悪役令嬢に成り代わったのに、すでに詰みってどういうことですか!?

ぽんぽこ狸

文字の大きさ
上 下
260 / 305

恐ろしい事があった日は……。4

しおりを挟む




 …………こんなところで、役に立ってくれるとはっ。

 何とも言えない、命が繋がれたような気持ちとガヤガヤとうるさい歓声にいろいろな気持ちが込み上げてくる。観客席にもどり、状況が把握できていないヴィンスとサディアスを通り過ぎそのまま、廊下の方へと出る。

 彼らは今は魔法が発動しているので触れる事が出来ない、けれど私が外に出れば着いてくると思っていた。

 案の定、剣を持ったままの私に続いて、サディアスもヴィンスも魔法を起動してついてくる。

 外廊下にはそれなりに人がいるが、中ほど五月蝿くは無い。

「チェルシーとシンシアが何かされてるみたい。とりあえず二人は私の魔力の減りが少なくなるように、アタッチを外して、今も攻撃されてるみたいで魔力が減ってるから」
「……わかった。クレア、君は腕を動かせるか? 戦えそうか?」
「多少無理すれば、でも、魔力が結構少ない」
「クレア、いつもの飴がありますが、必要ですか?」
「いる、ありがとう」

 簡潔な説明でも二人は事情は把握したとばかりに、すぐにアタッチメントを外して防御魔法を解除してくれる。それからヴィンスは私に飴を渡してくれて、私はそれを口に含む。サディアスは何やら胸ポケットから、紙を取り出し、開いて見る。

「昨日シンシアから渡されていたものなんだが、昨日の時点で問い詰めておけばよかったな」

 そう言いながら、私にその紙の内容を見せてくれた。地図のようなものが記載されてあり、意味深な赤丸がひとつ書いてあった。住所らしきメモも記載されている。その場所は学園街の端の方だと言うことはすぐに理解できた。

「君とチェルシーが踊っている時に、明日何かあればここに来てくれと、頼まれていた。君には言うなと口止めをされていてな」

 じゃあつまり、彼女達は呼び出しを受けて、危険も把握していたのだろう、それでも行かなければならない事情があったと思った方がいい。脅されていたとか、何かの取引とか。
 
 とにかくここに行くしか手がかりは無い。シャーリーを問い詰めてもいいけれど、絶賛私の魔力はガンガン減っている。そんなことをしている暇があるとは思えない。

「わかった!すぐ行こう、二人が━━━
「待て、君は消耗しているだろ、俺たちが行ってくる、君はここ……いや出場者席の方へ戻れ」

 私が外廊下からすぐにでも飛び出そうとすると、サディアスに腕を掴まれる。

「っ」
「私も同意見です。クレア、少し無理をしすぎです」
「でも!二人を守らなきゃ!」
「落ち着いてくれ、クレア!」

 ヴィンスにも反対され、それでもどうしようもなく心配な気持ちが抑えられない。それに、私のせいだ、シャーリーに私が喧嘩なんか売ったから!

 サディアスに、一層強く制止されて、私自身の事も心配されて居るということは理解出来るのに、それでも、待っているという選択肢だけは取れない。

「そもそも、君は魔力の回復に務めるべきだろ、安全な場所にいてそのアタッチメントを出来るだけ長く使っているのが一番の安全策だ!」
「っ……」

 その通りだ。二人を守るのなら、それがいい。

 でも、やっぱり、ダメなのだ。無理をしたとしても、それで自分が辛い目に会おうとも、二人が、怖い目にあっているのに、私一人がそれから目を背けるなんて出来ない。

 真剣に見つめて来るサディアスを見返す。私がついて行った方がいい理由をちゃんと説明するなり、しなければならないのに、思わず、涙が滲んで視界が歪む。

「ふっ……っ、待ってられない、お願い、連れてって」
「…………君な……そんな事を言ったって…………」

 声が震えて、サディアスに縋るように彼の手をつかみ返す。どうしても、ダメなんだ。

「ヴィンスもっ、お願い。……自分の身は自分で守るから!」
「…………」

 ヴィンスにも頼むが、彼は珍しく私のお願いに対して即答してくれない。それでも今は頼む事しか出来ない。

 今でも魔力がどんどん減っている。チェルシー達は攻撃されていて、怖い思いはいていないか、怪我してはいないか、はたして、いつから二人は危険な目に合っているのか……既に手遅れなんじゃないか。

 そんな考えが浮かんでは消えていく。だって、私とシャーリーの試合はブロンブバッチの中でも、後の方だった。私がアタッチメントを使い始めた時にたまたま攻撃が始まった?そんなはずは無いだろう。きっともっと前から、危険にさらされていた可能性の方が大きい。

