【完結】契約結婚しましょうか!~元婚約者を見返すための幸せ同盟~

ぽんぽこ狸

文字の大きさ
16 / 42

16

しおりを挟む



 フェルトン侯爵家領地にはとても歴史深いリンツバーク教会がある。

 そこに、生まれてしまった獣の女神の聖者の面倒を引き受けてもらう代わりにフェルトン侯爵家に婿入りして資産を明け渡す。

 そういう算段だったのなら、バージェス伯爵家が爵位を返上することを躊躇しないのだって理解できる。

「はい。始めはお布施だけでいいという話でしたが、フェルトン侯爵家の方々が教会と話を合わせて、王宮に、訴えたそうです」
「……」
「貴族として生まれたのに、教会に入れて平民に身分を落とすことこそが差別であり、伝説の通りに獣の聖者が暴れだす。……だから、教会を有する自分たちでデリックの面倒を見るから、バージェス伯爵家の資産をすべて明け渡すべきだ。産んだ責任をとれと」

 ……確かに、筋は通るかもしれない。しかしどうにもフェルトン侯爵家の欲望が見え隠れしているというか……。

「そういう理由があって俺の婿入りが決まりました。しかし事あるごとに王族に様々な要求をしていました。デリックの為に特別な儀式が必要とか、存在を隠していくための工作費用など」
「……そうなのね。王族側は伝説がある以上は下手に拒否できなかったのでしょうね」
「はい。……それに王族には説得力のある資料がない。神に関する歴史的な資料はすべて教会に収容されています。それを調べるために王族は何度か使者を送っている様子でしたが、上手くいっていないようでした」

 教会をフェルトン侯爵家が抑えている以上は、デリックを使った脅しにも従うしかない。

「それに、王族も滅多にない事態で、デリックが本当に迫害さえされなければ、安全な存在なのかというのを危惧しています。……だから、できることならば、秘密を共有することができ、なおかつ、デリック自身と接する正当性がある人間にこの件を預けたいというのが……王族の意見だそうです」

 それはそうだろう。このまま、フェルトン侯爵家に預けておくのも安全策ではあるが、暴走して、増長しだす可能性もある。

 その前に別のところに彼の身元を委託して、破滅の呪いを回避しつつ、秘密裏に獣の女神について調べる。

 これが一番だろう。

 イーディスは王族にとってはそれが一番、よい選択肢だとすぐに理解できた。

 そして、それを都合よく、理由作りをしたのは他でもないイーディスではないだろうかなんて思いついた。

 それにこの間のダレルの引っかかる言い方も思い出した。

 ……これから試練を乗り越えて、なんていっていたわね。それに、何でも抱え込むのが、私の性質みたいな話もしていたし。

 そう考えるともしかしたら、知っていて、いつかこうなるとわかっていて、あんなことを言ったのだろう、そして彼らが望んでいることは理解できる。

「だから、図々しい事を承知で、お願いさせてください。ありえないと罵られて捨てられるのが正しいのだとわかっていても、それでも……どうか」

 言いながらゆらりと立ち上がってアルバートはイーディスの前に両膝をついて跪いた。

「……デリックを、引き取らせてくれませんか」

 ……なるほど。そういう話になるんですね。

 彼を見捨てる選択をアルバートはできない。

 必然的に、ここに連れてくるかお金を送るか、とにかく心配していて彼を守ろうとしている。

 それを曲げないまま、イーディスと結婚生活を送りたい。だからどれほど罵られても、どんなに女性が怖くても言わなければならないことだった。

 弱気な顔だったけれども、決意のある顔だった。

 問い詰めた時にまた泣き始めたからどうしようかと思ったが、彼のなかでの信念は一応、決まっているらしい。

 ……たしかに、これは、言っておくべき事項だわ。結婚する前にそういう風にしたいのだというべきだった。

 実状的に、いろいろと厄介な事柄も出てくるはずだし、イーディス自身もだいぶ面倒事の渦中に足を突っ込んでいるらしいことは理解できる。

 フェルトン侯爵家にとってデリックは金の成る木それを適当な理由をつけて、手に入れてかくまっているのに、勝手に婚約者をさらったオルコット侯爵家跡取りの女が、その彼さえも、手に入れようとしているとなれば、どうなるか。

