【完結】契約結婚しましょうか!~元婚約者を見返すための幸せ同盟~

ぽんぽこ狸

文字の大きさ
上 下
22 / 42

22

しおりを挟む



 一度部屋に寄ってから荷物を置いて、イーディスに屋敷の説明を受けた。それはとても丁寧な説明で、今日からでもこのお屋敷を我が物顔で歩けそうなほどだった。

 少し疲れたけれど部屋に戻るとイーディスが手慣れた様子で、紅茶を淹れてくれて、いつでもベルを鳴らせば、部屋付きの使用人にお茶を淹れてもらえたり、軽食を準備してもらえるということも教えられた。

 それから、二人で部屋に備え付けられていたテーブルで小さなお茶会を開いた。可愛い小さなお菓子が乗ったお皿が出てきてイーディスは丁寧な仕草で茶を飲む。

 それを目で追って真似するようにしながら、お菓子を食べる。

「……」
「……」

 ここ最近、食が細くなってしまっていたミオだったが、小さなお菓子を食べる手が止まらなくて、もくもくと口に運ぶ。それをイーディスは微笑ましそうに眺めていてしばらくは話し出すことは無かった。

 ひとしきり食べてほっとすると、彼女はミオと目を合わせて「紅茶のおかわりはいかが?」と聞いてきた。

 ふと見てみれば、自分のティーカップは空っぽになっていて、頷くと綺麗な水色の紅茶を注いでもらえる。

 前の世界では別に好きな飲み物でもなかったのに、砂糖を二ついれてもらって飲むととても心が落ち着いたような心地になった。

「ミオ、改めて久しぶりですね」
「……はい」

 少し頭を傾けてイーディスはそういった。さらりとした緩やかなカールのかかった茶髪が揺れて、一つに縛っているだけなのにとても上品に見える。

 ミオ自身の髪は真っ黒でとてもじゃないが、垢ぬけているとは言えない。こういうお洒落な髪色には少しあこがれてしまう。

「こうして来てくれたということは、私とともに時間を過ごすことを選んでくれたのよね」
「……はい」

 彼女の言葉に、色々といいたいことも聞きたいこともあった、しかしどうにも緊張してしまって、ミオはうまく返事できずに、小さな呟くような返答を返す。

 それをイーディスは別に気にしている様子はなく、朗らかに笑って続けた。

「嬉しいわ。よろしくお願いします。……ところでこの部屋はどうかしら」

 言いつつ、部屋の中に視線を巡らせる。それにつられてミオも視線を移した。

 花柄のカーテンに大きなベット、壁紙は落ち着いた色だけれどお洒落で、ドレッサーだとか、キャビネットだとか、自分の家にはあまりなかったものばかりだ。

 なのでどうかと言われても、なんとも返事をし難い、しかしカーテンが開けられて大きく開かれた窓からあったかい日の光が差し込んでいて広い空が見える。

 お城の部屋は大きな建物が立て込んでいて日があまり入らなかったので、それにすごく好感を持てた。

「……窓が、大きくて……日当たりもよくて、それがすごくいいと思う」
「良かったわ。子供部屋はそうでなくてはね」
「……子供?」

 当たり前にそういう彼女に、つい聞き返した。

 ダレルやラモーナからはミオぐらいの年齢ならば、自分で自分の行く末を決めて、なんでもできる年ごろだから大人と同じだと言われていたので、イーディスがそう言うのに違和感を覚えたのだった。

「ええ、まだまだ育ちざかりだもの……もしかして、ダレル国王陛下やラモーナ王妃殿下に大人と同じ年頃だと言われましたか?」
「……うん」
「あの方たちは王族ですから、幼いころからずっとそう言われて育ったんです。対等に接しようと思った結果の言葉だったのかもしれないわね」

 ……えらい人たちだからっていう事?

 言われてみて、なんだか想像がついた。こちらが混乱していても仕方ないという様子ではなく諭すようにずっとこうするべき、ああするべきだと押し付けてきた。

 それが、そういう風に相手を見ていて、自分がそうされてきたからなんだと言われればそういう人たちだったのかと腑に落ちる。

「私は、まだまだ過ちも犯すし、急な環境の変化に対応するのは難しい年だと思いますから、サポートしたいと思っています」
「……あ、ありがとう」
「いえ、当然の事だわ」

 イーディスは押し付けるでもなく、ただ当たり前のようにそう言ってそれから紅茶を飲む。

 それにミオは、嬉しく思う反面、やはりどうしてもイーディスに対して不安な気持ちも抱いてしまう。

 だって初めて会った時には、あんな風にしてしまったし、これからどうなるのかだっていまだにわからない。元の場所には帰れない。それは確定事項で哀しいけれど事実だ。
 
 だからこそ、よく知りもしない彼女に良くしてもらってそのまま、受け入れられるほどミオの精神は安定していなかった。

「……これからのことを話しをするわね。まずは知ることから始めていくのがいいと思うの」
「……」
「ミオがどんな風にしたくて、どうこれからを過ごしていくのがいい形なのかを知るために、この世界の仕組みや仕事、貴方の立ち位置それらを教えられたらと思っています」

 当たり前のように、こっから先の事を話すイーディスはとても親切そうで、このままうんうんと頷いてすべてをゆだねれば、少しは楽になれそうだ。
 
 ……でも、本当にそれでいいの? そうしたら私はなんとかなって、どうにかできて、それでなに? 結局お国の為に働くの?
 
 こんな風にかってに呼び出して、勝手に私の人生を滅茶苦茶にした人の言う事をきかされるの?

 イーディスはそれをするための懐柔策? 私を結局、いいように使いたいからこんな風にやさしくしてくれるの?

