異世界召喚されて吸血鬼になったらしく、あげく元の世界に帰れそうにないんだが……人間らしく暮らしたい。

ぽんぽこ狸

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「……とりあえず、君も座ったらどうかな」

 ナオたちを見送ったまま、目の前で突っ立っているルシアンに、俺はそう声を掛けた。彼は、俺の方につくことになったのが嫌なのか、不服そうな表情のまま、それでも俺に言われた通りに今までナオが座っていた場所に腰かける。

 それから、俺の方に体を向けて、きちんと目を合わせて口を開いた。

「リヒトと呼ばせてもらっても構わないか?」
「ああ、いいよ。君はルシアンだな。これからよろしく」
「よろしく頼む」

 短くそう交わして、それからまた無言になる。しかし、彼は、意を決したとばかりに表情を険しくして、今にでも襲い掛かってきそうな顔をした。

「自分が君につくとこになってしまって、すまない。俺のようなものはリヒトにとっては若輩もいいところだろう。本来なら、リシャールはリヒトに、人間であるナオの方に俺が付く予定だったのだが……」
「……別に、従者に年齢とか関係あるのかな?俺にはよくわからないが、俺はナオの方が心配だな。リシャールはなんだか、押しが強いみたいだし」

 襲い掛かってきそうと思った彼の顔はただの申し訳ない顔だったらしく、強面なのも考えものだと思う。それに意外なことに自己評価がひくい。そんな風にへりくだらなくても俺は簡単にキレたりは……あ、いや。

 彼からはそういうきつい人間だと思われていても仕方がないのかもしれない。

 まだ、年端もいかない青年に、こんな年増の男がキレているのを見たら怒りっぽい人間なのだと思うだろう。しかし、それを口だけで訂正するのは、それはそれで逆効果だと思うので口には出さない。

「リシャールか……安心してほしい、あいつはあれでいて根はいいやつだ。少し、余計なことを言うが」
「そうなのかな。まあいいか。ナオも男だしな大丈夫だろ。……それで話は変わるが、一つ聞いてもいいかな」
「なんでも聞いてくれ」

 俺が、神妙な顔をしてそう問いかけると彼も同じように、トーンを合わせて返してくる。会話のテンポというか質感というか、たしかにリシャールが言っていたように彼とはなんとなく波長が合っているような気がした。

「君たちはいったい何の目的でそれぞれに俺らに従者としてつくのかな?」
「……なんの、とは」
「例えば護衛だとか、でもそれならなにから守るというのかなと気になってな。それ以外だと、同性の友人のように接する相手がいた方がこの世界に馴染みやすいからとか、ういう理由かな」
「それは、多分そのどちらも、だと……聞かされている」
「へえ、じゃあ君は俺と友情を育んだり、守ったりしてくれるわけだ」
「ああ、そのつもりだ。自分のような、”人間”で申し訳はないが」

 確認するように聞き返すと彼はまた、自分のような人間で申し訳ないと口にする。

 もしかすると、これは自分を卑下しているのではなく、”人間”という種族で申し訳ないと言っているのだろうか。なにか俺は鬼族らしいし、元はリシャールが俺の従者になる予定だったようなので種族によって、相性などがあったりするのかもしれない。

 とそんな疑問も浮かんだが今はそれよりも、聞きたいのは別の事だ。

「そこに、君たちが俺らを逃がさないという、目的は不随していないってことだな?」

 俺は笑顔を作って聞いた。さも当たり前みたいにそう聞くと、ルシアンは一瞬理解できないというように、ぱっと目を見開き、それからがたっと席を立つ。

 その反応だけで、答えは明白だ。そして彼は嘘が下手らしい。

「理解した。ナオにも気を付けるように言わないとな。君の事は信用しない。あまり、気さくに話しかけないでくれな」
「っ、なっなぜ、その事を……」

 俺が突き放すようにそういうと、彼は、焦ったように狼狽しながら俺がなぜそのことを知っていたのかというように聞いてくる。ただカマを掛けただけなのに、そんな反応まで返されるとうまくいきすぎて逆に怖いぐらいだ。

「さあ、教える義理は無いな。ルシアン」
「……、……」

 そういうと彼は、難しい顔をして俺の事をにらみつける。もしかすると考え事をしているだけかもしれないが、元から怖い顔つきをしているので、どうしてもそう感じてしまう。

 しかしとにかくこれで、この世界の人間は信用ならないとわかった。これからどんな人間と出会っても、なにを言われても疑ってかかろう。




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