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楽しい時間はあっという間で……。5
しおりを挟むローレンスと彼の部屋に入ると、今日はいつものソファではなく、窓の外のバルコニーへと案内された。
てっきり私は、今日は二人きりだと思ったので、ヴィンスを部屋へと残して来たのだが、彼には二人の護衛が付いており、給仕に侍女ちゃんもいた。
バルコニーに設置されているテーブルへと座るようにローレンスに言われ、既に豪華なお茶会の用意がされていた。
後から彼が座って、その背後に二人の護衛が立つ。
「ララと露店を回るのは楽しかったかな?」
特にお茶を勧められるという事も無く、彼は会話を始め、かってにお茶を飲む。護衛の二人が居ることで仰々しさを感じていたのだが、どうやら堅苦しいお茶会という訳でもなさそうだった。
「いただきます。……楽しかったよ。綿菓子食べたり……串焼き食べたり……目につくものはだいたい食べたかも」
「……では君の好きな菓子はもう食べられないかな?」
彼はお茶を飲みながら、三段にセットされているケーキスタンドへと目をやった。一段目にはサンドイッチ、二段目にはスコーンなど、三段目には生菓子が乗っている。キラキラと輝くお菓子たちに私は目を輝かせる。
「べ、別腹だから、余裕」
「……だろうね」
彼は嘘なのか本当なのか分からない笑を見せて、あの日、以来態度が少し軟化している事に少し嬉しく思う気持ちもありつつも、個人的には戸惑いもあった。
「沢山食べたらいいよ、君は少し太った方がいい」
「……ありがたいけど……年齢的に上にはこれ以上伸びないから、本当にまん丸になるよ?」
「構わないよ、君がボールのようになっても私は別に気にならないからね」
「ぼ、ぼーる……」
言われてポヨンポヨンとしている私を想像する。ローレンスが気にならないとしても……いや、ヴィンスが……いや、ヴィンスも気にしなさそうだ。なら、サディアスは!
……不健康じゃないのなら良いと言いそうだね。
そんな想像をしてから、いやいやいやと首を降る。
「ローレンスが気にならなくても私が気にするから!」
「そうかな、それでは仕方がないね。ケーキは下げさせよう」
「!…………やっぱり、気にするのは明日からにする!」
「素直に食べたいと言えばいいよ」
「……食べたいです」
私の言葉に満足したローレンスは、取り分ける用のお皿を自らの分と私の分として置いて、彼はさあどうぞと言わんばかりにこちらを見て微笑む。
陽の光の中、嫋やかに微笑むローレンスは、やっぱりどこからどう見ても三百六十度王子様らしくて、眩しいぐらいだ。
私は再度いただきますと言って、自分のお皿にサンドイッチを少し乗せてもくもくと食べ始めた。
ふと、ローレンスが、学園街の方を見ている事に気がつく。私とララが先程まで、遊んでいた場所なだけあって、そういえば彼はどうして今日という記念祭の当日に、これ程仰々しくお茶を、それもお祭りの見えるところでしているのだろうと思う。
「ローレンスはお祭りには行かないの?」
「…………式典に参加することはあっても、君たちのように露店を回ったりは出来ないよ」
「出来ない……?」
どうして?と言おうとして、それから、護衛の二人を見て気がつく。確かにあんな人混みには行けないだろう。ローレンスは王子様だ。
開会式とかに参加したり、特別席で出し物を眺めたりはするのだろうが、行ったりするのは無理がある。
というかどうして私はそのことにすぐに気が付かなかったのだろう。こうして誘われた時点で気がつくべきだった。
「そっか……」
ごめんと言おうとして、その言葉は嫌いだったなと考え、それからこちらを見ている彼に、質問形式で聞いてみた。
「お祭りのお話を私から聞くのと……お祭り気分を味わうのどっちがいい?」
「……前者は意味がわかるが、後者は理解し兼ねるね」
取り敢えず両方やっておくかと思い、私はララとお祭りに行くときに持っていた鞄から「いらないでしょ、そんなもの」と言われつつ購入した、トネリコの花のブーケを取り出す。