 打算的であっても、それはミオにとってはいいことのはずだった。しかし無性に腹が立って仕方がない。

 こんなイラつきをぶつけてばかりじゃあどうしようもない事を知っているはずなのに、頭の中がぐるぐるして、落ち着かない。

「基礎的な知識は、私が教えることが出来ますから、後は専門的な知識に興味が出てくればそれ相応の人物を家庭教師につけることもできるわ」

 ……イーディスは私を利用したいだけ? だからこんなにやさしくしてくれるって事?

 何が正解かわからなくて、彼女の言っていることをうまく聞き取れない。

「ミオの進む道を決めるために、貰った猶予はそれほど長くはないけれど━━━━
「っ、まってよ!」

 気がついたら大きな声を出していた。

 それに、イーディスは目を見開いて黙り、何を思っているか聞きたいとばかりに少し首を傾けてミオに目線を送った。
 




しおりを挟む
感想 14

あなたにおすすめの小説

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

〖完結〗幼馴染みの王女様の方が大切な婚約者は要らない。愛してる? もう興味ありません。

藍川みいな
恋愛
婚約者のカイン様は、婚約者の私よりも幼馴染みのクリスティ王女殿下ばかりを優先する。 何度も約束を破られ、彼と過ごせる時間は全くなかった。約束を破る理由はいつだって、「クリスティが……」だ。 同じ学園に通っているのに、私はまるで他人のよう。毎日毎日、二人の仲のいい姿を見せられ、苦しんでいることさえ彼は気付かない。 もうやめる。 カイン様との婚約は解消する。 でもなぜか、別れを告げたのに彼が付きまとってくる。 愛してる? 私はもう、あなたに興味はありません! 設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。 沢山の感想ありがとうございます。返信出来ず、申し訳ありません。

君は妾の子だから、次男がちょうどいい

月山 歩
恋愛
侯爵家のマリアは婚約中だが、彼は王都に住み、彼女は片田舎で遠いため会ったことはなかった。でもある時、マリアは妾の子であると知られる。そんな娘は大事な子息とは結婚させられないと、病気療養中の次男との婚約に一方的に変えさせられる。そして次の日には、迎えの馬車がやって来た。

【完結】ずっと、ずっとあなたを愛していました 〜後悔も、懺悔も今更いりません〜

高瀬船
恋愛
リスティアナ・メイブルムには二歳年上の婚約者が居る。 婚約者は、国の王太子で穏やかで優しく、婚約は王命ではあったが仲睦まじく関係を築けていた。 それなのに、突然ある日婚約者である王太子からは土下座をされ、婚約を解消して欲しいと願われる。 何故、そんな事に。 優しく微笑むその笑顔を向ける先は確かに自分に向けられていたのに。 婚約者として確かに大切にされていたのに何故こうなってしまったのか。 リスティアナの思いとは裏腹に、ある時期からリスティアナに悪い噂が立ち始める。 悪い噂が立つ事など何もしていないのにも関わらず、リスティアナは次第に学園で、夜会で、孤立していく。

政略より愛を選んだ結婚。~後悔は十年後にやってきた。~

つくも茄子
恋愛
幼い頃からの婚約者であった侯爵令嬢との婚約を解消して、学生時代からの恋人と結婚した王太子殿下。 政略よりも愛を選んだ生活は思っていたのとは違っていた。「お幸せに」と微笑んだ元婚約者。結婚によって去っていた側近達。愛する妻の妃教育がままならない中での出産。世継ぎの王子の誕生を望んだものの産まれたのは王女だった。妻に瓜二つの娘は可愛い。無邪気な娘は欲望のままに動く。断罪の時、全てが明らかになった。王太子の思い描いていた未来は元から無かったものだった。後悔は続く。どこから間違っていたのか。 他サイトにも公開中。

記憶を失くした彼女の手紙 消えてしまった完璧な令嬢と、王子の遅すぎた後悔の話

甘糖むい
恋愛
婚約者であるシェルニア公爵令嬢が記憶喪失となった。 王子はひっそりと喜んだ。これで愛するクロエ男爵令嬢と堂々と結婚できると。 その時、王子の元に一通の手紙が届いた。 そこに書かれていたのは3つの願いと1つの真実。 王子は絶望感に苛まれ後悔をする。

うたた寝している間に運命が変わりました。

gacchi
恋愛
優柔不断な第三王子フレディ様の婚約者として、幼いころから色々と苦労してきたけど、最近はもう呆れてしまって放置気味。そんな中、お義姉様がフレディ様の子を身ごもった?私との婚約は解消?私は学園を卒業したら修道院へ入れられることに。…だったはずなのに、カフェテリアでうたた寝していたら、私の運命は変わってしまったようです。

そろそろ前世は忘れませんか。旦那様?

氷雨そら
恋愛
 結婚式で私のベールをめくった瞬間、旦那様は固まった。たぶん、旦那様は記憶を取り戻してしまったのだ。前世の私の名前を呼んでしまったのがその証拠。  そしておそらく旦那様は理解した。  私が前世にこっぴどく裏切った旦那様の幼馴染だってこと。  ――――でも、それだって理由はある。  前世、旦那様は15歳のあの日、魔力の才能を開花した。そして私が開花したのは、相手の魔力を奪う魔眼だった。  しかも、その魔眼を今世まで持ち越しで受け継いでしまっている。 「どれだけ俺を弄んだら気が済むの」とか「悪い女」という癖に、旦那様は私を離してくれない。  そして二人で眠った次の朝から、なぜかかつての幼馴染のように、冷酷だった旦那様は豹変した。私を溺愛する人間へと。  お願い旦那様。もう前世のことは忘れてください!  かつての幼馴染は、今度こそ絶対幸せになる。そんな幼馴染推しによる幼馴染推しのための物語。  小説家になろうにも掲載しています。

処理中です...