 ……完全に敵対するわね。……それでもオルコット侯爵家は代々王族派閥だし、フェルトン侯爵家からすると王族の差し金という見方もできないことは無いのよね。

 そしてこの話はダレルたちにも得がある。

「一つ聞きますけど、それは決めていたこと? それとも今思い付きで言った事ですか?」
「……思い付きです。どうしてもデリックと縁を切ると口に……できなくて、ごめんなさい、イーディス。すべての面倒は俺が持ちます。デリックの破滅の呪いもきちんと解明するように動きますから」
「……」

 ……ということは根回しは必要ね。オルコット侯爵家にばかりフェルトン侯爵家の反感を集めるわけにはいきませんから。

 それに、アルバートにはフェルトン侯爵家との交渉や、教会に行って調べることは出来ないだろう。

 ただでさえ、こんなに女性を怖がっているのにジェーンが出てきたら厄介だ。

 まあ、やることは増えるけれど、それほど忙しいわけでもないし、それでアルバートの心残りが無くなるなら構わないわね。

 イーディスは頭の中で、根回しする先を考えていた。

 とにかく真実がわかったし、驚くことばかりだったが、アルバートの大切な弟をそんな場所にずっと一人ぼっちにしておくわけにもいかない。

 急いだほうがいいだろう。

「お願いします、イーディス。頼れる人は他にいません、俺は、貴方に結婚話を持ちかけてもらえて、本当に救われた。その恩をあだで返す事を許してほしいなんて言いません、なんでもします。契約結婚以上の事も、なんでも。どんな風にしてくださっても構いません。だから……っ」

 イーディスの頭の中ではもうすでに、次の行動を考えていたが、彼の言葉にふと現実に引き戻される。

 そして、縋りつくようにドレスの裾に手をかけて、涙をぬぐいながら懇願する彼を視界に移してびっくりした。




しおりを挟む
感想 14

あなたにおすすめの小説

遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。

沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。 すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。 だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。 イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。 変わり果てた現実を前に、 夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。 深い後悔と悲しみに苛まれながら、 失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。 しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。 贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。 そして、母の心を知っていく子供たち。 イネスが求める愛とは、 そして、幸せとは――。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

【完結】ずっと、ずっとあなたを愛していました 〜後悔も、懺悔も今更いりません〜

高瀬船
恋愛
リスティアナ・メイブルムには二歳年上の婚約者が居る。 婚約者は、国の王太子で穏やかで優しく、婚約は王命ではあったが仲睦まじく関係を築けていた。 それなのに、突然ある日婚約者である王太子からは土下座をされ、婚約を解消して欲しいと願われる。 何故、そんな事に。 優しく微笑むその笑顔を向ける先は確かに自分に向けられていたのに。 婚約者として確かに大切にされていたのに何故こうなってしまったのか。 リスティアナの思いとは裏腹に、ある時期からリスティアナに悪い噂が立ち始める。 悪い噂が立つ事など何もしていないのにも関わらず、リスティアナは次第に学園で、夜会で、孤立していく。

妹なんだから助けて? お断りします

たくわん
恋愛
美しく聡明な令嬢エリーゼ。だが、母の死後に迎えられた継母マルグリットによって、彼女の人生は一変する。実母が残した財産は継母に奪われ、華やかなドレスは義姉たちに着られ、エリーゼ自身は使用人同然の扱いを受ける。そんなある日――。

存在感のない聖女が姿を消した後 [完]

風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは 永く仕えた国を捨てた。 何故って? それは新たに現れた聖女が ヒロインだったから。 ディアターナは いつの日からか新聖女と比べられ 人々の心が離れていった事を悟った。 もう私の役目は終わったわ… 神託を受けたディアターナは 手紙を残して消えた。 残された国は天災に見舞われ てしまった。 しかし聖女は戻る事はなかった。 ディアターナは西帝国にて 初代聖女のコリーアンナに出会い 運命を切り開いて 自分自身の幸せをみつけるのだった。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi(がっち)
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

旦那様、離婚しましょう ~私は冒険者になるのでご心配なくっ~

榎夜
恋愛
私と旦那様は白い結婚だ。体の関係どころか手を繋ぐ事もしたことがない。 ある日突然、旦那の子供を身籠ったという女性に離婚を要求された。 別に構いませんが......じゃあ、冒険者にでもなろうかしら? ー全50話ー

処理中です...