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召喚者 4
しおりを挟む先程のホールのような部屋を、王族だと名乗った彼らとは違うルートで外に出る。そうするとまずは、通路の一番手前の部屋へと入って、そこでは、濡れた布で体をぬぐわれた。
目が覚めた当初から時間も経っている、べったりとついていた血液は渇いてパリパリになっていた。なぜ自分にだけ、血が付いていて同じ召喚者の彼にそれが付いていないのかはわからなかったが、聞くこともなくそのまま次の部屋へと通される。
そこには様々な種類の衣類が置かれていて、好きに選ぶように言われるが俺はそんな気もなく、メイドの言葉を無視して合う物を持ってきてもらった。
「ぼ、僕はこの黒いのにしますっ!!やっぱりなろうものはこうでなきゃですねっ」
「……」
「さ、先に着替えてきまぁす」
そう言って彼は更衣室に入る。更衣室と言ってもデパートの試着室のようにカーテンで区切られた空間があるだけだ。
それに今更、裸体を隠す必要性を感じなかったが、彼がそうするのならと俺も空いている方の更衣室に入る。日本と同じように中に鏡があるというわけではなく、ただ人ひとりが着替えるのに丁度良いような、空間があるだけだ。
「サイズ交換などございましたらお声掛けくださいませ」
「は、は~い」
「……」
カーテンの向こう側から柔らかいメイドの声が聞こえてくる。俺は選んでもらった服を眺めた。どれもこれも高級そうな生地で作られていて、肌触りの良い裏地をしている。
「……」
それに男の服であるはずなのに金の刺繍や、華やかなレースなんかもあしらわれていてなんだか馴染みがない装いだ。俺の服のさし色は青色をベースにしているらしく、ところどころに青の色合いが使われている。
……悪くはないが……華やかすぎるというか……しかし俺のセンスがこちらでは悪いのかもしれないし……。
そうは思ってもどうしても着ることに抵抗がある。こんな服は今までの人生で一度も着たことがない。
……。
一言で言ってしまえば、子供っぽい。しかし作りがいいためか、ブランドの子供服という感じだが、俺が着るとコスプレだろう。
襟にレースが付いたシャツ、ひざ丈のハーフパンツ、それにふくらはぎまである靴下。
これはどう見ても俺のようなおっさんのする格好ではない、どう考えても変態だ。それでも、こちらの人たちが選んだものなのだから、簡単に否とは言えない。
自分で選んでおけばよかったという後悔と、しかし、逆に考えれば自分で選んで服のセンスがないと言われるよりも、こちらの人間が選んだものを素直に着て、変だと言われることの方が精神的ダメージが少なくないだろうか。
そんな風に考えれば、この服を無心で着るのも悪くないような気がしてきた。
「……仕方ないか」
わざわざ口に出してそういって、シャツにそでを通す。案の定肌触りもなめらかで着心地はわるくない。それでも座りが悪く感じるのは、自分が意識過剰なのだろう。
考えつつも短い手足で時間がかかりながらも服を着ていく、まったく体の寸法が違うとうまくものを掴めない。それだけではなく靴下をはくのだって一苦労だ。
片方を立ったまま履いてみて、あきらめてきちんと座って足に靴下を履かせる。下を向くと髪が落ちてきて、不愉快で邪魔である。これも早々に切ってもらわなければ。
乱暴に髪を後ろに払いながら靴下を履き終えて立ち上がろうとすると、目の前のカーテンに何やら小さな文字が見えた。
そこは、こうして床に座らなければ見えないような位置であり、走り書きの英語のようだった。
『It was a lie‼ The all. Please get away』
……うそだった。すべて、逃げて……ください?
「……いったい誰に向けて……?っていうかなんだこれ、物騒な」
そう口に出しつつ、英文を指でなぞる。乱れた文章でこんな場所に書かれているだなんてどういった状況だったのだろう。
例えば、誰かに騙されて働かされている工業労働者のような人物がいてその人が労働環境の改善と助けを求めるために……っていうなら助けて、という文章を書くだろう。
となれば同じ状況になりそうな人物に対してのメッセージか何かだろうか。
それが誰にも気がつかれずにこんな場所にあっては、目的を果たせないだろう。こんな、おそらく俺か同じ召喚者の彼以外が見ることがない場所に書かれているだなんて……。
「いや、ああ、それが目的かな?」
嫌な考えがひらめく、しかし随分ありがちなヒントな気がして、果たしてこの文が俺たちに向けられたものかどうかは、断言できなかった。
分からない事を考えても仕方がない、俺はさっさと靴下を履いて、カーテンを開く。そうすると目の前には少しヒールのついているショートブーツが置いてあってこれまた、履くのに抵抗のある品物だったが仕方がない。
「お似合いでございます。召喚者さま。お次の部屋に参りましょう」
「ああ」
言われて、すでに着替え終わっている彼と同時に部屋を出る。彼は、あまり似合っていない黒いコートを着ていて、服に思いきり着られている。
「あっ、あーせっかく待ってたのに!!何にも言わないで行かないくださいよ!!」
「……」
「ってか、かわいいー!!ほ、ほんとに日本人??!!ハーフですかぁ?」
「……」
「それとも、もももしかしてアルビノってやつですか、肌とか真っ白」
「…………そういう」
彼は俺の隣を歩きながらワイワイと騒ぎ立てる。どう考えても今はそういう浮かれた行動をしている暇はないはずだ。
「え?」
「そういうセンシティブな話題を人前でペラペラと話すようなことはしない。誰も彼もが自分の生まれにコンプレックスがないわけではないだろう、君も、場所と話題は考えた方がいいと俺は思うな」
「……ア、う……」
睨みつけるようにして言うと、彼は、一瞬とても戸惑ったような顔をしてそれから、顔を赤くする。指摘してもぐいぐいとくるようなタイプではなかったらしく、赤ん坊の喃語のような言葉を発して、立ち止まる。
「それから、そのコート、君に似合ってない。さして寒くもないのに、着こんだりしてTPOぐらいはわきまえたらどうかな」
「……っ」
さらに指摘すると彼は、俯き、そしてその野暮ったいコートを脱いだ。彼が自ら選んだのはそれだけだったようで、中身は普通に少々飾り気の多い清潔感のあるゆるりとしたシャツに上品な色合いのスラックスだった。
もしこれにコートを羽織るのだとしても、彼の為にあつらえられた体の線に沿ったものがいいだろう。俺にだってそのぐらいの美的センスはある。
「っ、……ナ、ナニそんな、おお、怒んなくてもいいじゃぁん!!」
「……怒ってはいないただ、気になった部分を指摘しただけだ」
「そっ、そおだよねぇ、怒ってないですよねえ!!」
「うるさい。君はもう少し静かに話をできないのかな」
「エ、スミマセ」
何故か頑なに楽し気にしている彼に対して、俺は若干イラつきのようなものを感じつつ、次の部屋へと到着する。
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