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召喚者塔 5

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「さっきまではごめんなさい、い、いろんな話をスルーしてしまって、あまりにかわいい人でしたから、驚いて上手く話ができなかったんです」
「そうですの?」
「ハ、ハイ、エエト、な、名前の話をしていましたよね。アヤさんは、アヤっていう名前の意味、知っていますか?」

 そういう彼は少し自慢げで、わたくしの名前はこの国で異世界人の功績を継ぐという意味があるのに、ナオ様にはそうではないようでした。

「一番メジャーな、アヤという名前の綾はという漢字は、織物でできた美しい布の模様の事で、奥ゆかしくて上品な美しい人であって欲しいという意味みたいですよ」

 言いつつも彼はその、名前を表す記号を先程の紙に書きますが、わたくしには意味は伝わってくることは無く、奇怪な文様が映し出される。

「そういったことは、そちらの世界なら全員が知っていることなのですの?」
「い、イヤイヤッ、っりょりょ、っ、両親が妹の名図けに本を買ってきて、それでくわしくっ、というかですね、ソノ、ラノベのキャラの名前の意味だとかを調べるのをちょっとだけ嵌ってたりなんてこともありましてけどもっ」
「……? そうですの」

 早口で異世界の言葉を交えて話すナオ様の言葉の意味は分からないものが多いですが、とりあえず納得して、その書かれた文字を見つめる。召喚者様の言葉や文字は、こちらにいらっしゃった段階で勝手に意味が伝わるようになっていますが、わたくしたちの知らないものについてはそのままの言語で耳に入ってきます。

 書き物も同様になっていて、この記号もこちらの言葉に変換できないからこそそのままの姿でわたくしの前にあります。

「……」

 これがわたくしの名前の元の形だと言われるととても不思議な心地で、その意味もとても美しく、今まで知らなかったことが勿体なくも思えてきます。

「ぴ、ピッタリの名前ですよね」

 わたくしがその文字を眺めていると彼は、とても素直に心からそう思っているみたいにそう口にしました。それはとても、優しい声色で、続けて言いました。

「アヤさんはとても、か、可愛くて綺麗だから、容姿なんて白雪姫みたい」
「シラユキヒメ、ですの?」
「はい、髪は黒檀のように黒く、肌は雪のように白くて、唇は鮮血のように真っ赤、そんなお姫様の事を日本ではそういうんです」
「っ、そ、それほどではありま……すわ!」

 あまりに直球な誉め言葉に咄嗟に謙遜しそうになるのをこらえて、そう言い切りました。するとナオ様は「そうですね」と朗らかに同意するのでした。その笑顔はまるで子犬のようで、今度はわたくしの方が恥ずかしくなってしまって、とっさに視界に移ったものに話題を逸らしました。

「と、ところで、これは異世界文字ではないですの?」

 先ほど彼が何でもないと言ってまとめた紙に書いてある文字をさしてそう聞いてみました。

 そこには”綾”という記号とは違った、とても曲線の多い文字が書かれていて、わたくしはそれに見覚えがありました。

「い、異世界文字??」
「ええ、そうですのわたくしこれの意味少しならわかりますのよ」
「エエッ、そうなの」
「そうですの。これは”こんにちわ”こっちは”初めまして”すごく簡単な文字ですわね」
「凄い……アノ、そ、の僕、この世界の翻訳機能について実験してて、それで日本語は書いても伝わるから不便することは無いとしても、他の国の言葉ってどうなるのかなって」

 言いながらナオ様は紙をわたくしに見せました、他にも拙いながらも、沢山の異世界文字が書いてあって、そのうちのいくつかは読むことが出来ます。

「それでやってみたらリシャールはまったく読めないって……な、なんでアヤさんは読めるんですか?」

 そして首をかしげて聞いてきます、その姿はわたくしたちと良く接する貴族たちには無い、なんとも純朴な愛嬌があって、この簡単なつくりの顔のどこにこんな事を想わせる力があるのかと不思議に思いながら、ナオ様にもわかりやすく説明を考えました。

「少しややこしい話になるのですけれど、この儀式は今回だけではなく幾度も繰り返されていてこうして、わたくしたちのような召喚者の子孫がいるのです」
「は、はい」
「そんな中で前回……つまり百年前の召喚者様はお二方とも違う言語圏からいらっしゃた方のようでしたの」
「エエ……そんなことあるんだ」
「はい、そして、片方の召喚者様の言語だけに神のお力が働き、もう片方の方は、神のお力のかけられた方の母国語に、この世界の言葉がきこえるようになってしまったそうですわ」

 相槌をうって、ナオ様は真剣に聞きますわ。わたくしはそれから少し自慢げに話しました。

「ですから召喚者様同士が協力し合い、お互いの言語を教えあい、その言葉の壁を乗り越えて、お二人はとても仲よくなって盟友の誓いの再契約を終えて元の世界へと帰ったといいます」
「め、めっちゃ良い話ですね」
「ええ、そうですわよね。そしてわたくしたちはその子孫として、その時の神のお力を受けられなかった方の文字を異世界文字と呼び、またいらっしゃった召喚者様とコミュニケーションを取れるように、彼女たちの遺品から学んでいたのです」

 わたくしの言葉に感心したように声を上げるナオ様に、わたくしは、その異世界文字での”こんにちわ”と口に出して言ってみると彼は「ワワッカワイイ!」などと声を上げて喜んでくださいました。

 それからナオ様はわたくしに他の異世界文字も沢山見せてくださって楽しい時間を過ごしました。しかし途中で隣の、サラお姉さまのいる部屋から大きな物音が聞こえてわたくしは急いでお別れの挨拶をしてお部屋の前でお姉さまの事を待つのでした。

 サラお姉さまを待っていたその時間についつい、考えてしまいます。ナオ様は思ったよりもずっと良い人で、わたくしは心がぐっと締め付けられるような心地になりました。それでも出来ることは無いのだからと自身を納得させるのでした。




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