29 / 42
29
しおりを挟むミオとデリックを隣り合わせで座らせて、ダイアナは一人で向かいに座って厳しい顔で、二人を見ていた。
「はぁ、お姉さまとお兄さまを凄く心配させてしまったわね。それに、あの惨状を直すために色々とお金も労力も必要になると思うわ。後できちんと三人で謝りに行くわよ」
「……うん」
「わかってるってそんなの」
しょんぼりとしているミオと、隣ではデリックがつんとした態度でそんな風に言う。その態度にまたミオはイラついて、隣にいるデリックをに睨んだ。
「だからそれ止めてってば! 変な感じがするから!」
少し睨んだだけなのにデリックは過剰に反応してミオを責めるように見る。何もしていないのにそんな風に言われるとミオだって当たり前のことだが傷つく。
さっきもそういわれて、イライラして岩石がキリキリと膨らんでしまい、デリックも何故だか狼の姿になって喧嘩になってしまった。
「何もしてないって、言ってるじゃない! 何よ、私の事嫌いなら嫌いっていえばいいのに! 遠回しに言って嫌がらせつもり?!」
「だから違うって、ミオは普通の人と違う感じがしてぞわぞわするんだって」
「気持ち悪いって言いたいの!?」
堪らず声を荒げるとまた、勝手に魔法が発動してイライラするたびに岩石が大きくなってしまう。
二人が睨み合ってまた喧嘩を始めようとすると、目の前にいるダイアナがパンッと手を打って、いい加減にしろとばかりにイーディスによく似た紫色の瞳をぎろりとこちらに向ける。
「……止めて。二人とも」
その瞳に睨まれるとデリックもミオも弱くて黙り込んでダイアナの事を伺った。
彼女はイーディスよりも、怒りっぽくて怖い。ミオたちよりも一つ年上というのもあるのだが、それ以上にすごく真面目なのであまり言う事を無視していると怒らせてしまう。
ただでさえ先程の件で怒りを買っているのに、これ以上怒らせるのは得策ではない。
「まずはミオ、怒るのは構わないけれど会話が出来なくなるからその魔法をやめないといけないわ」
きっぱりと言われてこういう所もイーディスとダイアナが違う所だと思う。
「だってそれでは相手を威嚇しているようだもの! 誰だって怖くなるわ」
「……それは、その」
「これから止めるようにしてくれる?」
言われてから、ミオは視線を泳がせた。今まで、一緒に暮らしていて良く接するイーディスに言われなかったので何も言わなかったのだが、魔法が勝手に出てしまうのは無意識なのだ。
だから早く魔法の実戦をダイアナから教えてもらえれば、なくなるかもと思って今日の授業をお願いした経緯がある。それにデリックまでついてくるのは誤算だった。
「そうだ、そうだ!」
「デリック……黙って」
「……はい」
隣から野次を飛ばしたデリックに、ダイアナはものすごく威圧的に言って黙らせた。彼は初めて会った時はあんなにビクビク怯えていたのに、段々と話をできるようになってからは、ずっとあんな調子でミオに文句を言ってくる。
トラウマが改善してきているからいい事だと、イーディスはのほほんとしているがこんな風に意地悪を言うのなら、ずっとびくびくしていた方が良かったなんて思う。
それを口に出したら、さっきみたいな喧嘩に発展してしまったのだが。
「できないなら、あたしは魔法の事なんて一切教えないわ。ミオ、それだけ危ないものなのよ、特にミオやあたしの魔法はね」
「……」
真剣にそういわれて、ダイアナのこういうきちんと言ってくれるところをミオも好きだと思うし、彼女が折れないタイプだということも知っている。
「……実は……制御できないの」
だからこそ、呆れられてしまうかもしれないと思いつつも口にした。彼女なら馬鹿にしたりしないと思ったから。
すると、ダイアナは目を見開いてから、少し眉を寄せて考えた。その隙にデリックが言う。
「それってすごい危ないじゃんか!」
「うるさいわね! だからどうにかするために魔法を教えてもらおうとしてるんじゃない!」
「うわっ、っ、ど、怒鳴らないで!」
大きな声を出すとデリックは怯えた様子で声を震わせる。そうなってしまうと流石にこれ以上言うことは出来なくて、黙ってジトっと彼を見る。
声も出せないぐらい怯えて泣いているところを知っているとあまり強く出られない。その分イラついて、キリキリと音を立てて、魔法が発動する。
「ぅうっ、き、気持ち悪いっ」
「な、何よ!」
頭を抑えて肩をすくめながら、デリックはそう言って、それにミオはカッとなってまた怒鳴った。しかしパンッと手を叩く音がして目線を移動するとダイアナが難しい顔のままこちらを見ている。
怒っているというのはわかるけど、ミオだってデリックに怒っている。
……だって流石に気持ち悪いはないでしょ!?