「造花だけど、記念祭のお花なんでしょ?」
「……そうだね」
侍女ちゃんが、察知して下がっていきすぐに、透明なグラスを持ってきた。確かにテーブルに放ってあるより、ましだろう。お礼を言ってそのグラスを花瓶のようにして飾った。
「……君、どうしてそんな物を持っているのかな」
「え、記念に買っただけだよ」
「そんな何処にでもある祭り飾りのレプリカを?」
「無駄っていいたいの?……ララにも同じような事を言われたんだけど……思い出のつもりだったんだけど……」
そんな、確かに無駄かもしれないが、こう言うのは思い出じゃないだろうか。
当たり前のように二人にそう言われ、何となく凹んでしまう。確かにローレンスのお金を使っているし、無駄遣いは良くないと思うけれど、楽しかったのだから、残して置きたいし、こうしてローレンスにも見せられて私は銅貨五枚にしてはいい買い物をしたななんて思っていたのに。
でも、お金を出してくれているローレンスがそう思うのなら良くないのかなと思い。気をつけようと思う。
そんな私にローレンスは気がついてか、そうじゃないのかわからなかったが、そのトネリコの花へとふと手を伸ばして、つんつんと触って見せた。
安物なので針金と布で出来ているそれは、彼が想像していた触り心地と違ったらしく、興味深くそれを見る。
「硬いね」
「多分針金で芯を作っているからじゃない?」
「そうだね。ただあまりそういった安物を間近で見ないものだからついね」
「なるほど……」
ローレンスは、一つの花弁をクイッと引っ張ってその形を変形させる。それから変な表情をして、それから私に視線を向けた。
「それで、君のお祭り気分とはこれでおしまいかな」
「!……う、うーん、じゃあこれも……」
こちらは、暇しているだろうローレンスと遊ぼう、などと安直に考えて持ってきた代物だ。
今更ながら彼に向かってトランプなど出すのが恥ずかしかったし、なんならお祭り気分でハイになっていた事は言うまでもないだろう。
でもここまで来て、退屈な奴だと思われるのもなんだか癪に障るのでとりあえず置いてみる。
テーブルは広々としていたので、トランプゲームぐらいならできると思う。
「記念祭とは関係がないように思うけれどね」
「それは……その通りだけど」
「では何かな、私に何か勝負でも挑むつもりかな」
そういった意図で持ち込んだのだと、彼は解釈したらしく、間違ってはいないけれど、何だかニュアンスが違う気がする。
「うん?」
「私に強請りたいものでもあるのなら素直に言えば検討するよ、こんな事をせずとも」
「……勝負に買ったら何か買ってくるってこと?」
「…………順序が逆だろう? 何か得たいものがあるから、こんなものを持ってきた、違うのかな?」
半ば決めつけるように言われて、私自身がそんなに強欲で打算的に見えるのかと疑問に思う。
確かにトランプは勝敗に賭けをしたりする事だってあるだろうが、そもそも遊ぶ事が目的であって、誰かにものを強請るためのものじゃない。
「じゃあ……お小遣いの増減でもかける? その方が張合いが……出るし?」
「何だ、今の金額では少ないのかな、それなら大金貨二枚程度なら、増やしても問題がないよ」
「え?……えぇ、違うよ。まぁ、いいから勝負しよ!何がしたい?」
少し椅子をずらし、紅茶を飲んでそれからトランプを切る。彼は変わらず怪訝そうな表情のまま、私の切るトランプカードを見つめて「君の好きな物で構わないよ」とどうでも良さそうに言った。
「じゃあ、ババ抜き」
「…………クレア、あまり私を侮らない方がいい」
……何だその、厨二病みたいなセリフは。
意味がわからなかった。ババ抜きなんてほぼ運である。「うん……?」と気の抜けた返事をして、適当にカードを配っていく。やる気は無さそうなのに、私の手元をローレンスはしっかりと見ていて、何となく動きがぎこちなくなる。
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