異世界召喚されて吸血鬼になったらしく、あげく元の世界に帰れそうにないんだが……人間らしく暮らしたい。

ぽんぽこ狸

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事後 5

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 その部屋は先程まで俺がいた部屋と同じようなつくりをしていて、ベットの上には、もがくように動いているナオの姿があった。すぐに異常を感じて部屋の中に入り、駆け寄ると彼はうつろな瞳をしながら、苦しそうに喉を押さえていて、その黒髪を掛け布団に押し付けながら苦しみにもだえる様な仕草をした。

 しかし荒いが呼吸はきちんとできているようで、なにかがのどに詰まっているというわけでも、アレルギー反応で呼吸困難に陥っているというわけでもなさそうだ。

 そしてしきりに右腕を強く自分の体へと引き寄せる様な行動をとっている。自然とその手に視線を移すと鉄製の鎖がナオの右手からベットの下へと伸びていた。

「っ、な」

 なぜこんなものをつけているのかまったくわからなくて、一瞬、頭が混乱する。しかし、それ自体は要因ではあっても直接の原因ではないとは理解が出来る。今、彼が苦しんでいるのはこんなものが付いているからではないだろう、もっと実害的な原因があるはずだ。

「なんでこんなことになってるのか、教えてくれ」
「わ、分からないんだよ。起きたら急に、悲鳴を上げて泣き出して、慰めようとしたら変に呼吸を荒くし始めて……」

 困惑した表情でそういうリシャールは、本当になぜ彼が苦しんでいるのかを理解できていないようで、耳を伏せさせて心配そうにナオの事を見る。

 ……呼吸?

 言われて蹲っているナオに手を伸ばすと、彼は荒く呼吸を繰り返している。そしてやっと、俺は合点がいく。何かのきっかけで過呼吸を起こしてしまっているのだろう。

 過呼吸は誰にでも起こりうる症状だ、自分がもしそうなっても慌ててはいけない、そして回りもパニックにならないように努めて冷静に対処する必要がある。

 きっと彼はまだ若い、そんなことも知らなかったのだろう。

「ナオ、ナオ、聞こえてるかな?リシャールはこれを取ってくれるか?少々邪魔だ」
「……それは……できないよ」

 ナオに声を掛けつつも、彼の腕についている気分の悪くなるような物をリシャールに外すように要求するが、それをリシャールは突っぱねる。そんな彼の言葉に少し……いや、だいぶ、気分が悪くなるが気にせずに、手を伸ばした。

 それからナオの背を撫でて、ベットに乗り上げて彼が蹲っている体勢に寄り添うようにして、体を寄せる。

 はっ、はっ、と犬が体温を下げるときのように、短くひたすらに息を吸っている彼の呼吸音を聞きながらゆっくりと背中をさすった。

 途中、ナオと目が合ったような気がして、俺から少し離れようと身を引く、けれども離れないように身を寄せる。それからナオから続いている鎖を手に取った。鉄製の物で玩具ではなく本物だ。硬くて、冷たくて、こんなもので人間の動きを制限していると思うと嫌悪感しかわかない。

 その嫌悪感に任せて鎖を強く握れば、ギンッと音を立てて鎖が飛び散ってちぎれる。

 背後から従者二人の息を飲むような声が聞こえてきて、これはどうやら本当に人間離れしているような気がしたが、今はそれどころじゃ無い。

「ナオ、大丈夫だ。どうしたんだ?そんなに急いで呼吸して、辛いだろう。ゆっくり吸って吐いていい、君が楽になるまで側にいる」
「はっ、はっ、はぁっ、あっ、っ~、っゔ、はぁっ」
「苦しいな。でも大丈夫だ、ナオ。俺が君の安全を保障する、安心してほしい、ナオ。怖いことは無いよ、まずはゆっくり吐いてみて」
「っ、っ~、あっ、はぁ、はっーぁ」
「そう、えらいな。上手いよ」

 俺の言葉に彼は素直に従って、苦しさからか涙をあふれさせながら必死に息を吐く、そしてクズっと鼻を鳴らして泣いた。それはどうにも可哀想で彼はまだ高校生だというのに、こんなにも若い子供にこんな思いをさせるのは不憫だと思いながらも俺は、彼の背中を摩って声を掛けた。

 その間に従者二人には、彼の視界からはけるようにとジェスチャーで伝えて、彼らは部屋から出ていく。そして二人きりになり、小さく蹲る彼の頭を撫でて、つけっぱなしになっていたヘアピンを取ってやり、胸元のボタンを開けてベルトを引き抜いた。

 それが終わるころには彼は、またすっかりと眠りに落ちていて、最後に泣いたせいでぐしゃぐしゃになった顔をルシアンが俺のポケットに入れたと思われるハンカチでぬつぐってやって、ベットから降りる。

 それから、部屋のカーテンをきっちり閉めて部屋を出た。

 ルシアンとリシャールは部屋の前の廊下で二人そろって待機しており、そのまま彼らを引き連れて、リシャールにさらに詳細な彼のストレスになっていそうなことを部屋で聞く流れになった。




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