「ミオ、わかったわ。そういう事なら対処法はあるわ。魔力の扱いになれない小さな子供にありがちな事よ。後で私の部屋にきて、魔力の制御を教えてあげる」
ダイアナはそう言ってから、手招きをした。
それにちらりとデリックを見れば、彼もこちらを伺っているように視線を送ってきていて、色々と文句を言いたかったけれど、何とか我慢してソファーを立ってダイアナの隣に座る。
そうするとデリックは、はぁっとやっと落ち着けたとばかりにため息をついて、その反応にイライラしつつも何とか心を落ち着けた。
……とにかく、打ち明けられて良かった。イーディス姉さんは魔法の事はからっきしらしいし、ダイアナに対処してもらえて助かる。
初めて会った時には、実姉のいる彼女がうらやましかったけれども、今ではいてくれてよかったと思うほど頼りがいのある存在だ。
「……それで、デリック……貴方はどうしてミオにそんな風にいうのかしら」
それから次の話題にデリックを選んで、彼女はそういった。先ほどはミオだけが責められているように感じたが、両方に対してダイアナも思う所があったらしくミオに対するデリックの言葉に論点を変える。
「……」
「黙っていては、どうしてなのかわからないわ。ミオだってあんな風に煙たがられたら、怒りもするわよ」
彼は先程までの勢いをなくしていて、ダイアナの言葉にすぐに返事をしない。やっぱりミオにただ意地悪を言いたかっただけなのかもしれない。だから問い詰められると罰が悪くて困っているのだ。
「それは……違うって」
「じゃあ、どうしたの? 言えないようなことは初めからしてはダメよ。デリック」
「っ、だから、違うって」
たしなめるように言うダイアナに、デリックは否定をするばかりで何が違うのかは言わない。それに問い詰められて焦ったのか次第に落ち着きが無くなって、ちらちらといろんなところに視線を向ける。
もちろんただ、意地悪を言っていただけで、ただ怒られているだけならミオだって、きっちり反省してほしいと思うのだが何かそれだけではない様子だった。
しかし、ダイアナは難しい顔をしていて、デリックへの相変わらず視線は厳しい。そう思うとあまり好きではないデリックの事が少し可愛そうになって、ミオは不服ながらも聞いた。
「……でも、悪口にしては、変な悪口ばっかりだったよね。ぞわぞわするとか変とか……」
「それもそうね」
「だっから、悪口じゃないって」
ミオが言うとデリックはやっと悪口ではないと否定した。
それにやれやれなんて思う。
デリックはミオとはあまり関わらないし、一緒に住んでいるけれど奇妙な関係の相手だ。しかし、同じように女神に選ばれて苦労している同士ではある。
だからこそ、仲良くできる面もあるかもしれないなんてイーディスは言っていたし、女神に見初められたせいで他人とあまり付き合えなかった彼に対する多少の優しさだった。
「じゃあ、何なのよ。私これでも傷ついたんだけど」
「……ごめん」
それから厳しい視線を向けて彼に言うと、しょんぼりとしてデリックは謝った。そうして気落ちしてる姿は少しアルバートに似ていて、髪色の目の色も似ていないけれども、仕草や表情の作り方がよく似た兄弟なのだと思う。
「ごめんじゃないわよ。何であんなこと言うわけ」
「……ま、魔力が……変だから」
「……魔力?」
「! 分かった、聖者の特性ね。魔獣は魔力に敏感なのよ」
彼の言った一言に、ダイアナはひらめいたとばかりに反応して続ける。
「だから、ミオが魔力を制御できずに魔法を使ってしまうときに召喚された聖女特有の異世界の魔力に当てられて、あの反応だったの?」
「異世界の魔力? そんなのがあるの? ダイアナ」
「ええ、召喚された聖女や聖者の加護が強いのはその異世界の魔力が原因ではないかと言われているのよ」
「…………」
言われて考えてみると、たしかにミオが怒るたびに何かいろいろ言って居たような気がする。それに自分がそういう風に言われていたのではなく、お互いの特性上そういう風になってしまっていたのなら話は別だ。
「……なんだ。……そういう事だったのね。それにしても気持ち悪いはないでしょ!」
「ご、ごめんってあまり怒らないで」
「……うん、まぁ我慢するけど」
「ふぅ、それじゃあ何はともあれ解決ね。ミオの魔力はあたしが制御できるようにしておくから……後は、二人とも……ちゃんと謝って」
ダイアナが話を纏めるようにそう言って、ミオとデリックは目を合わせてそれから、すぐに仲裁をしてくれたダイアナに「ごめんなさい」と二人して謝った。
402
お気に入りに追加
1,207
あなたにおすすめの小説
婚約破棄されましたが、帝国皇女なので元婚約者は投獄します
けんゆう
ファンタジー
「お前のような下級貴族の養女など、もう不要だ!」
五年間、婚約者として尽くしてきたフィリップに、冷たく告げられたソフィア。
他の貴族たちからも嘲笑と罵倒を浴び、社交界から追放されかける。
だが、彼らは知らなかった――。
ソフィアは、ただの下級貴族の養女ではない。
そんな彼女の元に届いたのは、隣国からお兄様が、貿易利権を手土産にやってくる知らせ。
「フィリップ様、あなたが何を捨てたのかーー思い知らせて差し上げますわ!」
逆襲を決意し、華麗に着飾ってパーティーに乗り込んだソフィア。
「妹を侮辱しただと? 極刑にすべきはお前たちだ!」
ブチギレるお兄様。
貴族たちは青ざめ、王国は崩壊寸前!?
