【完結】契約結婚しましょうか!~元婚約者を見返すための幸せ同盟~

ぽんぽこ狸

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 ミオとデリックを隣り合わせで座らせて、ダイアナは一人で向かいに座って厳しい顔で、二人を見ていた。

「はぁ、お姉さまとお兄さまを凄く心配させてしまったわね。それに、あの惨状を直すために色々とお金も労力も必要になると思うわ。後できちんと三人で謝りに行くわよ」
「……うん」
「わかってるってそんなの」

 しょんぼりとしているミオと、隣ではデリックがつんとした態度でそんな風に言う。その態度にまたミオはイラついて、隣にいるデリックをに睨んだ。

「だからそれ止めてってば! 変な感じがするから!」
 
 少し睨んだだけなのにデリックは過剰に反応してミオを責めるように見る。何もしていないのにそんな風に言われるとミオだって当たり前のことだが傷つく。

 さっきもそういわれて、イライラして岩石がキリキリと膨らんでしまい、デリックも何故だか狼の姿になって喧嘩になってしまった。

「何もしてないって、言ってるじゃない! 何よ、私の事嫌いなら嫌いっていえばいいのに! 遠回しに言って嫌がらせつもり?!」
「だから違うって、ミオは普通の人と違う感じがしてぞわぞわするんだって」
「気持ち悪いって言いたいの!?」

 堪らず声を荒げるとまた、勝手に魔法が発動してイライラするたびに岩石が大きくなってしまう。

 二人が睨み合ってまた喧嘩を始めようとすると、目の前にいるダイアナがパンッと手を打って、いい加減にしろとばかりにイーディスによく似た紫色の瞳をぎろりとこちらに向ける。

「……止めて。二人とも」

 その瞳に睨まれるとデリックもミオも弱くて黙り込んでダイアナの事を伺った。

 彼女はイーディスよりも、怒りっぽくて怖い。ミオたちよりも一つ年上というのもあるのだが、それ以上にすごく真面目なのであまり言う事を無視していると怒らせてしまう。

 ただでさえ先程の件で怒りを買っているのに、これ以上怒らせるのは得策ではない。

「まずはミオ、怒るのは構わないけれど会話が出来なくなるからその魔法をやめないといけないわ」

 きっぱりと言われてこういう所もイーディスとダイアナが違う所だと思う。

「だってそれでは相手を威嚇しているようだもの! 誰だって怖くなるわ」
「……それは、その」
「これから止めるようにしてくれる?」

 言われてから、ミオは視線を泳がせた。今まで、一緒に暮らしていて良く接するイーディスに言われなかったので何も言わなかったのだが、魔法が勝手に出てしまうのは無意識なのだ。

 だから早く魔法の実戦をダイアナから教えてもらえれば、なくなるかもと思って今日の授業をお願いした経緯がある。それにデリックまでついてくるのは誤算だった。

「そうだ、そうだ!」
「デリック……黙って」
「……はい」

 隣から野次を飛ばしたデリックに、ダイアナはものすごく威圧的に言って黙らせた。彼は初めて会った時はあんなにビクビク怯えていたのに、段々と話をできるようになってからは、ずっとあんな調子でミオに文句を言ってくる。

 トラウマが改善してきているからいい事だと、イーディスはのほほんとしているがこんな風に意地悪を言うのなら、ずっとびくびくしていた方が良かったなんて思う。

 それを口に出したら、さっきみたいな喧嘩に発展してしまったのだが。

「できないなら、あたしは魔法の事なんて一切教えないわ。ミオ、それだけ危ないものなのよ、特にミオやあたしの魔法はね」
「……」

 真剣にそういわれて、ダイアナのこういうきちんと言ってくれるところをミオも好きだと思うし、彼女が折れないタイプだということも知っている。

「……実は……制御できないの」

 だからこそ、呆れられてしまうかもしれないと思いつつも口にした。彼女なら馬鹿にしたりしないと思ったから。

 すると、ダイアナは目を見開いてから、少し眉を寄せて考えた。その隙にデリックが言う。

「それってすごい危ないじゃんか!」
「うるさいわね! だからどうにかするために魔法を教えてもらおうとしてるんじゃない!」
「うわっ、っ、ど、怒鳴らないで!」

 大きな声を出すとデリックは怯えた様子で声を震わせる。そうなってしまうと流石にこれ以上言うことは出来なくて、黙ってジトっと彼を見る。

 声も出せないぐらい怯えて泣いているところを知っているとあまり強く出られない。その分イラついて、キリキリと音を立てて、魔法が発動する。

「ぅうっ、き、気持ち悪いっ」
「な、何よ!」

 頭を抑えて肩をすくめながら、デリックはそう言って、それにミオはカッとなってまた怒鳴った。しかしパンッと手を叩く音がして目線を移動するとダイアナが難しい顔のままこちらを見ている。

 怒っているというのはわかるけど、ミオだってデリックに怒っている。

 ……だって流石に気持ち悪いはないでしょ!?