 武器は基本的に学園の外への持ち出しは禁止されている、チェルシーは武器を持っていけただろうけれど、シンシアに攻撃手段があったとは思えない。

 考えれば考えるほど、良くないことばかりが思い浮かんで、じわじわと涙が滲む。

 そんな私に耐え兼ねたとばかりに、サディアスは、はぁと大きくため息をついて、パッと手を離す。

「敵が俺たちの手に負えない場合にはすぐに逃げてくれ……約束できるなら、後ろからついてきてもいい」
「サディアス様がそう仰るのでしたら、私は構いません」

 許しを出してすぐにサディアスは外廊下の柵に飛び乗って、走り出す。私も後を追って、魔力を強めた。陽気に露店を回っている一般の人達を避けるようにして駆け抜け、学園街に入ってからは商店街の屋根を伝うようにして走る。

 そんな二人の背後を追っていると、なんだか忍者みたいだななんて考えつつ、自分も随分、人間離れしてきたような気がする。

 でも前世でもこうやって屋根をぴょんぴょんしているスポーツ?があったよね?なんだっけ、パルクールだっけあれみたいなものだろう。

 そんな風に現実逃避をしながら、私は剣を抱えて屋根から屋根を飛び越え続けた。

 本当は落ちそうで怖いだとか、他人の家を踏み台にして走るのはどうなのかという現実的な思考もあったのだが、今はそんな事に耳を傾けられるほどの余裕は無かった。

 学園街は中央の広場から、展望台までのまっすぐした道がメインストリートになっていて、お祭りの露店は主にそちらに出ている。普段も活気のある商店街だ。

 そこから一本裏手に入ると落ち着いや喫茶や、小料理屋、日用雑貨の販売店、そして学園街の端の方には民家のある区画があり、さらに端の方には、少しばかり治安の荒れている人の住んでいない倉庫や廃墟がある。

 シンシアのメモにはその、人がいない区画のひとつの倉庫が指定されていた。

 魔力の残量も少ない。私は焦る気持ちを抑えて、地図と見比べて、目的の場所を探すサディアスの後ろについた。
 
「……」
「サディアス様、多分あちらです」
「ああ…………クレア、降りるぞ」
「うん」
 
 サディアスは、とても怒っている時と同じような声でそういって、私は意味もなく魔法玉をぎゅっと握る。とても嫌な感じがするのだ。

 こんなに明るくて、昼間で天気もいいし、陽気なお祭りびよりなのに、この場所にだけある重たい空気に、心霊スポットにでも迷い込んでしまったような気分だ。

 倉庫の前に降り立つ、遠くからはお祭りの喧騒が聞こえる。

 サディアスが剣を抜き、ヴィンスはいつものナイフを出して、少し神経質に自らの制服を正す。

 中からは、不定期にガンッ、ガンッと鈍い音がしている。音に合わせて、減っていく私の魔力。この音がチェルシー達を攻撃している正体なのだと思うと、何とも薄気味悪い。
 


しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

旦那様、前世の記憶を取り戻したので離縁させて頂きます

結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
恋愛
【前世の記憶が戻ったので、貴方はもう用済みです】 ある日突然私は前世の記憶を取り戻し、今自分が置かれている結婚生活がとても理不尽な事に気が付いた。こんな夫ならもういらない。前世の知識を活用すれば、この世界でもきっと女1人で生きていけるはず。そして私はクズ夫に離婚届を突きつけた―。

悪役令嬢でも素材はいいんだから楽しく生きなきゃ損だよね!

ペトラ
恋愛
   ぼんやりとした意識を覚醒させながら、自分の置かれた状況を考えます。ここは、この世界は、途中まで攻略した乙女ゲームの世界だと思います。たぶん。  戦乙女≪ヴァルキュリア≫を育成する学園での、勉強あり、恋あり、戦いありの恋愛シミュレーションゲーム「ヴァルキュリア デスティニー~恋の最前線~」通称バル恋。戦乙女を育成しているのに、なぜか共学で、男子生徒が目指すのは・・・なんでしたっけ。忘れてしまいました。とにかく、前世の自分が死ぬ直前まではまっていたゲームの世界のようです。  前世は彼氏いない歴イコール年齢の、ややぽっちゃり(自己診断)享年28歳歯科衛生士でした。  悪役令嬢でもナイスバディの美少女に生まれ変わったのだから、人生楽しもう!というお話。  他サイトに連載中の話の改訂版になります。

