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やっとの思いで個人戦……。5
しおりを挟む個人戦トーナメントでは、一回戦目は丸一日かけてブロンズクラス全員が戦い、次の日には一回戦から勝ち上がった人がまた丸一日かけて戦う。
そうして、四回戦目、五回戦目では半日で終わってしまうのだが、一回戦事に全力で戦っている生徒たちの魔力回復の問題もあり、一週間ほどかけてトーナメントの優勝者が決定する。
大体は三回戦を突破すればバッチは確実、そうでなくても二回戦突破で、強者と当たってしまい破れた場合にも、与えられる事があると言うので、二回戦目、つまりは個人戦トーナメント二日目となる今日の試合は、熱い戦いが繰り広げられている。
私達三人はおそろいのリボンをつけて、観覧席の方へと座っていた。試合では今はヴィンスが戦っている。
彼は先日コンラットをノックアウトしており、順調に二回戦も突破する。剣技の合間に体術を挟んで、すぐに手数の多さで圧倒するタイプだ。それで出来た隙に勢いよく攻撃を叩き込み、これまたノックアウトだった。
彼には学園で習っている剣術以外の何かが混じっているように思う。
「勝った……すごいね。ヴィンスって、本当に」
「ええ!勝ちです!それも見事な蹴りでしたねっ」
「そうですね、私もああいった戦い方をされると対応できるか、分かりません。本当にヴィンスは優秀です」
私が二人の方に視線を向けてそういうと、二人とも感心したようにヴィンスを褒めてなんだか私まで嬉しくなる。
片手を上げて「勝ちました」と言った感じにこちらを見るヴィンスに私は少し身を乗り出して大きく手を振る。
すると、前かがみになったせいか、バランスの悪い車椅子がクルッと手前側に傾いて体勢が崩れてしまう。
「っ!」
倒れてもいいように腕を引っ込めて防御の姿勢を取ったが、すぐにチェルシーたちとは反対側に居たサディアスによって抱き止められ背もたれに戻される。
「……」
「あ、ありがと」
「君は足が動かなくても、忙しないな」
「……ご、ごめん」
サディアスは、少しも表情を変えずにそう言って何となく、凹んでしまう。
彼が、あまり笑顔を作ったりしないのは、夏休みが始まる前のいつもの彼なのだが、これがどうにも何となく落ち着かない。
怖いとかそういう訳じゃ……いや、少し怖いのかもしれない。それほど今の彼は少しばかり物憂げで接していると妙な気持ちだ。
「大丈夫ですか?クレア、傷が痛みますか」
「ううん、平気」
「そうですか、辛いなら横になっていても大丈夫ですからね」
シンシアに優しく言われて「うん」と返事をする。一方シンシアは言葉は硬いし、優しげに笑っているということも少ないのだが、それでも何となく、私を心配してくれているのだと実感出来る。
それとなにがサディアスが違うのかと言えば、心配はしてくれていると思うし、いいのだけど……。
……うーん。
「ところでサディアス、どうして二回戦目はトーナメントの反対側から試合をするのでしょうかっ?」
「ん?……そうだな、教師に聞いた訳じゃないが、四回戦目からは午前中のみの試合になるだろう?経験している試合が午後の試合しかないと後半の試合しかしていない生徒のボルテージが上がらないなんてことがないようにじゃないか?」
「な、なるほど!確かに朝はやる気が出ませんもんね!」
「それと、単純に見てる連中が飽きないようにじゃないか?」
「確かに飽きないけど、ずっと戦いを見てると慣れちゃわない?」
二人の適当な会話に割って入る。サディアスの言っている事には一理あるし、相変わらず、急に質問されてよくその回答が出るなぁと感心するのだが私は試合に飽きてきている。
二回戦目と言えど長いのだ、一回戦目だって、四十だか五十だかの試合を見せられ、その割には試合内容だって一辺倒だ。
