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お祭りなのに悪い予感……。2

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「色々考えたの、それで決めた。ヴィンスは多分、言わなくてもわかっていると思う。でも、サディアスにはあんな事を言っちゃったから……だから、私なりのケジメのつもり」

 ゆっくりとそう言って彼女は、キュッと目を瞑ってチュッと俺に小さく口付ける。子供みたいなキスだったが、唇に、確かに暖かな温度の柔らかな感触がした。

「っ、は、は?……なん、なんの事だ?」

 意味がわからなくてマヌケな声を出す俺に、クレアは小首を傾げて少し火照った顔で、俺の疑問の意味すら分からないと言った顔をする。

 ……キスがケジメ? なんのつもりだ? これで勘弁してくれという事か? つまり振られた?

 ぐっと彼女を引き離し、それからまたベットに座らせて肩を抑えた。俺の行動にクレアはまったく抗う素振りを見せずに、素直に従ってこちらを見上げる。

「何って…………そっか期間が空いちゃったから、わた、私なりに、それらしく頑張ってみたけど、上手くいかないね」

 気恥ずかしそうにクレアはえへえへと照れて、俺の肩に添えた手をとって言い直す。

「貴方に告白された時、そんなのダメだって、不誠実だって、貴方の気持ちが勘違いなんじゃないかって言ったでしょ」
「あ、ああ、言ったな」

 ただ、それからも、クレアの態度は変わらなかった、だからてっきり、とっくに折り合いをつけたのだと思っていたのだが、彼女の中では違ったらしい。

「でも……その、色々考えて、結局、貴方と距離をおくだとか、サディアスに嫌われたりするのも私は……嫌で」
「……」
「だから、今でも不誠実だとは思う。何人もの人に浮気者みたいに愛情を注ぐことは、でも…………出来る限り、ヴィンスやサディアスが納得してくれる限りは、ちゃんと受け止めようと思う」

 俺は、クレアはローレンス殿下を愛していても、それでいいと言った。ただそもそもクレアは、そういった恋愛観を持っていない事は何と無くわかっていたし、見て見ぬふりをされても不思議では無いと思っていたのに、言葉にして、はっきりと態度でも示すつもりらしい。

「……私もサディアスが好き」

 キュッと手を握られ、それから、彼女は自らの頬に俺の手を導いて触れさせる。その感触がやけに甘ったるくて、目眩がした。

「だから、サディアスが望むのなら、全部いいよって言いに来た。唇へのキスも……その先も、許してくれるならって言ってたでしょ」

 真剣な瞳が俺を見つめる。その言葉の意味なんて、分からない男は居ないだろう。それに、この化粧も、髪も、多分クッキーも俺の為だと今更わかる。

 ローレンス殿下が来るからと言ったのは、コーヒーの事だけだ。あとはすべて俺のため。そう思うと今、目の前にいる華奢で、無防備なこのどうしようもない子が可愛くて、滅茶苦茶に壊してやりたくてどうしようも無くなる。

 そんな自分を心の中だけで殴りつけて、落ち着かせるようにして細くため息をついてから、口を開く。

「なぁ、君は……少しは自分の事を考えてくれ。俺が君に何をしたのか忘れたのか?あいにく、我を忘れやすいタチなんだ、自重してくれ」

 この弱々しい生き物の皮膚に剣を埋めた感覚を今だって覚えている。その時の叫び声も表情も全て。

 そもそも、俺を好きになる要素がどこにあるというのだ。馬鹿馬鹿しい、さっさと帰らせよう、でなければ俺の心臓が持たない。

 そんな理由をつけて彼女から手を離そうとしたさなか、クレアは、少女と女性のあいだみたいな、無邪気だけれど、それだけじゃない笑顔で微笑む。

「……知ってるよ。……わかっててやってる、サディアス、私ね。子供じゃないよ」

 頭が沸騰するような感情を覚えて、思わず魔法を使ってしまう。それから思い切りため息をついて、クレアを持ち上げた。そしてそのまま出入口の扉まで強引に連れていく。

「君の気持ちはわかった!……わかったが」

 こんな据え膳状態で、彼女を部屋に戻すのは非常に不服だが、それでも、ギリギリの理性を保って扉を開いてやる。

「…………とにかく、覚えておく、君がそう言ってくれたということ」
「……」

 ここで手を出さない理由が上手く思い浮かばずに、適当な事を言って、彼女を見る。少し拍子抜けというか、ぽかんとしたクレアは「そっか……クッキー食べてね」と言って、少し寂しそうだったが心做しか安心した笑顔で言った。

 ……やっぱり……あー、そうだよな。

 その笑顔を見て、少し無理をしていた事がわかって、俺だけが彼女に振り回されたわけじゃない事に俺まで安堵する。

「じゃあ、またあした」
「あぁ……クレア」
「ん?」
「可愛いな、今日はすごく」

 言い損ねていた事を言って、俺の為に少し無理をしてくれたクレアに軽くキスをする。理性は弾け飛ぶ寸前だったが、キスに驚いて「んふふっ」と照れ笑いをする彼女を見れば、そんな事は些細なことだった。

 クレアが部屋を去った後、ものすごい脱力感に襲われ、彼女の作ったクッキーを口の中にほおり混んだ。頭がぼーっとしてしまい、以降の仕事がまったく手につかなかったのは、仕方の無いことだと思う。




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