「ミオ、わかったわ。そういう事なら対処法はあるわ。魔力の扱いになれない小さな子供にありがちな事よ。後で私の部屋にきて、魔力の制御を教えてあげる」

 ダイアナはそう言ってから、手招きをした。

 それにちらりとデリックを見れば、彼もこちらを伺っているように視線を送ってきていて、色々と文句を言いたかったけれど、何とか我慢してソファーを立ってダイアナの隣に座る。

 そうするとデリックは、はぁっとやっと落ち着けたとばかりにため息をついて、その反応にイライラしつつも何とか心を落ち着けた。

 ……とにかく、打ち明けられて良かった。イーディス姉さんは魔法の事はからっきしらしいし、ダイアナに対処してもらえて助かる。

 初めて会った時には、実姉のいる彼女がうらやましかったけれども、今ではいてくれてよかったと思うほど頼りがいのある存在だ。

「……それで、デリック……貴方はどうしてミオにそんな風にいうのかしら」

 それから次の話題にデリックを選んで、彼女はそういった。先ほどはミオだけが責められているように感じたが、両方に対してダイアナも思う所があったらしくミオに対するデリックの言葉に論点を変える。

「……」
「黙っていては、どうしてなのかわからないわ。ミオだってあんな風に煙たがられたら、怒りもするわよ」

 彼は先程までの勢いをなくしていて、ダイアナの言葉にすぐに返事をしない。やっぱりミオにただ意地悪を言いたかっただけなのかもしれない。だから問い詰められると罰が悪くて困っているのだ。

「それは……違うって」
「じゃあ、どうしたの? 言えないようなことは初めからしてはダメよ。デリック」
「っ、だから、違うって」

 たしなめるように言うダイアナに、デリックは否定をするばかりで何が違うのかは言わない。それに問い詰められて焦ったのか次第に落ち着きが無くなって、ちらちらといろんなところに視線を向ける。

 もちろんただ、意地悪を言っていただけで、ただ怒られているだけならミオだって、きっちり反省してほしいと思うのだが何かそれだけではない様子だった。

 しかし、ダイアナは難しい顔をしていて、デリックへの相変わらず視線は厳しい。そう思うとあまり好きではないデリックの事が少し可愛そうになって、ミオは不服ながらも聞いた。

「……でも、悪口にしては、変な悪口ばっかりだったよね。ぞわぞわするとか変とか……」
「それもそうね」
「だっから、悪口じゃないって」

 ミオが言うとデリックはやっと悪口ではないと否定した。

 それにやれやれなんて思う。

 デリックはミオとはあまり関わらないし、一緒に住んでいるけれど奇妙な関係の相手だ。しかし、同じように女神に選ばれて苦労している同士ではある。

 だからこそ、仲良くできる面もあるかもしれないなんてイーディスは言っていたし、女神に見初められたせいで他人とあまり付き合えなかった彼に対する多少の優しさだった。

「じゃあ、何なのよ。私これでも傷ついたんだけど」
「……ごめん」

 それから厳しい視線を向けて彼に言うと、しょんぼりとしてデリックは謝った。そうして気落ちしてる姿は少しアルバートに似ていて、髪色の目の色も似ていないけれども、仕草や表情の作り方がよく似た兄弟なのだと思う。

「ごめんじゃないわよ。何であんなこと言うわけ」
「……ま、魔力が……変だから」
「……魔力?」
「! 分かった、聖者の特性ね。魔獣は魔力に敏感なのよ」

 彼の言った一言に、ダイアナはひらめいたとばかりに反応して続ける。

「だから、ミオが魔力を制御できずに魔法を使ってしまうときに召喚された聖女特有の異世界の魔力に当てられて、あの反応だったの?」
「異世界の魔力? そんなのがあるの? ダイアナ」
「ええ、召喚された聖女や聖者の加護が強いのはその異世界の魔力が原因ではないかと言われているのよ」
「…………」

 言われて考えてみると、たしかにミオが怒るたびに何かいろいろ言って居たような気がする。それに自分がそういう風に言われていたのではなく、お互いの特性上そういう風になってしまっていたのなら話は別だ。

「……なんだ。……そういう事だったのね。それにしても気持ち悪いはないでしょ!」
「ご、ごめんってあまり怒らないで」
「……うん、まぁ我慢するけど」
「ふぅ、それじゃあ何はともあれ解決ね。ミオの魔力はあたしが制御できるようにしておくから……後は、二人とも……ちゃんと謝って」

 ダイアナが話を纏めるようにそう言って、ミオとデリックは目を合わせてそれから、すぐに仲裁をしてくれたダイアナに「ごめんなさい」と二人して謝った。




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