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私の愛も、彼らの愛も……。1

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 昏倒から目覚めると、私は自室のベットの上に移動させられていて、起き上がってみれば、部屋にはヴィンスではなく、チェルシーとシンシアが居てテーブルでお話をしている。

 少しぼんやりしつつ、なんで二人が?と考えたが、二人はお風呂に入れない私の介護を手伝ってくれているのだ。

 介護と言っても、じわじわと魔法を使って足は少しばかり動かせるようになってきているので、濡れタオルの準備や、着替えを用意してもらっている。

 今日も、その手伝いの為に私が目覚める頃に合わせて来てくれたのだろう。

「おはよう」

 私が声をかけるとパッと二人はこちらに気がついて、それぞれ挨拶を返してくれる。

 準備は出来ているようで、お湯の入った容器に、タオルを持ってこちらへとやってくる。

「待たせちゃった?ごめんね」
「いいえ!私たちが好きで言い出したことですから!」
「そうですよ。こういう時ぐらいは助けにならせてください」

 チェルシーはベットに腰掛けながら、シンシアは床に膝をついて、タオルをお湯につけて絞る。

「それでは始めましょうか」
「うん、お願いします」

 いそいそと制服のワイシャツを脱いで、布団を押しのけて準備をする。リボンは既に、ヴィンスが片付けてあるようで、頭に無い。

 しかし今何時頃だろうか、無性にお腹がすいている。

「私どのぐらい眠ってた?」
「それほど長くないですよ。今が夕食が終わった頃なので五時間程でしょうか」

 シャツを脱いで、下着姿になりシンシアから受け取ったタオルで体を拭いていく。チェルシーは私の服を畳んでくれる。

「そっか……あの後、無事二回戦目は終わった?」
「ええ!一応っ……ただ、クレアが昏倒した後、サディアスが顔を青くして、クリスティアン様に掴みかかって大変だったんですよ!」
「サディアスは心配症ですね、ただの魔力不足だと宥めたのですが、彼、今も部屋の外にいます」
「……そっかー……」

 その絵面が容易に思い浮かんで、頭の中でクリスティアンにごめんねと謝った。
 
 未だにサディアスのトラウマというか歪んだ思考みたいなものは、完全に取り払われた訳では無いのだろう。今日も機嫌が悪そうだったし。

 まぁ、でもクリスティアンとの約束は今日果たしたのだ、これだけでも一歩前進だろう。これで、サディアスの立場は安定する。彼の仕事は忙しいだろうけれど、不安は取り除かれるはずだ。

「……あ……二人は、クリスティアンに私の力を貸している理由は話してあったっけ?」
「直接聞いてはいませんが、サディアスの問題解決のために、クリスティアン様が力をつけなければならなかったのですよね?その辺は、クレアがクリスティアン様のお部屋に招かれていた時から知っていましたよ」

 はたと思い立ち聞いてみたが、まぁ、誰だって検討は着くだろう。その通りである。あとは、結局、私は逃げる訳にはいかないし、殺される訳にもいかない呪いの問題が残っているだけだ。

 ……それが結構厄介事なんだよね。サディアスがちゃんと個人トーナメントで、成績を残すなりなんなりして、自分の力に自信が持てるようになったら動こうと思っていたけど……。

 個人戦前の固有魔法の授業でオスカーが言っていた、あとは私がどう終着点を見つけるのかが問題なのだと。

「うん……その目標は達成出来たから……良かった」

 頭の中では別のことを考えながら、シンシアの言葉に返す。チェルシーはそんな私に着替えのパジャマを持ってきてくれて、それから口を開く。

「ですがクレア、私たちはまだ、なぜサディアスが怒って貴方を刺したのか、貴方は私達に何を隠しているのかは聞いてませんよっ!」
「それも……話をしようと思ってるんだけど」

 そう、そこはゆっくりと時間をかけて話をしたい。個人戦が落ち着いて多分、私が親愛の誓いによってローレンスの物になった後になると思うのだが、彼に殺されるという事をどうにかしなければならないのだと話をしなければ。

