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告白の返事がそれって……。3
しおりを挟む夜になって、私はローレンスの部屋へと赴いた。ヴィンスや、護衛のアーネストとユージーンを別の部屋に待機させて、彼と私は二人きりになった。
個人戦の以後、私はローレンスと二人きりでは会っていない。自分から誓いをしに行くと約束をしてあったので、個人戦が終わってすぐに彼に手紙を出してヴィンスに日程を調整して貰っていたのだが、少し期間があいての訪問になった。
ローレンスは一応王子様という事もあり、色々と仕事もあると聞く。
自分自身のバッチの取得や護衛たちもバッチを得た事で、チームの方針を決めるのなんかもリーダーである彼の仕事となっていて、忙しかったのだろうとヴィンスは教えてくれた。
が、しかしだ。やはり二人きりになると、誰にも配慮をする必要が無いからか彼の雰囲気は一段と張り詰めていて、前にあった時の事を根に持っているのだということはわかる。
ああして私にサディアスの事を伝える事によって、ローレンス自身は私からローレンスへの感情に何かしら変化やアクションがある筈だと望んでいたが、それが上手く行かなかったことに関する怒りだと思われる。
お茶を飲みつつ、斜め向かいのソファで不機嫌にしている彼をチラと見るとバッチリ目が合ってしまい気まずい。
彼から話をしだすつもりは無いようで、私の方からの行動を望んでいるのだとはわかるのだが、何を言えばいいのか分からない。
迂闊な事を言って怒らせてしまうと、色々と困るので、ご機嫌伺いになるような事を言いたいのだが、どうにも空気が重くて軽い話は出来ない。
「…………」
もう前振りもなく、さっさと親愛の誓いとやらをやってしまおうかなんて考えるが、魔力を注がれるのに、お互いにわだかまりがあると辛いのは私だ。
そもそもこの誓いというのは名前の通りに、親愛を向けている相手に対してやってもらうものであって、こんな状況でやるものでは無い。
……せめてもう少し、お互いに愛情というか、なんと言うか……。
そんなことを考えると昼の人を好きになる条件と言うものが思い浮かんで、空気的にはあまりマッチしていないが状況的には変な話では無いだろうと思い口を開く。
「ローレンス」
「何かな」
「……貴方って、どんな理由で人を好きになる?」
私の唐突とも取れる質問に彼は、さほど驚かずに、適当に視線を空に逸らしてそれから少し微笑んで蜂蜜みたいな声で言う。
「私を愛してくれる、という事かな。もしくは、私に愛されるということに価値を感じてくれるという事」
それはとても受け身な答えで、あまり答えになっていない。そして、それはローレンスの本当の答えじゃないような気がする。
邪推かもしれないが、こういう質問を男性にする場合、その人の事を好きないわゆる脈アリのことが多いのだ、それなのにこんな返答をされれば、ついついさらに好きになってもおかしくないのだろう。
それをわかって言っているような気がして、更には、相も変わらず、その綺麗な容姿も相まってロマンチックに聞こえてしまうのは多分わざとだと思うのだ。
例えばクリスティアンだって、お綺麗な容姿をしていて、たまにはロマンチックに見えるのだが、その言葉に嘘は無いし、普段の行いから本心だとわかるのだがローレンスは少々胡散臭い。
そんな私の感情が表情に出ていたのか、彼はまたつまらなさそうな顔をして、それから、少し黙ってゆっくりと手招きをした。こっちへ来いという事だろう。彼の真横にたってみれば、ふと私を見上げて嫌そうな顔をする。
「頭が高いね」
低くしろと、要求されて、私は、ローレンスの座っているソファの肘掛に手をついて両膝をカーペットにつけて小さくなる。
「人を好きになる理由だったかな?」
「う、うん……まぁ」
「まず、どうしてそんな事を聞くのか相手の事を考える、雑談か、なにかのトラップに使うのか、もしくは、君自身が知りたいのかの三択だ」
