋭い方ではないし、能天気だし子供だし、正直言って安心させてやる義務はあるけれど、無駄な情報を与える必要もなければ、ナオに事実を教える必要もないと思っている。
そのぐらい子供だと、俺は彼を思っている。しかし、子供だからなのか、彼自体がこういう性格なのか。
リシャールに話をしたときの生かすだとか殺すだとかそういう話だって、俺の中には本能があって正しい。
しかし、今、ナオが言ったことだって正しくないわけじゃない。確かに、言われてみれば、人間でなくなる体温をしているときは寒かったし、どんな理由で側にいて、どんな理由で俺たちを監視しているのだとしても、ある程度の休みは必要で、それを配慮して動くのも、当然でありたい。
それをするのは、俺からみた彼らが見方か敵か、損か得かそういう匙加減じゃない。
……それは思いやりであるべきで……ナオは当たり前にそう考える。
「……」
「コ、コノあとは、どうしましょうか? せ、せっかくだし、お兄さんの魔法見せてもらえたり、ななななんてっ!!」
ナオは思い切ったようにそう言って俺をうかがう。それに二つ返事で了承して、俺たちは執務室へと向かった。
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