「慣れる……ですか?目新しくはないですが激しい剣撃のように思いますけれど」
「あ、試合はすごいと思う。いや、なんか色々味気ないというか…………」
個人的には、相撲だとか、プロレスが頭の中にどうしても思い浮かんでしまう。
それは前世の価値観だと思うけれど、戦う選手の紹介だとか、せめてポジション別クラスだけでも教えてくれたりして「勝者!○○~!!」とか言った感じに盛り上がる試合を知っているせいか、なんとも味気ないような気がした。
「ごめんやっぱり、なんでもない」
でもそんな事を口で説明して、変な人だと思われるのが少し恥ずかしくて、歯切れの悪い言葉で口を閉じる。
「味気ない……ですか?……!もしかして、記念祭の公開試合と比べてですかっ?」
「う、うん?」
チェルシーは、パッと思いついたようにそう言って、ニコニコして続ける。
「確かに、観客もブロンズバッチだけで、寂しいですもんね!」
「ああ、そういう事か、あれは確かに華やかだな」
「そうですね。私も父に連れられて来たことがありましたが、たくさんの人で賑わっていました」
どうやら、三人の中には共通認識があるようで、私は首を傾げる。
記念祭というお祭りがある事は私も知っているが、公開試合については、まったく知識はなかった。それはどうやら観客が沢山いて、華やかで賑わっている試合らしい。
頭の中にボクシング会場が思い浮かんで、雄々しい男性たちが歓声の中戦っているのを思い出したが、そうじゃないだろう。
公開試合という事はこの場所に、学園外からも人がやってくるに違いない。そして今はスカスカのこの二階観覧席もいっぱいになるに違いない。
「そうなんだ、見てみたいね」
「?……見るだけでなく、もちろん出場もできますよっクレア!」
「ええ、賞金も出ますしね。記念祭の一大イベントですから、そういう楽しみ方もいいかもしれませんね」
シンシアはそう言い、チェルシーに同意する。サディアスは少し妙な顔をしてシンシアを制止した。
「いや、クレア。出ようなんて考えるなよ?君が出ると絶対に厄介事になる……」
「あ、それはダメですっ!クレア一緒に観戦しましょうね?」
「それもそうですね、試合は見てるのが一番です」
三人がうんうんと頷いて、「絶対ですよ!」と念を押されて、私は相変わらず信用のない自分にうんざりしつつうんうんと頷く。
「何をお話されているのですか?」
「ヴィンス!お疲れ様です!記念祭の話ですっ」
「そういえば記念祭って、私たちは準備とかあるのかな?」
ふと気になって、私の一つ後ろの観覧席へと戻り、魔法をとくヴィンスに振り返りつつ聞いてみる。
学園あげてのお祭りだということなので、私の頭の中では文化祭のようなイメージだったのだが、そうなると露店やらなんやらは自分たちでやるのかもしれないと思ったのだ。
「特にないな、公開試合ぐらいだろ。俺たちに関係あるの」
「そうですね。あとは観光客と混ざって、露店を見て回ったりできるぐらいですよ」
「そうなんだ……じゃあ、本当に普通のお祭りってことなんだね」
そうすると、学園街の人達が頑張ってお祭りを盛り上げてくれるのだろう。確か、このトーナメントが終わって、秋の終わりごろの開催だったはずだ。チーム皆で回るのが少し楽しみだ。
「あ、あと伝説がありますよね!」
「伝説?」
「えぇ、愛の伝説ですよ。……私はそろそろ出番のようです。行ってきますね」
シンシアはスっと立ち上がって、魔法を使う。確かにお喋りをしている間にも試合が進んでいる。何せ昨日の半分の試合量なのだ、人の回転が早く感じる。
「行ってらっしゃい、頑張って」
「シンシア!攻撃あるのみ!です!」
「ふふっ、ええ、頑張ります!」
私たちの応援に、シンシアは苦笑して歩いていく。あまり緊張はしていないようでリラックスして戦えるだろう。
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