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お祭りなのに悪い予感……。6
しおりを挟む今日は、記念祭の為の休校期間の一日目です。学園では外部の見学者や公開試合などの大きな催し物のための、準備の期間として記念祭が始まる一日前から休校期間があります。
三日間の記念祭は平日の真ん中に三日間、その前後に準備期間と祭りを手伝ったものや羽目を外したもののために一日ずつ休校期間があり、計五日、そこから土曜日の午前授業も片付けという名目で過ごせば、合計一週間のお休みの期間になります。
もうすぐ、団体戦を控えたこの時期だとしても、記念祭の休校日は特別です。
三年間しかないユグドラシル魔法学園の生徒としての記念祭と言うのは、どんな有名な魔法使いでも、青春の思い出として刻まれる特別なものです。
何より、二つの国の架け橋となっているユグドラシル魔法学園には、多くの愛の伝説があります。ですから、学園はどうしてもこの期間になると女子生徒達がその話題で盛り上がるものなんです。
私は、色恋というものにあまり興味はないのですが、それはご法度とばかりに、同じクラスの中のいい女子生徒達は、意中の男性の話に花を咲かせます。
「クリスはやっぱり、あんなに身分が高いのに、少し寂しがりなところがいいの!ね、アイリ」
「そうそう、それに、気遣い屋なのに、気疲れしてしまうところも可愛くて」
談話室の少し使い古されたソファで、彼女達はお互いに顔を見合わせて、言います。その姿はとても幸せそうで、二人はクリスティアン様にとても愛されているのだという事もきちんと伝わってきました。
「はぁ、クリスティアン様にそんな一面があるだなんて素敵です!」
隣にいるチェルシーは堪らないとばかりに頬に手を添えて、うっとりとしました。彼女はこういった話題が大好きなので、私は隣で、うんうんと頷くだけに留めます。
「そうだね、私たちが守ってあげないと駄目なんです」
「ええ、そうですね」
いつも控えめなクリスティアンのチームの二人の女子達がうふふと笑って言います、ミアとアイリは「そうそう!」と彼女たちに同意して、あんな所が良い、こんなところが素敵だと言い合います。
クリスティアンチームは、同じ男性をみんなが好きだと言うことで、ライバルになるのではなく、一致団結して、彼を守り愛するという方向性に向いているのは、一重に彼の技量があってこそだと思います。
戦いにおいてはまだまだ彼は、精進する必要がありますが、人を惹きつけるカリスマ性という部分では、私達のような剣ばかり極めてきた人間よりも飛び抜けているように思います。
それに彼は、大貴族ですから、まとめて皆同じところにお嫁に行く事が出来ると安心できますしね。
平民が貴族の側室になるのは、一人では心細い事が多いのですが、これならば安心です。
「クリスティアン様は本当に皆さんのことを愛してるのね……私はまだまだ、貴族は怖くて、少し話をするだけでも萎縮してしまうわ」
談話室で一番大きなテーブルを囲んでいるせいで、カリスタとそのチームメイトであり、カリスタと一番仲のいいマリアとの距離が遠くて、私は少し身を乗り出しました。
今日は、記念祭の準備に駆り出されている生徒がいる分、普段の休日の談話室よりも空いていたため、広々としたテーブルを選んだのが少し悔やまれます。
「そうだね、カリスタ。私も同じく、クリスティアン様やコーディ様とお話する時は緊張して冷や汗かいちゃうよ」
マリアはそう言って、苦笑いを浮かべます。彼女はディフェンダークラスで同じなので、たまに話をするのですが、小心者だからこそ、隙を見せない戦い方に私は好感を持っているので、悪い事だとは思いません。
「分かります!やはり目上の人となると自分の言動がおかしくないか気になってしまいますよねっ」
「みんな、サディアスのように気さくな貴族だったらいいんですけれどね」
「そう?クリスより、サディアス様の方が少し怖くない?ね、ミア」
「うんうん、アイリ……なんて言うかクリスより、迫力?あるよね」
言われて考えてみますが、彼は本当にたまに、すごく短気な事もありますし、周りを冷静に見ている上での判断は、非情にも思える事があります。それを深く事情を知らない人からすれば、少し怖いという反応になるのも頷けます。
彼自身、あまり他人に事情を話したり、自身の状態をありのまま話すのが得意では無いようですから。
「それはあまりサディアスのことを知らないから、そう見られがちなだけなんですっ!意外と良い人ですっ……その!少しだけ、乱暴というか、たまに怖い話も聞きますけれどっ」
私の思った事をチェルシーがいい、そして続く言葉にも同意する。大方彼はそんな感じです。
