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人それぞれの企みと行動……。6
しおりを挟むコンコンとノックをして声をかける。
「オスカー!クレアだよー来たよー入っていいー?」
彼の部屋に向かって、ある程度の声で言う。今後のことについてや、昼に私たちがエントリーしている事を教えてもらったお礼などを言いに来たのだ。
夕食が終わってすぐの時間帯なので、部屋にいると思うのだが。
しばらく待ってみると「入ってきてくれ」とドア越しに声が聞こえた。扉を開けて中へ入ると、リビングのソファで、上裸で渋い顔をしている彼がこちらに視線を向けた。
「ぎゃっ、ああ、貴方!服!!」
「ぎゃって、驚きすぎじゃない?クレア」
咄嗟に顔を覆って見ないようにするが、呑気なディックの声に、私は少しだけ指の隙間を開けて彼を探した。
彼は水桶のようなものを持っていて、オスカーは心做しか汗をかいている。もしかするとただの裸族では無いのかもしれないと思い、恐る恐る彼の事をしっかりと見れば、腹に酷い打撲跡がある。
「……ど、どうしたの?喧嘩?い、痛そう……」
「いいからこっち来い、あ、その前にな、お前、部屋の近くにサディアスとヴィンス連れてきただろ。気が散るから帰らせろ」
「う、うん、わかった」
部屋の扉を開けて、ものすごく怪訝そうにこちらを見るサディアスと、いつも通りのヴィンスに私は「部屋の外にいるのもダメだって」と伝える。
すると、ヴィンスはサディアスに何かを耳打ちして、仕方ないとばかりに二人は去っていく。
どこの誰と会うかということを私は最近だいたい、二人に必ず報告している。そうしろと言われたわけではないのだが、内緒にしているとあまりいい事が無いので自己申告だ。
そうするとこうして送ってくれたり、待っててくれたりする。しかしどうしてオスカーは二人が部屋の外で待機しているとわかったのだろう?
「帰ったけど、なんでヴィンスとサディアスが居るってわかったの?」
対面側のソファに腰掛けながらオスカーに聞く、彼は、ディックが水に濡らしたタオルを患部に当て少し表情を険しくしながら答える。
「気配がすんだよ。お前には分からねぇと思うけどな」
「……そういうもの?」
「そうだ」
「ところで聞いていい?」
気配ということで納得しておき、私は彼の青紫になっている鳩尾あたりの傷を見た。というかちゃんと見れば、彼は細かな切り傷と腕や足への打撲も目立つ。
「昼間から今までに何があったの?喧嘩?」
何となく、ディックは平気そうで彼だけが酷い怪我を負っているので、あの後お祭りで、羽目を外した上級生にでも難癖をつけられて喧嘩を売ったのではなんて考えてしまう。
「違うよ。僕を守ってくれたんだ。…………あの人……クレアからも━━━
「ディック!……言わねぇ事にしたよな? 実際言ってもこいつのキャパオーバーになるだけだろ」
「でもっ、酷いじゃないか!っ、ッ~!とにかく酷いって、僕はっ思うしっ!!」
何やらディックの方まで相当ストレスがかかっているらしく、オスカーの胸に顔を埋めて泣き出してしまう。それから拳を握って、どんっとオスカーの胸板にたたきつけた。
それをまったく気にせずにオスカーは愛おしそうに目を細めて、ディックの柔らかい頭を撫でる。
「クレア、この怪我は気にすんな。ちょっと厄介な奴に絡まれただけだ」
「……そう……」
オスカーは結論付けるようにそう言って、彼の鋭い瞳に、何やら意味深な事を言っていたけれど、聞くことは出来ない。
とにかく痛そうなので早く治して欲しいのだが、魔法を使ってそれをしないということは、魔力が底をついてしまっているのだろう。
私は魔法玉を出しながら、彼の隣へと移動する。
「すぐに呼んでくれても良かったのに」
「……さすがに情けねぇだろ」
そんな事は無い、普段から助けて貰っているのだ、こういう時ぐらいは役に立たせて欲しい物である。
私に注げる魔力はないだろうから、私は彼の魔法玉の魔力を取り込んで、固有魔法を起動する。
途中、彼の首元にディックの魔力の色に染まったペンダントがオスカーの首元にもある事に気がついたが、心の中の色々なツッコミを押し流し平静を保つ。
割と酷い怪我だったようで、ぐんぐんと魔力を込めていくのにどんどんと消費されて、オスカーも傷の修復に務めるためには目を瞑った。
「……ずび、……ふっ、……うぅ…………ねぇ、クレア、君たち結局、公開試合は、どうなったの?」
少し泣いて落ち着いたのかディックはオスカーに頭を預けたまま私に聞いてくる。
同性だとしてもよく、裸体に縋りつけるなと、頭の隅っこで考えつつ昼の事を思い出した。
「あれね。エントリーの書類、見せてもらったけれど、私達全員、書いた覚えもなければ字体も違ったよ」
「…………」
「でも、個人戦と違って棄権は出来ないって言われてしまったから出るしかない見たい」
「……なるほどね、偽造が出来ないように、担任しか受理できないようにした方が良さそうだね。父さんに伝えておくよ」
「そ、それもそうだね」
個人的には、勝手にそんな事をする人が居るということの方が問題だったのだがディックの方は、そういった偽造が無くなるようにしたいらしい。
てっきり、なんの目的でとかそういう話になるのかと思って先程まで、ヴィンスとサディアスと考えていた考察について話をしようと思っていたし、なんなら、公開試合の対策は考え尽くして、結局、私はちゃんと固有魔法を使って魔力を温存していくという結論まで出したところだった。
まぁ、同じ話を二度しなくていいのは助かるし、ここは伝えてくれたお礼だけで十分だろう。
「でも、あのままミーティングをすっぽかしてたら私の成績にも響いていたと思うから、ディックが教えてくれて助かったよ。ありがとう」
「!…………うん、まぁ、別に!」
「で、結局、偽造をした相手はわかったのか?問題はそこだろ」
「……多分、私の相手のシャーリーだと思う。でも、きちんとした試合だし、観客もいるから、私は魔法をしっかり使って、彼女と向き合う意外は出来ることはなさそうだよ」
「そうだな。お前なら……どこにでもついてくる護衛がいるもんな」
オスカーは私を少し揶揄うように言って、こちらに目を向ける。私は苦笑を返して「そうだよね」と少し安心しつつ言葉を返す。
ヴィンス達といくら話し合っても、彼女の意図が分からないことによって、不安が心を満たしていたのだが、オスカーが言うように、私は二人がついている、大丈夫なはずた。
「……助かったクレア、悪いなお前の魔力を使わせちまって」
「ううん、いつでも言って。必ずくるから。……と、治ったのなら服着て!気になるから!」
「お、おう」
いつの間にか完璧に傷の治ったオスカーに、服を着るように指示しつつ、私も元のソファへと戻る。彼は寝室の方へと向かって、それから適当なシャツを羽織って戻ってくる。
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