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私の愛も、彼らの愛も……。4

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 仕方がないので、私は彼に嫌われるだろうことから口にする。

 本当は、私自身が回復するまで話さない方がいいと思っていたのだが、ローレンスのことが引っかかっているらしい彼には必要な情報だ。

 先程の話を聞かれていたということは、サディアスにも検討がついているのだと思う。

「サディアス…………私、貴方に途中まで協力的だったじゃん?」
「ン、そーだな」
「…………私ね。ローレンスに愛想をつかしたんじゃなくて、貴方に嫌われたと思ったから」
「……」
「だって……」

 なんてことなくこちらを見る彼に一瞬言い淀んで、そして、でも本当のことを言うにしてもローレンスにすべての責任を押し付けるような言い方はしなくなった。

 私のせいで……。

「サディアスが苦労しているの……テロ?みたいなの、起こされたの私のせいなの」

 サディアスの表情の少しの動きも見逃さないように、彼にしっかりと目線を向ける。

「だから……だから、サディアスは私のせいだって知っていて、それと、ララの事は知らなかったとはいえ、仲良くしているし」
「……」
「だから、私は、サディアスに嫌われるようなことをしてしまったから、せめて貴方に報いようと思っただけ……」

 ふと瞳を細めてサディアスは、私の背中にスルスルと手を移動させる。怒っているとわかっているのに、背を撫でられるというのは、どうにも安心してしまう。

 それから、ふと、片手を自分の方へと持ってきて、それから私の頬をくにっとつまむ。

「……馬鹿だな、君は。そんな程度で嫌いになる? 変なことを言う」

 くくっと笑う彼に、予想とまったく違う反応に私は驚いた。

「ああ、それでか、俺が君を瓶に詰めると説明したら、抵抗しだしたのは」
「う、うゆ」

 うん、と言おうと思ったのに、サディアスが頬をつまんでいるせいで上手く発音できない。

 ……でも、でもでも!そんな程度って言っても夏休みから帰ってきてからあんなに怒ってたのに……今だって、しっかり眠る時間がないほどサディアスは忙しいのに。

「れ、れも、でも正直、今でも、大変でしょ? 怒ってるでしょ?」
「……あの女の事は………………少しは。ただ、俺が言ったところで君は変わらないんだろ」

 うにうにを頬をつねられてひりひりする。その通りすぎて反論ができない。今更私は全部をほっぽり出すことなど出来ない。

「ごめん、ンッ……つっ」
「これで許す。俺も切羽詰まっていたとはいえ、君を刺した、殿下が俺を貶めようとした事が君のせいだとしても、これでいいっこなしだ」
 
 言葉だけとれば、性格のいいひとなのに、ちょっぴり涙が浮かぶぐらい頬を抓られて私は、目を瞑って耐える。

「それで、君の前置きは以上か?」
「う、うん? 一応」
「そうか……ちなみにあの女の事は俺は嫌いだ。それは理解してくれ」

 言いながら彼は私の髪に触れる。ゆるゆると手櫛でといてそれから、私のリボンをとく。

 しゅる、と布擦れの音がして、彼の手にリボンが収まる。

「……君の言葉ひとつ、君の行動ひとつでどうしようもないと思っていた事が、少しマシに思えるようになった」

 そのリボンにちゅっとキスをする。伏せ目がちに視線を落として私に視線を向ける、その表情に、何か煽られているような心地を感じつつ、彼から目を離せない。

「こうして過ごしてもやっぱり君は、生きて話をしてきちんと存在している今をとてもいいと思う」
「……」
「何故か分からないが、試合に勝った時じゃないただ、ふと君らと過ごしている時に思うんだ……クレア」

 名前を呼ばれる。「なぁに」と短く返す。

「今は……それでいい。君がいて、どうやら、まだ少しは何とかなりそうだと思うしな」
「うん」
「でもひとつ……あの女を優先しないでくれ。理由は言わなくてもわかるよな」

 それをやると、彼は私を瓶に詰めようとするのだろう。しかし、関わるな、とは言ってないサディアスなりの譲歩だろうなと思う。

 彼よりも……優先しなければいいのなら。

「わかった」

 今回の事の発端となったような、二人共に話をしなければいけない時、私はサディアスを選ぶ。それで、丸く収まるのならそれでいい。

 それにだ、そんな状況が来ないようにも、サディアスとはきちんと話をしておこう。私の状況もやろうとしていることも、オスカーのようにサディアスははっきりと言わない。そういう部分を汲み取ってそばにいられたらなと思う。

「……それなら……いい。君がローレンス殿下の事を愛していてもいい」

 ぐっと引き寄せられて、そろそろ疲れてきた腕の力が抜け彼に抱きしめられる。
 自分が覆い隠されてしまいそうなほど体格の差があって、強い力にすくみ上がって肩をすぼめた。

 ……愛していても……?
  
 サディアスからそんなに直球にそのことを言われるとは思っていなくて、自分でもあまり自覚の薄い感情なだけあって、それを許すという彼の意図もよく分からない。

 抱きしめられたまま、疑問に思いつつ彼を見上げる。

 サディアスはゆっくり笑って、それから、落ち着くような低い声で言う。

「君は俺の気持ちなんて気がついていないんだろ」
「気持ち?」
「君が好きだと、想っていると言ってるだろ」

 ……それは、大切とか、友人としてという気持ちじゃないって……こと?
 
 緩く頭を撫でられる。彼の冷たい手が、項に少し触れて体がびくつく。告白されたと思った方がいいらしい。

 ……それは、それで、いや、でもサディアスは……。

 サディアスは別にそういうことをまったく考えないのだと、何故か思っていた、というか、私が距離感を間違えたのだろうか。だって私は、多分ローレンスが好きなのだ。それなのに。

 ぐっと腕に力を込めて、とりあえずやっぱり、引っ付いているのは、何かよろしくないということが改めてよくわかり、サディアスの緩く私を抱いている手を振りほどいて、ソファから立ち上がろうとする。

 けれど私の意思とは裏腹に足は前に出ない、緩く動くだけで、ガタンと音がして、それから、目の前にあったローテーブルに額をゴチンとぶつけながら床に転げ落ちる。

「なぜ逃げようとするんだ?……君は殿下が好きなんだろう?なら、俺の気持ちなんか気にしなければいい、今までと変わらない」

 漫画のように、視界にキラキラと星が飛んで、目が回る頭が痛い。テーブルを押しのけて、手で、都市伝説のテケテケさんのように、カーペットを押して進み、サディアスと距離を取った。

 私がノロノロ動くのを彼はじっと見つめていて、ソファに座ったまま動かない。

 ある程度距離を取れたところで息を整えて、いればサディアスはおもむろに立ち上がる。

「……逃げられると、捕まえたくなるな」

 そう言って、数歩歩いて私のそばに来る。

 必死に取った距離を簡単に詰められて、また動こうとする私にサディアスはすとんとしゃがんで、手を取る。




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