 ……それでもやっぱり、着地点を決めておかなければ二人は混乱するとおもう。

 こういう事情があって、こうしたいから協力して欲しいと話をするのと、こういう事情なんだけれど、死にたくないんだよねというのとではまったく違う。

 そもそもだ、私は二人に助けを求めてもいいのだろうか。

 足の先まで入念に拭いて考える。オスカーとディックは協力すると言ってくれた、そして尚且つ私の望む通りに物事を運ぶべきだと言ってくれている。

 彼らは私を待って、時にはアドバイスをしてくれる。

 サディアスとヴィンスはどうだろう。彼らは……私の意にそぐわないような動きをする時がままある。けっして悪意があるということでは無いのだが、私の選択と言うよりも、自分達の考えがある。

 ではこの二人はどう思うのだろうか。というか、私は結局どうするべきだろうか。

「二人とも、私さ」

 そう言って話してみようかと思うが、どう言葉を紡いだらいいか分からずに、少し沈黙する。すると二人は、作業をしながらも私に瞳を向けて、返事を返してくれる。

「なんですか?」
「はい?」
「……」

 今、すべてを話す事は出来ないので抽象的に、でも理解しやすいように、今の状況をできるだけ簡略化してみる。私の今の状況は、どう例え話をしたらしっくりくるだろうか。

 私を手に入れてコーディに殺させれば力が手に入る。でもそれは禁忌の力で、それを持った人間を捕まえたい人がいる。

 ……保険金殺人みたいだな。

 多額の保険金をかけられた人がいて、その人が死んだら受取人になっている人にお金が入る。その事実によって、逮捕したい警察がいる……的な。

 けれどその例え話ではこちらは通用しないので、どうにか改変して、伝えてみる。

「私はさ、すごーく、高価な毛並みを持ったペットでね。殺して毛皮にすると、とっても価値が出る。でもその毛皮は違法でさ。だからそれを利用して私を飼っている人、飼い主さんを捕まえたい人がいて……」

 それから、ローレンスを捕まえたいから、クラリスは私を逃がさない。

「その人たちは、私の飼い主を捕まえたいんだ、だから、私に首輪をつけて逃げられないようにしている」

 私は自分が柔らかな金髪の毛並みを持つ狐にでもなったような気持ちで、そんな話をした、二人はまず、どういうことかあまり理解できずに、お互いに首を傾げて顔を見合わせた。

「そんな私が死ぬのが許せないのがサディアスで、そんな私の世話していたいのがヴィンス」

 例え話だとしてもしっくり来てそう付け足した。

 そうそう、こんな感じ。だから、どうしたらいいかってことが問題なのだ。

「…………? 今のクレアは化けてでた狐の魔獣という事ですかっ?」
「あ、ううん例え話だよ。比喩!人間だよ!私!」
「たとえ、話……」

 シンシアも私の言葉を復唱して深く考え込む。そんなに深く考えなくても大丈夫だ。のちのち話をするし。

「軽く考えて、それで私はどうしたらいいのかなって考えたんだ」
「はい……毛皮にならない為に?ですか?」
「そう!」

 いい感じだ、死ぬのは嫌だもの、何とか考えるさ。

「そして、二つ道があった。私に付いている首輪を外して逃げるか、私を飼っている人に抵抗をするか」
「……まぁ、そうですねっ!確かに、その二つですね!」
「だからまずは、首輪をつけている人にどうして、飼い主を捕まえたいのかって聞きました」
「皮の取れる動物なのに人間と話をするんですか?」
「……うん、化け狐だから」

 例え話というていが上手く伝わっていないような気がするが、いちいち訂正していては話が進まないので適当にチェルシーの先程言ったことを引用しておく。

「そうすると、その人達は言いました」

 もはやおとぎ話でも話しているような気分で続ける。二人はいつの間にか作業をやめて私の話を聞いている。

「飼い主が……狐を殺すような事をするような人だから捕まえたいのだと。逆に狐を殺さないのなら、捕まえる必要は無いのだと」

 主人公は狐に成り代わってしまい、私の言葉にチェルシーは、ぱちぱちとまたたきをする。

「だから狐は…………狐は飼い主に殺されないようにするしか生きる方法がないようです」

 殺されないようにする。そう、まぁ、そういう事だな。だって飼い主を殺して生き残ろうとする事は……しない。




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