その言葉に、カリスタとマリアは苦笑いをしながら言う。
「まぁ、私たちのチームには、貴族が居ませんから、どちらの方々も馴染みが無いので私達は恐れおいような心地よね」
カリスタの言葉にマリアも、同意しつつ、マリアは少し話題を変えて言う。
「うん、だからやっぱり、同じ身分の人が気になってしまうと言うか……」
「!……クラスの男の子ですかっ?」
すぐにマリアの話にチェルシーが食いつきます。私も気になるので、マリアを見つめれば、彼女は少し言いづらそうに私達を見て、それから視線を逸らして言う。
「……オスカーはその、クレアと仲が良かったですよね。恋仲だったりは……」
……オスカーですか、確かにクレアと仲はいいですが、それだけだと思います。それに彼女は多分それどころでは無いと思いますし。
直近の事だと、サディアスに刺されて立てなくなっていたり、いつの間にか妙な傷ができている事が多くあります。
ヴィンスとサディアス、それからローレンス殿下とも関係のあるクレアですから誰がどういうふうに彼女にああいった事をするのかは定かではありませんが、ヴィンスは止めないという時点で同罪です。
むしろ、せめてクレアが、一般的な常識の少しはありそうなオスカーと恋仲であった方が良かったのでは無いかと思うぐらい、彼女のまわりには暴力的な男性が多いです。
「恋仲では、無いと思いますが…………」
チェルシーは、言葉を途中で止めて、言っていいのかダメなのかと、少し私の方を見ました。多分、ディックの事だろうと思います。
彼らは、男の子同士の仲良しを通り越す程、お互いを大切にしていると思うので、そこに割り込めるかは疑問です。
「そうなんだ、それなら、ちょっと安心出来るかな」
「良かったわね、マリア。でも、貴方がオスカーを想っているなんて私まだ聞いていなかったのだけど」
「え、えへへ、ごめんなさいカリスタ。記念祭ももう明日だし、気持ちが焦っちゃって」
まずは自分に相談して欲しかったというようにカリスタは少し唇を尖らせてマリアに言います。でも、マリアの焦る気持ちも分かります。団体戦の成績がもし振るわなくて、進級が出来なかったら、退学になってしまう人も多くいます。
元々卒業が難しいと言われている学園ですから、この一年目の記念祭も、もしかすると最後の記念祭になるかもしれないと考えると、マリアのように動きたくなる気持ちも理解できます。
「オスカーか、確かに気軽に話せるし、かっこいいかも、ちょっと喧嘩っ早いところが難点だけど、ね、ミア」
「うーん、もうバッチも持ってるしね、いいと思う、マリア、もう記念祭を一緒に回るお誘いはした?」
「い、いいえ、まだなの。オスカーいつもディックと一緒に居て、き、気まずいって言うか……」
「なら、私がディックを呼び出して見るなんて言うのはどう?リーダークラスで、話をする機会もありますからね」
カリスタがマリアに提案して、私はなんとなく、やめた方がいいのでは無いかと思います。
クレアがオスカーやディックと仲が良いので、たまに彼らと話をしたり、彼らの関係性を目の当たりにする事があるのですが、おそらくディックはマリアに対して、自分の存在を主張しようとしているような気がします。
オスカーが女の子と付き合うなんて事をディックが受け入れるのかは疑問です。
私は、私と同じだけの情報を持っていて、今までの彼らの関係を見ていたチェルシーに否定的な意味で視線を送りましたが彼女は、それをどう受けとったのか、パチンと私にウィンクを飛ばして、「私もお手伝い出来ることがあったら言ってくださいねっ!」と二人に宣言しました。
何か良くない事が起こりそうだとは思うのですが、他人の色恋とは総じて面倒事ですから、もう私は、聞かなかったことにしてしまおうと思います。
「ところでカリスタ、リーダークラスでは、シャーリー様の動きはどうですか」
「…………そうね、今は自らの派閥のクラスメイト達とお静かにされていると思うわ」
「クリスもあまり、リーダークラスでの事や派閥の事についてはお話してくれないけど、優秀な成績を残したサディアス様とクリスがローレンス殿下と交流を持っている事、私達もたまにクリスはどういうつもりなのかと、他クラスの人から聞かれるね、アイリ」
「うん、ミア。アウガスの貴族派閥の構成が少し変わっていくみたい」
ミアとアイリは困った顔をしてそう言って、二人は顔を見合わせた。
私達のようなメルキシスタの出身者は、それほどアウガスの情勢が変化しても問題はありませんが、カリスタやマリアのように、アウガスの平民はどの貴族と仲良くするのかという家の方針や、その後のその貴族の立ち位置などでたくさんの事がかわってきます。
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