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人外 2
しおりを挟む「っ……じ、自分は、たしかに、召喚者である君たちからすれば信用ならないかもしれない、でも━━━━
「あ!そうだ」
彼の言い訳も聞く気がなく、俺は彼を見上げた。彼は剣を持っているし丁度いいだろう。
「ルシアン。髪を切ってくれないかな」
見上げた彼はまた目を見開いてぽかんとした。それから、パチパチと瞬きする。
「い、いま、なんと?」
「だから、髪だよ。髪を切ってほしい、長ったらしくて重たいから、適当に切ってくれ」
「……、……」
「なんだ、出来ない?それならハサミを貸して、自分で切るから」
言いながら立ち上がろうとすると「できるっ」と彼が咄嗟に大きな声を出す、それから、俺の肩を抑えて座り直させた。
「し、しかし、君のような鬼族は人間に傷つけられる行為など、ありえないと思わないのか?」
「傷つける?髪を体の一部とか考えるそういう宗教? 俺はそういうの無いから気にしなくていいんだけどな」
「そ、そういう話ではない。ただ、その、プライドがゆるさないのでは……と」
彼は真剣そうにそういう。しかし、俺は髪を切られることで折れるプライドなんかないので、ただただ彼の言っていることは不可解でしかない。けれども、もしかするとこちらでは、当たり前の価値観なのかもしれないので、一応は意味が分からないと一蹴するのではなく、俺の肩を抑えている手をやんわりどかしつつ、自分の気持ちを口に出す。
「別に髪を切られたところで折れる様なプライドなんて持ってないから気にしないでくれよ。出来るならさっさとそうしてくれ」
「……あ、後から、何か言われても責任取れないぞ」
「いい、髪なんてすぐに伸びるだろ」
言ってもさらに不安そうにそういう彼に、俺は面倒くささをかんじつつ、背後を向けた。
すると、カシャと鉄の擦れる音がする。やってくれる気になったのかと安心すると軽く髪を持ち上げられた。
「こんな美しい髪を切り捨てるなんて自分にはいつか罰が当たるな」
「は?」
「動かないでくれ」
気持ちの悪い発言に、振り返ろうとすると、そう言われて一瞬動きを止める。その間に、風切り音と微細な振動が伝わって、それからパサリと髪が広がる。丁度顎の位置にさらりとした銀髪が落ちてきて視界に入った。
「均等に切ってある。気に入らなければ理髪師を呼んで望むようにしてもらってくれ、リヒト」
「……」
当たり前のようにそういう彼に俺は、自分の想像と現実のギャップに心底驚いた。俺はてっきりその大きな剣で地味にザリザリと髪を切り落とすのだと思っていたが、実際は一太刀ですっぱりと自分はボブヘアへと早がわりだ。そして頭が軽い。
項がスースーしているように感じて数時間だけでも連れ添った髪が無くなると妙な心地がするのだった。
「リヒト?どうかしたか」
「……いや。……別に」
実際はその剣技に感動していたのだが、ルシアンは俺の味方ではない。気さくに接するべきではない以上、褒めて仲良くなる必要もなければ、むしろその行為は悪い状況を生み出しかねない。
「髪は適当に捨てといてくれな。……しかしなんでこんな色なんだ?目もそうだが、気持ち悪いな」
「……元からではないのか? リヒトはナオの年齢を間違えたり、なんだか鬼族らしくない」
「元からなわけないだろ。俺は人間だし、鬼族って言われてもまったく実感もわかないよ」
「鬼族ではない?……そんなことがあるはず……だって、そのリヒトの気持ち悪いといった髪も目も……」
言い淀んで彼は、俺の前へと回ってきて、それから片膝をついて俺を見上げる位置でいう。
「純血の吸血鬼しか持たない、特徴のはずだが」
「……ん?」
聞き捨てならない言葉が出てきた気がするが、聞き返す前に、部屋にノックの音が響く。
そうして召喚者歓迎のパーティーの開始を告げられるのだった。
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