悪役令嬢になりたくないので、攻略対象をヒロインに捧げます

久乃り
恋愛
乙女ゲームの世界に転生していた。 その記憶は突然降りてきて、記憶と現実のすり合わせに毎日苦労する羽目になる元日本の女子高校生佐藤美和。 1周回ったばかりで、2週目のターゲットを考えていたところだったため、乙女ゲームの世界に入り込んで嬉しい!とは思ったものの、自分はヒロインではなく、ライバルキャラ。ルート次第では悪役令嬢にもなってしまう公爵令嬢アンネローゼだった。 しかも、もう学校に通っているので、ゲームは進行中!ヒロインがどのルートに進んでいるのか確認しなくては、自分の立ち位置が分からない。いわゆる破滅エンドを回避するべきか?それとも、、勝手に動いて自分がヒロインになってしまうか? 自分の死に方からいって、他にも転生者がいる気がする。そのひとを探し出さないと! 自分の運命は、悪役令嬢か?破滅エンドか?ヒロインか?それともモブ? ゲーム修正が入らないことを祈りつつ、転生仲間を探し出し、この乙女ゲームの世界を生き抜くのだ! 他サイトにて別名義で掲載していた作品です。

【コミカライズ2月28日引き下げ予定】実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。

氷雨そら
恋愛
悪役令嬢だと気がついたのは、断罪直後。 私は、五十も年上の辺境伯に嫁いだのだった。 「でも、白い結婚だったのよね……」 奥様を愛していた辺境伯に、孫のように可愛がられた私は、彼の亡き後、王都へと戻ってきていた。 全ては、乙女ゲームの推しを遠くから眺めるため。 一途な年下枠ヒーローに、元悪役令嬢は溺愛される。 断罪に引き続き、私に拒否権はない……たぶん。

悪役令嬢の生産ライフ

星宮歌
恋愛
コツコツとレベルを上げて、生産していくゲームが好きなしがない女子大生、田中雪は、その日、妹に頼まれて手に入れたゲームを片手に通り魔に刺される。 女神『はい、あなた、転生ね』 雪『へっ?』 これは、生産ゲームの世界に転生したかった雪が、別のゲーム世界に転生して、コツコツと生産するお話である。 雪『世界観が壊れる? 知ったこっちゃないわっ!』 無事に完結しました! 続編は『悪役令嬢の神様ライフ』です。 よければ、そちらもよろしくお願いしますm(_ _)m

私を幽閉した王子がこちらを気にしているのはなぜですか?

水谷繭
恋愛
婚約者である王太子リュシアンから日々疎まれながら過ごしてきたジスレーヌ。ある日のお茶会で、リュシアンが何者かに毒を盛られ倒れてしまう。 日ごろからジスレーヌをよく思っていなかった令嬢たちは、揃ってジスレーヌが毒を入れるところを見たと証言。令嬢たちの嘘を信じたリュシアンは、ジスレーヌを「裁きの家」というお屋敷に幽閉するよう指示する。 そこは二十年前に魔女と呼ばれた女が幽閉されて死んだ、いわくつきの屋敷だった。何とか幽閉期間を耐えようと怯えながら過ごすジスレーヌ。 一方、ジスレーヌを閉じ込めた張本人の王子はジスレーヌを気にしているようで……。 ◇小説家になろうにも掲載中です! ◆表紙はGilry Drop様からお借りした画像を加工して使用しています

転生者はチートな悪役令嬢になりました〜私を死なせた貴方を許しません〜

みおな
恋愛
 私が転生したのは、乙女ゲームの世界でした。何ですか?このライトノベル的な展開は。  しかも、転生先の悪役令嬢は公爵家の婚約者に冤罪をかけられて、処刑されてるじゃないですか。  冗談は顔だけにして下さい。元々、好きでもなかった婚約者に、何で殺されなきゃならないんですか!  わかりました。私が転生したのは、この悪役令嬢を「救う」ためなんですね?  それなら、ついでに公爵家との婚約も回避しましょう。おまけで貴方にも仕返しさせていただきますね?

誰からも愛されない悪役令嬢に転生したので、自由気ままに生きていきたいと思います。

木山楽斗
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢であるエルファリナに転生した私は、彼女のその境遇に対して深い悲しみを覚えていた。 彼女は、家族からも婚約者からも愛されていない。それどころか、その存在を疎まれているのだ。 こんな環境なら歪んでも仕方ない。そう思う程に、彼女の境遇は悲惨だったのである。 だが、彼女のように歪んでしまえば、ゲームと同じように罪を暴かれて牢屋に行くだけだ。 そのため、私は心を強く持つしかなかった。悲惨な結末を迎えないためにも、どんなに不当な扱いをされても、耐え抜くしかなかったのである。 そんな私に、解放される日がやって来た。 それは、ゲームの始まりである魔法学園入学の日だ。 全寮制の学園には、歪な家族は存在しない。 私は、自由を得たのである。 その自由を謳歌しながら、私は思っていた。 悲惨な境遇から必ず抜け出し、自由気ままに生きるのだと。

処理中です...