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お祭りなのに悪い予感……。3
しおりを挟むまさかだったのだ。まさか今日来るとは、ローレンスもタイミングが悪い。
コーヒーのカフェインで目が冴えている私は、オイル櫛で髪を梳かしながら、考えた。
既に夜も遅く、いつ来るかも分からないローレンスをこうして待っているが、必死にこうやって別の事を考えているのに、今日のサディアスの事があたまに浮かんで思わず髪をギューッと握りしめて悶えた。
そもそも、サディアスに告白をされてから、自分を一番にしてくれなくてもいいからというような事を言われて、もはや返事不要のような状態だったため、放置していた。
しかしよくよく考えてみれば、ヴィンスとは常に一緒にいて、私の考えや、心情がわかるからいいものの、サディアスは結局、告白にあんな返答のまま放置してしまっていた。
これでは受け止めると決めたのだ、さすがに同時に二人の恋人?彼氏?を持つ手前、差がありすぎる状況になってしまう。
だから、プレゼントをもってそれから、出来うる限り着飾って、自分自身を差し出す覚悟までして彼の部屋へと向かったのだ。
でも、たまたま、いつ来ても良いよと伝えてあったローレンスが、何故か今日に限ってはヴィンスに今日行くと連絡をよこして、でも、プレゼントであるクッキーは作ってしまったし、といろいろと混乱しつつ彼と対面した。
そういえば、エリアルにクラリスへ渡すようにお願いした猫用クッキーは無事彼女の元へと届いただろうか。
高級なものばかり食べていて、宝石も沢山持っているような彼女に私のクッキーが口に合うかは疑問なのだが、普通のお菓子を食べるより体にいいはずだ。
材料を揃えるのに苦労したけれど、出来るなら彼女があのお魚クッキーをカリカリ言わせながら食べて、もっと、と鳴くところを見学できたら良かったのだけど、そんな欲求丸出しでは警戒されてしまう。
あれは、エリアルに渡して正解だった……はず。
まあ、そんな事よりサディアスなのだ。
今日は、模擬戦もあったし、ローレンスは来るらしいし、で、いろいろと私はテンパっていたのだ。そうじゃなくとも、サディアスにだってヴィンスと同じように、何をされたっていい。そう心の整理はついている。
……でもっ、でもあれは無いよ、私!!
「っ……あ~!!」
夜中なので出来るだけ小さな声で叫んで、音を立てて櫛をテーブルに置いた。
なんかっ、こうっ、クッキー食べてリップ落ちちゃったかなって思って、キスしようかなと思って、でも、私からするにはやっぱり、彼の方は子供なのだしという気持ちもあって……なんで、サディアスにリップ塗ったん!!!
「う~っ!!」
最終的にはキスしちゃったし!
そして、そして懇親のゆっ、誘惑だったのにも関わらず、彼はちゃんと私に対応し、そして紳士に、けれど私の自尊心を傷つけず部屋へと返したのだ。
その対応が、私の付き合ってきた男性の中で誰よりも大人でもう、サディアスがすごくいい人に見えて仕方がないのだ。
いいひとはいいひとでも、かっこいい人というか、とにかく、もう……。
別れ際の言葉、彼の表情、そこから滲み出る人の良さと愛情と、部屋着で少しラフな格好だったのが、素敵だとか。
相変わらずそれでも手が冷たいところだとか、私がいろいろと焦ってああいった行動をした事に気がついてくれる細やかな所だとか、考え始めると、堪らなく恋しくて、どうしようもない。
思い出せば思い出すほど、大きくて誰よりも苦労している、まめのある冷たい手も、真っ赤で人目を引く髪も目も、薄くて柔らかかった唇も、苦くないコーヒーを入れてくれる所だとか!
考えれば考えるほど、ど壺にハマっていくようで、こんなに入れあげてはダメだとはわかっていつつも、どうしても顔が火照って仕方がなかった。
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