悪役令嬢に成り代わったのに、すでに詰みってどういうことですか!?

ぽんぽこ狸

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楽しい時間はあっという間で……。2

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 彼女はただでさえ飾らなくとも綺麗だと言うのに、原作の立ち絵とはまた違った少し成長した上品な大人の装いに、大勢の中でぱっと目を引くほど美しかった。

 そんなララは、すぐに気配を察知したと言わんばかりに私達に気がついて、鋭い視線を向ける。それからつかつかと足音を鳴らしてこちらへと近づいてくる。

「おはよう! クレア…………私は、てっきり今日はデートだとばかり思っていたのだけど?」

 左右の手を繋いでいる彼らを見てかララは、そう言ってじっとこちらを睨む。

 ヴィンスはぱっと手を離して穏やかに笑顔を見せる。

「ララ様おはようございます、本日はクレアをお願い致します」
「……ええ、言われなくてもわかってるわ」

 彼女はそれから腕を組んで、サディアスを見つめた。サディアスも彼女を見つめ返す、彼は私の手を握っているままだ。

「あら、領主様、今日は私が彼女と先約だからさっさと離してくれない?」
「……」
「それに、他人とデートに行く女の子について来るだなんて、随分と女々しいのね、呆れちゃったわ」

 今日のララは随分と刺々しい。まあ、多分最近忙しくて、私も彼女を放って置いてしまったせいだろう。あんまりサディアスを煽るので、ララを止めようと考えるが、くっとサディアスに手を引かれて、ふと彼の方を振り返る。

 彼は、はぁと一つため息をついてから、私を引き寄せて腰を抱いた。それから、ちゅっと額にキスをして、私からぱっと手を離す。

「あまり羽目を外さず楽しんで来るといい。帰ってきたらどんな露店があったのか聞かせてくれ」
「う、うん」

 私の返事を聞いて、彼は身を翻して去っていく。サディアスは人前であまりああして触るような事はしないのでびっくりしてしまった。

 心做しかおでこが熱い気がする。ヴィンスは私に笑みを向けて、それからララへと頭を下げ、サディアスの後を追って人混みのなかに消えていく。

 それを見送っていれば、ララは私の手を不機嫌なまま取って、それからつかつかと歩き出す。身長差は少しあるし、彼女は比較的早歩きだ。私もそれに急ぎ足で合わせてついて行き、無言で歩くララの仏頂面を眺めた。

 こんな人混みの中でも、彼女は目立つからか随分と進むのが早い。広場付近に出ている露店や、出し物を喜んでいる人達を無視して進んだ。

 しばらく同じペースで歩き続け、私の息が上がってきたぐらいで、展望台へと到着する。前回来た時よりも随分と人が多い。ただ相変わらずカップルが多い。一定間隔が空いていてそれぞれのカップルが自分達の世界でイチャイチャしている。

 本当に観光地という言葉がピッタリだ。

 展望台広場の方にも露店が出ていて、お祭り独特のいい匂いがする。ムスッとしたまま立ち止まるララに、私は彼女の手を引いて、広場の端の方へと連れていった。

 ララは潔くついてきて、適当な植え込みのそばのベンチに座らせる。

「待ってて、なんか買ってくるよ」

 せめて飲み物でもあった方がいいだろうと思っての発言だったのだが、手を離そうとすると私の手をきゅうっと握る。

「駄目よ!私から一人で離れないで!」
「…………わかったよ」

 きっと私のことを睨みつけてララは言う。先程危険だと聞いたばかりなので、無理に離れるような事はしない。

 ララは個人戦トーナメントの時から話ができていない。

 理由は私の忙しさもあった、なんせ足を怪我して歩いていなかった数日間のリハビリが大変で、今でこそ、自由に動けているが、不自由な中、彼女に会いに行くのは難しかった。

 しかし、ララの方もよっぽど忙しかったと思う。個人戦優勝で、私が結局また出られなかった表彰式で表彰されただろうし、バッチを貰うとチーム内での方向性なんかを話し合う必要が出てくる。

