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楽しい時間はあっという間で……。6
しおりを挟むトランプを配り終えて、ペアを捨てていく。最終的には数枚残り、彼も同じようにしてそれからふと私を見た。私から取ってもいいのかなと思い、適当に彼の手札だから一枚抜く。
当たり前のようにペアが揃って、カードを捨てた。
というか今、ローレンスの手元には、ババが入っているはずだ。それなのにまったく何も言わずに今度は、私の手札からカードを取って、同じようにやり取りを繰り返す。
ある程度回数を繰り返した所で、ババを抜いてしまう。
「…………あぁ、……うーん」
本当なら、もう少しリアクションをして、楽しげにババ抜きをしたいのだが、ローレンスが妙に真剣な瞳でこちらを見てくるのでそれもしずらい。
仕方がないので手早く手札を切ってローレンスに分からないように手札を並べ替え、彼に向けた。
それからローレンスは少し間を置いてから、私の手札を抜く。
私もそれを繰り返し、最終的にババは私の手札に残って負けてしまう。
「…………負けちゃった」
「大金貨を二枚減額でいいのかな?」
「!……そ、それは……困るというか……」
はっきりとさせていなかった増減額について、ローレンスは自らが増やせると提示した額として私に言ってくる。
お小遣いは私の分だけでは無くヴィンスも一緒に使っているのだ、減らされると私の生活だけでなくヴィンスの生活まで圧迫してしまう。
それは私の独断で勝手にやったこんなゲームで決まってしまうととても困る。
えらいことになったと汗をかきつつ、ローレンスの事を見れば、彼は焦る私を少し面白そうに見つめて、手札を回収する。
それから自分でシャッフルし始めた。それはヴィンスの手つきに何となく似ているような気がして、そういえば謎に彼はカードゲームが強かったなと思う。
「勝てば、大金貨二枚取り戻せるね」
「…………」
それはそうだが、負けると生活の圧迫どころの騒ぎでは無い。
渋る私に、手早くローレンスは手札を配り始める。
「君が提案したゲームだ、勝算が有るんだろう?」
「……わかった、やろう」
そうだ。ババ抜きなんて、ただの運だ。二回連続で負け……たとしても、三回目に勝てればいい。今回負けて、もう一回と私が言ってもローレンスは付き合ってくれるだろうし!
そう思い、手札を裏返す。私の手札の一番上、つまり最後に配り終わったカードがババだった。
ちゃんとシャッフルしている所を見ていたし、こんな偶然もあるのだなと思いつつ、せっせとペアを捨てていく。
「っ……ははっ、なんだか子供を相手にしている気分だよ」
「え、私、何か変なことしてた?」
「いいや、まったく構わないよ。さあ、どうぞ」
引けとばかり差し出されて、私はカードを引いて、次にローレンス。
私たち二人は、カードを引いてはペアを捨てるを繰り返し、私のババはまったく引かれることは無い。
「……ちょっと待って」
次のカードを引こうとしたローレンスにストップをかけ、これはまずいと思い。自分なりに、ババを端っこの方へと持っていって引かれやすいようにしてみる。
いそいそとカードを移動してるのを彼は、目を細めてじっと見て、それから、今まで、まったく迷った素振りを見せなかったのに、私がカードを差し出すと、ローレンスは、徐にカードの端へと指を乗せて、それをゆっくりと縁をなぞるようにスライドさせる。
「……」
「……」
それから、私と目を合わせて、端っこの私がわざわざ移動したババのカードを指さして言う。
「負けてあげようか?」
「!」
「君、本当に何もしていないね、相変わらず何がしたいのか分からないよ」
咄嗟に、手札を自分に引き寄せて、シャカシャカとシャッフルをする。どういう訳か彼にはババがわかったらしい。私はそんなにわかりやすいだろうか。
……それに、何もしてないって何?なんかババ抜きってほかのルールあったっけ?
「な、何もしてないって?……はい!これで分からないでしょ!」
「……ヴィンスに聞いてみるといいよ」
そう言って彼は、負けてあげようか?と言う質問を私が無視したからかババでは無い普通のカードを抜いて、結局私の元からババが無くなる事はなかった。
そしてローレンスは、お小遣いがマイナスになるわけには行かない私が次に指定した神経衰弱をして、全勝した。
つまりマイナスのお小遣いとは、多分支払いが発生した事になる。どうしたもんかと考えつつ、冷めた紅茶を飲んでいれば、彼は少し機嫌を良くして、またトネリコの花をつつきながら言う。
「……そんなに真剣に考えずとも、君はただの遊びのつもりでトランプ勝負を挑んだのだろう?」
「う、うん、でも、一応、約束は約束だし……ローレンスが増額しなきゃいけなくなる可能性もあったはずだし……」
「……無いよ。それにどうせ勝っても、君はいらないと言っただろ」
……そのつもりではあったが、そうだったからと言って、ローレンスの利益になる事をなかったことにするのは何となく気が引ける。
私が納得していない事に、彼はやっぱりどうでも良さそうに微笑んでそれから「では」と言う。
それから、トントンと自らの頬を指さす。
「キス一つで帳消しにしてあげよう」
そう言われて、私は瞬いた。そんな彼らしからぬ提案に、首を傾げつつ、立ち上がって彼の側まで行く。
後ろで一連の流れを見ていたアーネストとユージーンは、ややアーネストの方は気恥ずかしそうにしながら、ユージーンは何か他のどうでもいい事なんかを考えていそうな顔をして、護衛対象であるローレンスの事を見ている。
そんな状況に若干の気まずさを感じつつも、でも、キス一つで大金の支払いを間逃れるのなら、安いものだと思う。
ローレンスは私の了承など取らずに、もう二回も勝手にキスしてきているのだ、今更頬にキスするぐらい恥ずかしくない。
「…………」
「どうしたのかな。簡単に頬にするだけで許してあげると言っているんだけど、辞めておく?」
「っ……」
ぶんぶんと頭を降って、やるにはやる事を伝えるが、彼の顔の位置まで屈んでみて、流し目でこちらを見るローレンスの瞳と目が合うと、途端にカッと頭に血が登った。
きっと顔が赤くなっているのだろう、ローレンスはそんな私を見てかさらに上機嫌になって、私の頬に触れたり、そのまま耳をふにふに触ったりする。
心地いい肌触りの手が耳の縁をするする撫でて、羞恥からか視界がちかちか白くなって、気が遠くなる。
「…………私から触られるのにはあまり抵抗がないのに、君は自ら触れるとなると……そんな顔をするんだね」
「……っ……」
返事をしない私に、ローレンスはぎゅっと耳に爪を少し食い込ませて、痛みがじわっと広がって、吐息を漏らした。
鼓動がおかしなほど鳴り響き、思わず、彼の服の裾を掴む。
「……いいよ、なら、これで勘弁してあげよう」
不意に彼が近づいて来て、唇が触れ合う。
思わず目をぎゅっと瞑ってしまい、ローレンスがどんな表情をしているのかよく分からなかった。
それから、過度の緊張からか頭がぼーっとして、しばらくもしないうちに部屋へと返された。
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