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召喚者塔 1 

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宴が終わって、俺の部屋にやってきたのは二人の姫とアルベリクだ。彼らは割と仲がよさそうな距離感をしていて、そしてとても安堵しているようだった。

 部屋へと招き入れると、彼ら自身が連れてきたメイドにホテルのアフタヌーンティーみたいな小さな菓子の盛り合わせをださせて、俺はそれを一応肴にワインを飲んでみたが合わない事だけは確かだった。

 今はナオは呼んでいない。一連の話を隣で聞いていた彼はお姫様に会いたいからという理由で呼んでほしそうにアピールしてきたが、俺相手にわがままを言う気にはなれなかったようで素直に自分の部屋へと戻っていった。

「リヒト殿、宴の席であれほど、強引な態度をとってしまったこと、まずは深くお詫びいたします」
「……それはいいから早くそうなった原因を教えて欲しい」

 ワインを傾けながら二人の姫の間に座るアルベリクにそう言う。しかし、姫のうちの一人は俺の事が怖いらしく、強張った顔をしてアルベリクの服の裾を強くつかんでいた。

 聞きつつも俺は一応、宴を終えてから今までの間にルシアンから聞いた話によって、それなりに事情を理解はしているつもりだ。

「はい。まずは、本来なら召喚者殿には開示しない情報なのですが……宴の間にこの国……いえ、我々王族は、召喚者殿の血を引いた子供を手に入れることが、慣習になっています」
「酒に酔わせて女を抱かせると」
「仰る通りです。毎回そのように……」

 俺が直球に言うと彼は、ばつが悪そうに言葉を尻すぼみにして濁した。

「しかし、それにはきちんと目的があります。召喚者殿の持っている契約魔法それを王族の血筋に入れて、より、この国へと貢献するために我々も動いています」
「それは、まあ。子供を産ませるようなことをした責任をとれと言われるよりもましだが……あまり気分のいい話ではないな。そんなだまし討ちみたいな方法」
「はい、承知しております」

 俺の言葉を彼は真摯に受け止めて、膝の上で拳を握る。

 そういいはしたが、別に想定はしていた事態だ。それに俺たちはそれを回避できている、今回は無かったことをどうこう言うつもりもない。

 それに、ルシアンから教えられたことだが、親の魔法が子に大方、遺伝するらしく、その希少な才能を持った子供は不幸ではないだろう。産む側の女性が望んでさえいれば。

 だからそれについてどうこう言うつもりもそんな熱量もない、惰性と常識で口にしているだけだ。しかし、アルベリクは重くとらえているようで、しばらくは続きをしゃべらかなった。

 なので面倒になって俺から言う。

「それで?女性が、召喚者に特別な接待をする意味は理解したが、何故それを君がわざわざ俺にいうのかな」
「はい。……本来であれば、召喚者殿のお相手となる姫君の選定や、その力がほかの者へと渡らないように総括しているのは兄上です。しかし、此度はその慣習を行えなかったゆえに、兄上はどこの誰の派閥にもその力を会得させない事を選びました」
「そうなのか、俺には派閥だとか、そういうことはまったくわからないが」
「王族や国の貴族も一枚岩ではなく別れているという事だけを知っていてくださっていれば構いません」
「分かった」
「……なので本来は、このような行為は兄上の意思には反します。ですから、直接リヒト殿と約束を取り付ける必要があったのです。たとえ貴族たちから品格が足りないと言われようとも」

 ……ああ、なるほど。品格が足りないとか、そういう風に彼がなじられるから、ルシアンやリシャールが彼が跪くのを止めていたのか。

 それに、突撃してきた理由も理解できた。そしてそれは俺には不利益がない話だということも理解ができる。そして相手が切羽詰まっているらしいことも。

「……大方は理解した。しかし、俺は、流石に無責任に抱いたりは出来ないけどいいかな」
「構いません。今日この夜に、二人がこの部屋にいたという事実があれば問題ありません」
「へぇ」
 
 それもまた不思議な話でそれでどう彼女たちに利益があるのかわからなかったが、ここから先は本人たちにでも聞いてみたらいいだろう。

「分かったよ。でもアルベリク、これだけは覚えててくれ。君は貸一つだよ」
「貸し……ですか」
「ああ、心にとめておいて」
「はい」
「では年上の方が残って、後はアルベリクと一緒に帰ってくれな」

 俺はなんとなく個人を指名するのではなく、年上の方と抽象的に言った。そうするとアルベリクと彼にくっついている、丁度今の俺と同じぐらいの年齢に見える姫の方が、その黒髪を揺らして思い切って立ち上がる。

 それからガタンと机に手をついて、大きな碧眼を俺に向けて涙目で口を開く。

「っ、どうか、どうかわたくしにもチャンスをくださいませっ!!」

 そう、大きな声を出した。彼女は見た目にたがわず、とても高く女性らしい声をしていてキーンと耳に響く。
 
 宴会場で見た女性たちより若干控えめなドレスだが、それでも俺の感覚からすると可愛く着飾った女の子に怒鳴られたのだ。それはもちろん驚くし、わ、わたくし……と頭の中で復唱してしまう。

「わたくしも、ナオ様の元へ赴く許可をいただけませんのっ?ど、どうしてもだめですの?ただ、楽しくお話をして、急にこちらにいらっしゃった召喚者様に癒しを与えたいだけですの」

 ……ですの……?

 そのとてもかわいい日本人と同系統の顔をしている彼女がお嬢様みたいな言葉を紡ぐのが不思議で、彼女をじっと見た。そうすると、アルベリクがすぐにガシッと彼女の肩を掴んでぐっと自分の方へと彼女を引き戻す。

 それから彼女を庇うように怯えた目で俺を見た。

 それにその後ろに下げられた彼女もやってしまったとばかりに顔を青くさせていて、残るはずだった姫も「申し訳ありません」と謝りながら俺に怒鳴った姫の前へと出る。

 …………俺ってそんな凶暴に見えるのかな?

 なんだか、さすがにショックで、それでもルシアンやリシャール、ナオも、宴の時のアリスティド達もそんな風な態度を一度も取らなかったのにと不思議に思う。それとも、そう見えるが我慢してくれているのだろうか。

 そう思うと少し傷つく、流石に俺でも。

「ぶ、無礼を詫びます、リヒト殿」

 ひねり出すように、アルベリクはそう言いじりっと距離を取った。彼はとてもえらい立場であるはずなのに、そんなにやすやす謝罪をしていいものかと疑問はあったが気軽に話を出来る空気でもないだろうと思った。

 だから出来るだけ気さくに見えるように口を開いて笑顔を作って「ナオに聞いてみてくれな」と無責任なことを言った。しかしその笑顔は逆効果だったらしく、そのまま俺に背を向けることなく野生の熊から逃げるようにアルベリクと、お嬢様言葉の姫は去っていった。

 しかし、可哀想なのはその場に残る羽目になったもう一人の姫だ。彼女は先程の姫と同じ深い藍色のドレスを着ていてその色は瞳に合わせているのだと思う。

 顔つきは日本にもいそうな綺麗な人というイメージだろうか。そう、日本にも居そうなのだ。彼女は少し西洋らしき血筋が感じられるがきっと着物がよく似合うだろうと思う。

 直毛の真っ黒な黒檀のような髪を一つに結い上げている。
 
 それに、特筆すべき点はもう一つ。姫なのに剣をぶら下げている。護身用にしては大きすぎるサイズのように思えるが、女性の体でそのサイズの剣が振れるのだろうか。




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