 それにあれほど圧倒的な強さを見せた彼女に、現魔法使いや、学年が上の人までララに会いに来ていたりするという噂だ。

 元々、私がこうして彼女の時間を独り占めしていいほど、ララは安い人間では無い。わかっていつつも寂しく思いながら、この記念祭まで、というかこれからも、あまり彼女を独占しないようにと心がけていた。

「……言ってなかったけど、個人戦優勝おめでとう、ララ」
「そのセリフは聞き飽きたわ、嬉しくもないったら」

 ツンと返されてしまい、まぁ、そうだろうなと思う。今更すぎだ、ララが嫌な気持ちになってもおかしくない。

「…………貴方、サディアスと恋人になったの?」

 ララはじとっとこちらを見ながら言う。その件については誤魔化してもどうしようも無いので「うん」と返す。

「個人戦の日、貴方を負傷させたのサディアスでしょう」
「あれ、誰から聞いたの?」
「いいえ、見てれば分かるわよ。あの人そういう事をする人だわ」
「そう……なんだ?」

 首を傾げつつ、返事をする。……急にこういう話題を出してくるという事は、もしかして、私が最近彼女に会わなかった事よりもそっちの方が嫌なのだろうか。

 サディアスがララを嫌いだと言うのは知っていたけれど、ララ側もどうやらだいぶ怨念が深まっているらしい。

「…………彼では貴方を守れないわよ」

 今日のララはやけに踏み込んでくる。守れる守れない問題は本人も気にしていたが、物事はそんなに一辺倒で単純では無いし、何より私は守ってもらおうと思って付き合うようなことはしない。

「……それは、ローレンスから私を?それともコーディーから私を?」

 こちらもそういう話がしたいのなら、ララがこの先どうするつもりなのかも聞かせてもらおうと思い、言ってみる。確かララは、クラリスの思惑までは知らないだろう。

 足りない情報で、私の動きを曲解されるのは困る。それに、少し前にララとローレンスの合間も取り持とうと考えていたりしたのだが、個人戦の前に話したことを鑑みれば、その必要はないように思う。

「コーディーよ。……だって貴方、ローレンスに逆らったら、学園にいられなくなるわよ?」
「それはわかってる、ただ……クラリス、いるでしょ?クラリスがね。ローレンスを排斥したいんだって、だから、ローレンスが呪いの力を手に入れる必要がある。私はクラリスに作られてるから逆らえない」
「……なんだ、あの子、結局ローレンスが好きじゃなかったのね」
「まあ、わかんないけど。だから、私はコーディーをどうにかするんじゃなく、ローレンスが心変わりするしか生きる道がない」

 ララは少し、納得したように頷いて、口を開く。

「それで、ローレンスから守るって話? けれど、どちらにしてもサディアスでは役不足ね。それにそれだと、学園を去らなければローレンスから逃げられないじゃない」
「……」
「ああ……やっぱり私を置いていくのね。それなら、いいわよ別に、私ローレンス側につくから」

 彼女は怒ったようにそう言って、立ち上がろうとする。けれど私はその肩をググッと押し返した。

 相変わらずの早合点だ。そして、自分の前から居なくなるのなら、愛の逃避行だとしても許さない非情さは、割とサディアスにも共通しているところがあると思う。

「…………ねぇ、ララ」
「なによ」

 怒っている彼女に、ゆっくりと語りかける。彼女の早合点に、振り回されるのはこれで何度目だっただろうか。原作では、もう少しおおらかだったので不安定ゆえだと思う。

 確かにこうして情報を共有する事だって大事だ、時には強く言い合ったりもするだろう。けれどぶつかり合うだけが、情を深くさせたり安心させたりしてくれるわけでは無い。

 ただ楽しい時間や、息抜きにそばにいる事だって必要だ。

「とりあえず遊ばない?何か美味しい物でも食べてさ」
「…………気分じゃないわ」
「ララ、私、貴方が楽しそうにしているところ、全然みたこと無いんだけど、気分の時なんてあるの?」
「……無いわね」
「でしょ?……なら、取り敢えず私に付き合ってよ、気分になってくるかもしれないし」

 両手を取って立ち上がらせる。
 ララはムッとしたまま、私に身を委ねて、今まで素通りしてしまったお祭りの露店へと戻っていく。

 ララの手をしっかりと握って、今度は私が先頭に立って歩き出した。




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