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召喚者 5

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 次の部屋ではドレッサーの前に座らされて、ずらりと並んだ指輪や宝石を見せられる。

 どうやらドレスアップの部屋その二らしい。

「お好きなものをつけていただいて構いません。少々身なりを整えさせていただきます」

 そう言われて、髪に櫛を通される。そんなことをする前にバッサリ切ってしまいたいのだがそうも言っていられないだろう。

 丁寧に腰まである長い髪を梳かれていくのを眺めつつ宝石のついたネクタイピンのような物を二つ手に取って適当なポケットにつける。それから大きな宝石のついたネックレスを服の中にいくつかつけた。

 隣に座って同じように髪を整えられている彼も、それを見ていてなぜか真似するように俺と同じ行動をした。どうやら、俺に倣って行動するつもりらしい。それはいいが、彼も俺と同じかそれ以上の歳のはずだろう。それなのに、こんな行動の意味すら理解していないなんてよっぽど社会性の無いやつに違いない。

 そう考えながら、目の前の鏡を見る。そこに移っているのは白髪の美少年だった。

 どうやら、これが俺らしい。恐ろしい事に。

 この顔を見ればメイドがこんな服を着せてきたのも理解ができるし、なによりこの真っ赤な瞳。これを見てきっと彼は俺の事をアルビノかといったのだろう。

 俺も今そう思っているところだし。

「……なあ、君、名前は?」
「エッ、ア、ぼく?!ぼぼくは、楠本 直央です」
「そうか、ナオ。君はもう少し、思慮深い方がいいな。よく考えて行動しろ」
「え、ハイ」
「……」
「……」

 返事をした彼は、いまだに髪をセットしてもらいながらもそわそわとしていて、しきりに自分の体に触れたり落ち着かないように口元に手を当てたりしている。

 そんな行動を見ながら、いざという時にも頼りにはならなさそうだなと、考えた。

 自分の体がこんな風に中学生ほどの少年になってしまっているのだから、それよりも年上の外見をしているナオは、俺の元の年齢よりもさらに年上のはずで、彼の事を頼ることもできるかもしれないと思ったが、どうにも頼りない。

 俺があの歳で、こちらに来て少年になってしまっているのだから、彼の方も、ここに来る前には俺と同じかそれ以上の歳でここまで若返って、愛嬌のある姿になっているのだろう。

 そのはずなのに、どうにも中身が幼い。ただでさえ不確定な事項が多くて不気味なことばかりだというのに、これでは協力などとは言っていられない。

 ……仕方ない、あの英文の事は伝えずに俺だけで、考えるか。

 そう決断を下して、考えるといってももうすでに答えは出ているのと変わりがないのだと、考え直した。

「……」

 目の前にいる鏡の中の自分を見つめて考える。俺らは召喚者と呼ばれている。決まっているようにこの部屋へと案内されて、召喚者のためだけらしき部屋がいくつもあり、当たり前の事のように受け入れられている。

 つまりは、何度もそれが呼ばれている可能性が高い。俺たち以前にもそれがいたことは確かだろう。そしてそれがどこの国からきているかは、決まっていなくて、けれども俺たちと同じ世界からきているとしよう。そうすると、日本語をあやっつているらしいこのアウローラの国で、英文をあんな場所にかける人物というのは相場が決まっているだろう。

 ほんのミクロな可能性として、この世界にはこの国以外の国があり、その国が英語を使っていて、そしてたまたまその国の布があそこに使われていたという可能性もあるが、そうではないだろう。

 きっとあれはあそこで書かれた。

 召喚者なら多くの人間がわかる言葉で、召喚者にしか見えないような位置に書かれた。

 ……十中八九、なにかある。嘘と逃げ出さなければならないような事情がある。そう思った方がいいな。

「あっ、見てくださいこの指輪!!中の模様が動いてるっ!!!」

 そのはずなのに、これまた無邪気な声が懲りずに聞こえてきて、俺ははあっとため息をついた。ナオはどうやら能天気な人間らしい。こういう人間も若いうちは会社に溶け込めるが俺よりも年上となると倦厭されがちだ。

 だからこそ若くなってはしゃいでいるのか、ただ単にずっとこうなのか、分からないが、一つため息をついて「気になるならつけていったらいいじゃないか」と適当を言った。

 そうするとナオは、くるっとこっちに向いて言う。

「ここんな大きな宝石の指輪なんていくらするのか怖くて持てないですよぉ」
「……」

 ……やっぱりさっきの行動、意図を理解してなかったんだな。

 それを理解して、説明してやろうかとも思ったが、そういうわけにもいかずに、頭のなかだけで答えを考える。

 ……今、俺たちは無一文だ。なんでも金目のものは持っておいた方がいい。だから、あまり豪華ではない装飾のピン以外は服の中に入れた。……ナオはもしかして、一人暮らしでお金に困った事とかないんだろうか。

 一応俺には、似たような経験がある。いいこととは言えないがいい経験ではあった。おかげで金がないと社会で生きていくのには苦労すると実感できたしな。

 そんなことを考えている間にも、髪は上品にセットされて、頬の血色をよくするためにかなぜかパウダーを振られる。

 たしかに俺の肌色はなんだか青ざめていて、色白というよりも青白いといった方がしっくりくるような肌をしている。しかしながら、化粧なんて流石に嫌だ。

 やめてほしいという意味を込めて、すまし顔で、ブラシを動かすメイドを見睨むと、「ヒィ」なんて小さな悲鳴を上げて、化粧品を落として去っていく。

 ……そんな反応しなくてもいいじゃないか。大げさだな。

 メイドというのは人の要望を聞いたり色々と気を回すことの多い職業のはずなのに、どうして、悲鳴をあげられて逃げられたら誰だって傷つくことに思考が回らないのだろう。

 そんな風に心のなかだけで責めていると、ふわついた髪を少し、抑え気味にセットされたナオがすぐそばまでやってきてそれから、俺の手を引いていう。

「まあまあ、そんな怒らずに!!さ、次の部屋にいきましょっ」
「……いちいち、手を握るな。子供じゃあるまいし」
「……こ、子供でしょ???」
「違う」
「エ、エー??あ、分かった。強がっちゃって、だ、ダイジョブですよ!!僕なろう系には詳しいんですから!!」
「……」

 自信満々にそういう彼に、俺はイラつきながら手を振り払って、また次の部屋へとメイドたちに案内されて進んでいった。

 その途中で世話係らしいメイドたちは俺たちが入る部屋とは分岐して、去っていく。残ったのは護衛役らしき二人の男だ。




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