「え……うん?」
「背後関係のわかっている者の質問であれば、トラップという説を排除する、男ならば前者、女ならば後者だ、わかったかな?」
何を言われているのか分からずに「うん?」と曖昧な返事を返すが、それでは、その質問をされた時に答えるロジックを答えただけじゃないか。
「更には君のように、答えに疑問を持つような相手には、こうして答えた理由を話してやる。するとだいたい同じような間抜けな顔をするね」
「え……えぇ」
最終的には私を馬鹿にするような発言をして、甘ったるく微笑む。結局どういう答えか理解できなかったのだが、答える気はないということだろうか。
……それか、この話ですら、そう言う意思表示と見せかけてのブラフなのかもしれない。それならば何かを隠しているのかな。
それで結局、じゃあ彼は、どういう理由で人を好きになるのだろうと私は適当に考えてみてそれから、もしかしたら無い、もしくは分からないのかななんて考えた。
今までの彼なら、本心ではそう思っていそうである。
「……無いならないって言えばいいのに」
肘掛に頬を預けて、ローレンスを見上げると、彼はほんの少しだけ驚いた表情をする。私もローレンスの事を少しは理解出来ているのかも知られないと思ったのと同時にあ、と思う。
……やってしまった。
咄嗟に身を引くのと同時に、ローレンスは私のぼんやり開けた口の中に指を突っ込んだ。
「わうっ」
「…………舌。舌を出してくれるかな」
指で挟まれるみたいにして引っ張られて私は、逃げる事も忘れて口を開けて言われるままに従った。
「前回会った時に言っただろう? 私は時たま君を殺したくなるのだと」
「っ……、ぁ、」
ぐ~っと引かれて付け根の部分が嫌な痛みを訴える。ソファをぎゅっと握りしめて、必死に彼を見つめるが、その表情には優しさの欠片も無い。
「もしかすると、君がお喋りなのが良くないのかもしれないね。切り落とせば少しは君も愛らしくなるのかな」
今度は、親指の爪をぐりぐり食い込まされて、体が跳ねる。どうして舌や口の中というのはこんなに痛みや刺激に弱いのだろう。
涙が滲んで余計な事を言わなければ良かったと思う反面、どうしても、素の彼と話をしなければ意味が無いとも思ってしまう。
いつしか本当に逆鱗に触れて殺されそうではあるが、こちらだってローレンスの本心や本音が知りたいのだ。
どうにか、図星をついても怒らないようになって欲しいのだが。
「あ゛っか、らめてっ」
「聞いてあげる義理はないね。前回約束した通りにこうして自ら顔を出した事には少しは褒めてあげてもいいと思っていたけれど、相変わらず、その癪に触る性格は変える気は無いようだね」
「っ、ふ、ぅあっ」
彼は翡翠の瞳に魔法の光をともらせて、これまた見慣れた愛用の武器である黒い刀身のサーベルをナイフにして手元に出した。
「これから、君がくだらない事を言う度に少しづつ舌を切り取って行くなんてどうかな?何回目で言葉を発せなくなるのか楽しみだね」
ピタッと舌先に刀身を当てられて、ヒヤッとした感触とともにピリッと痛む。切れ味が良いせいで少し切れたらしい。
血の気が引いていって、舌が輪切りにされてしまうかもしれない恐怖とそれから、本当にやりそうな彼にソファを掴んでいた手をすぐ側にあった、彼の私服のズボンへと動かして、引き止めるように握る。
多分強引に、抵抗すると悪化するので、出来るだけ従順にお願いと媚びるように彼を見る。
そうすると、ローレンスは私をじっと観察するように見返して、それから、しばらく逡巡した後、少しだけナイフを引く、じんわりと響く痛みに自分の舌を噛んで耐えていれば、ゆっくりとナイフは離されていく。
舌を掴んでいた指も離されて、私は床にへたり混んだ。
「っ、ゴホッ、……っ、いっ」
自分の唾液が染みて、口の中が血の味がする。
じわじわ痛いと言うのに、ローレンスは手を伸ばして来て私の胸ぐらを掴んだ。
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