「ざまぁ」どころか 国家存亡の危機 に!?
果たしてソフィアはお兄様の暴走を止め、自由な未来を手に入れられるか?
「私の未来は、私が決めます!」
皇女の誇りをかけた逆転劇、ここに開幕!
【完結】家族にサヨナラ。皆様ゴキゲンヨウ。
くま
恋愛
「すまない、アデライトを愛してしまった」
「ソフィア、私の事許してくれるわよね?」
いきなり婚約破棄をする婚約者と、それが当たり前だと言い張る姉。そしてその事を家族は姉達を責めない。
「病弱なアデライトに譲ってあげなさい」と……
私は昔から家族からは二番目扱いをされていた。いや、二番目どころでもなかった。私だって、兄や姉、妹達のように愛されたかった……だけど、いつも優先されるのは他のキョウダイばかり……我慢ばかりの毎日。
「マカロン家の長男であり次期当主のジェイコブをきちんと、敬い立てなさい」
「はい、お父様、お母様」
「長女のアデライトは体が弱いのですよ。ソフィア、貴女がきちんと長女の代わりに動くのですよ」
「……はい」
「妹のアメリーはまだ幼い。お前は我慢しなさい。下の子を面倒見るのは当然なのだから」
「はい、わかりました」
パーティー、私の誕生日、どれも私だけのなんてなかった。親はいつも私以外のキョウダイばかり、
兄も姉や妹ばかり構ってばかり。姉は病弱だからと言い私に八つ当たりするばかり。妹は我儘放題。
誰も私の言葉を聞いてくれない。
誰も私を見てくれない。
そして婚約者だったオスカー様もその一人だ。病弱な姉を守ってあげたいと婚約破棄してすぐに姉と婚約をした。家族は姉を祝福していた。私に一言も…慰めもせず。
ある日、熱にうなされ誰もお見舞いにきてくれなかった時、前世を思い出す。前世の私は家族と仲良くもしており、色々と明るい性格の持ち主さん。
「……なんか、馬鹿みたいだわ!」
もう、我慢もやめよう!家族の前で良い子になるのはもうやめる!
ふるゆわ設定です。
※家族という呪縛から解き放たれ自分自身を見つめ、好きな事を見つけだすソフィアを応援して下さい!
※ざまあ話とか読むのは好きだけど書くとなると難しいので…読者様が望むような結末に納得いかないかもしれません。🙇♀️でも頑張るます。それでもよければ、どうぞ!
追加文
番外編も現在進行中です。こちらはまた別な主人公です。
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。
君は妾の子だから、次男がちょうどいい
月山 歩
恋愛
侯爵家のマリアは婚約中だが、彼は王都に住み、彼女は片田舎で遠いため会ったことはなかった。でもある時、マリアは妾の子であると知られる。そんな娘は大事な子息とは結婚させられないと、病気療養中の次男との婚約に一方的に変えさせられる。そして次の日には、迎えの馬車がやって来た。


《完結》愛する人と結婚するだけが愛じゃない
ぜらいす黒糖
恋愛
オリビアはジェームズとこのまま結婚するだろうと思っていた。
ある日、可愛がっていた後輩のマリアから「先輩と別れて下さい」とオリビアは言われた。
ジェームズに確かめようと部屋に行くと、そこにはジェームズとマリアがベッドで抱き合っていた。
ショックのあまり部屋を飛び出したオリビアだったが、気がつくと走る馬車の前を歩いていた。

【完結】ずっと、ずっとあなたを愛していました 〜後悔も、懺悔も今更いりません〜
高瀬船
恋愛
リスティアナ・メイブルムには二歳年上の婚約者が居る。
婚約者は、国の王太子で穏やかで優しく、婚約は王命ではあったが仲睦まじく関係を築けていた。
それなのに、突然ある日婚約者である王太子からは土下座をされ、婚約を解消して欲しいと願われる。
何故、そんな事に。
優しく微笑むその笑顔を向ける先は確かに自分に向けられていたのに。
婚約者として確かに大切にされていたのに何故こうなってしまったのか。
リスティアナの思いとは裏腹に、ある時期からリスティアナに悪い噂が立ち始める。
悪い噂が立つ事など何もしていないのにも関わらず、リスティアナは次第に学園で、夜会で、孤立していく。
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる