204 / 305
サディアスの出した答え……。3
しおりを挟む「そう、わたくしは間違っていませんのよ。多くの場合、それが真実ですもの」
「うん」
「……でも、真実だけが、救いとなるかは人によって違うのだわ」
「うん」
クラリスはちゃんとわかっている。サディアスにはその真実は、立ち直るための支えになったのではなく、彼を打ちのめす呪いになった事を。
「だから……わたくしの思いを上から押し付けて、壊れてしまったサディアスにわたくしは、今度そこ、救いを渡すことを躊躇わなかったわ」
「……サディアスに協力してくれるんだね」
「ええ、あの子に言われてはわたくしは…………何も言えないのですから」
私は再度クラリスの頭を撫でる。きっとこれは、成長というやつだろう。気がつかなかったことに気がつくようになる。それはとても喜ばしいことだ……そうだ、ララだって、弱い人を許せるようになっていた。
ほんの少しずつ人は変わっていく。特に今の若くて色々問題があるこの時期は。
彼女を撫でながら、二人でぼんやりと沈黙し、クラリスの言うままならないを実感しながら、時間を過ごす。
私の言葉にするなら、やるせないかな。
出来ることばかりじゃない。上手くいかない事はある。それはちゃんと知っている。
「あ……あぁ、でもクラリス、私ね。私もやるせない事ばっかりだと思うよ」
「……」
「でもね、忘れちゃだめだよ。クラリス。クラリスが自由になれたみたいに、どうしようもなくない望むことが叶う時だって確かにあるんだよ」
「……自分は叶わなという嫌味かしら」
「違うよ。今度……クラリスの口から、サディアスに言ってあげて、大方、ままならないけれど、希望はあるって」
きっと、そうすれば、傷ついた心は癒えないけれど、彼の苦悩した時間は変わらないけれど、言葉の呪いは消えてなくなる。
「クラリスの実体験だもん、きっと、前と同じように、サディアスにきちんと届くよ」
「…………考えておくわ」
クラリスはそれだけ言って、やはりぴょんと柵から飛び降りてバルコニーからいなくなる。
暗闇に手を振ってみて、それから私も部屋に戻る。私もあの姿をふっと暗闇に消す感じを一度でいいからやってみたいのだが、使うシチュエーションが思いつかない。
今度魔法を使ったら、バルコニーにから飛び降りて見ようかななんて、出来もしない事を考えた。
久しぶりにしたくだらない思考に、少し笑って、それから、やっと手紙を書いた。個人戦は近い。私の余命もあと数日だ。
もう、死にたくないとは言っていられない。また勝手に涙が出てきた。それを適当に流すままにして、朝をまった。
個人戦が翌日に迫った今日。
学園の食堂では、高級食材をふんだんに使った応援メニューが期間限定で発売されていて、寮食も今日の夜は豪華なメニューらしいという話を聞いている。
何となく皆浮き足立っているような、練習に集中しきれないようなそんな雰囲気が学園全体を包んでいた。
私はヴィンスに剣を打ち込んでいく。やっと攻守はっきりさせなくても、何となくテンポを掴んで攻める、受けるの選択がはっきりできるようになってきていた。
それでも技術に格段の差はあるが、一戦力ぐらいにはなれる程度の力はあると思う。
「っ、……はっ、」
息が上がって腕が痛くなってくる。ヴィンスはそんな私を見逃さず、少し踏み込んで、攻撃をしてくる。守るにも腕だけの力で守っていてはだめだ、体全体で剣に集中する。
守り切り、一旦ヴィンスが引いたところで、授業終了の鐘がなる。ブレンダ先生がパンパンッと手を叩いた。
「はいっ、一度集まりなさい!」
言われて散らばっていたクラスメイト達と共に剣を腰に刺してブレンダの元へと集まる。
「いよいよ明日! 個人トーナメント戦です、今日になって焦ってる者、準備万端な者、いるでしょう! けれど、私から言う事はひとつ!」
ブレンダ先生はピッと一本指をたてて、生徒達を見つめる。
「今日無理しても意味はありません! よく休みなさい! いつものルーティンを崩さないこと!良いですね」
彼女らしい堅実な案に納得する。確かにその通りだ。明日の試合、ここまで努力をしてきただけあって、どうにか結果を残そうと無理をする生徒も毎年いるのだろう。
「それから、頑張ってきた皆さんに餞別です! これを受け取った者から帰ってよし! 呼ばれた者から私の元に来なさい、それ以外は武器を片付け待機!」
「はーい」とクラス揃って返事をし、ヴィンスと二人で武器を一番近い倉庫に片付けブレンダ先生の元に戻る。するとちょうど名前が呼ばれた。
パタパタと走ってブレンダ先生の方へ行くと、彼女は私に一枚の紙を差し出した。
「貴方は、きちんと実力を出すこと。私は貴方の努力を知っています。健闘を祈ります」
「……ありがとうございます」
わざわざ実力と言ったのは、ブレンダ先生が私の固有魔法にある程度気がついているからだろう。それをきちんと使えと。
……。
プリントに目を落としながら、先生の元から離れて、歩き出す。チェルシーやシンシアの方へ行くと彼女たちは既にプリントを受け取っているようだった。
「あ、クレアっ! クレアはなんて書いてありましたか?」
「え?……ええと」
プリントの上部には、よくある失敗例、持ち物チェックリスト、タイムスケジュールが書いてあるのだが、プリントの下部には、ブレンダからのメッセージが書かれていた。
私のは実力という言葉が先程の彼女の言葉と同じで隠語のように使われており、相手の慢心も逆手に取って方をつけてしまえと、書かれている。
「……油断してる所を叩きめせ! って……感じ」
「ふふっ、ブランダ先生らしいアドバイスですね! 私はとにかく緊張しないよう、優しくアドバイスが書かれています!」
「そうだね、チェルシーは確かにあがっちゃいそうだから、ブレンダ先生もよく見てるよね」
「ええ、確かに。私には、闘志を煽るような言葉が書かれていました、今から試合でも大丈夫なくらいです!」
シンシアは珍しく、興奮していて、目をギラギラさせている。もともと、シンシアは喧嘩っ早い方なのだ。一世一代の大勝負、興奮するのも無理は無い。
「気が早いなぁ、リラックスだよシンシア、明日は皆の試合楽しみにしているから」
そろそろかなと思って会話を切り上げる。彼もプリントを貰ったらこちらに来るはずだ。私の気持ちとは裏腹に、二人はニコッと笑う。
「私も! クレア、貴方の試合楽しみにしています!」
「ぎゃふんと言わせてやればいいんです、クレア、貴方は強くなった」
「……ありがとう」
そう出来たら良かったんだけど、私は嘘をつくしかなくて、困ったまま笑った。今日の授業が永遠に続いたらいいのに、終わってしまった。
考えてみるとあっという間で、プリントを皺がつくほど強く握ってしまう。
0
お気に入りに追加
137
あなたにおすすめの小説
旦那様、前世の記憶を取り戻したので離縁させて頂きます
結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
恋愛
【前世の記憶が戻ったので、貴方はもう用済みです】
ある日突然私は前世の記憶を取り戻し、今自分が置かれている結婚生活がとても理不尽な事に気が付いた。こんな夫ならもういらない。前世の知識を活用すれば、この世界でもきっと女1人で生きていけるはず。そして私はクズ夫に離婚届を突きつけた―。
悪役令嬢でも素材はいいんだから楽しく生きなきゃ損だよね!
ペトラ
恋愛
ぼんやりとした意識を覚醒させながら、自分の置かれた状況を考えます。ここは、この世界は、途中まで攻略した乙女ゲームの世界だと思います。たぶん。
戦乙女≪ヴァルキュリア≫を育成する学園での、勉強あり、恋あり、戦いありの恋愛シミュレーションゲーム「ヴァルキュリア デスティニー~恋の最前線~」通称バル恋。戦乙女を育成しているのに、なぜか共学で、男子生徒が目指すのは・・・なんでしたっけ。忘れてしまいました。とにかく、前世の自分が死ぬ直前まではまっていたゲームの世界のようです。
前世は彼氏いない歴イコール年齢の、ややぽっちゃり(自己診断)享年28歳歯科衛生士でした。
悪役令嬢でもナイスバディの美少女に生まれ変わったのだから、人生楽しもう!というお話。
他サイトに連載中の話の改訂版になります。
悪役令嬢になりたくないので、攻略対象をヒロインに捧げます
久乃り
恋愛
乙女ゲームの世界に転生していた。
その記憶は突然降りてきて、記憶と現実のすり合わせに毎日苦労する羽目になる元日本の女子高校生佐藤美和。
1周回ったばかりで、2週目のターゲットを考えていたところだったため、乙女ゲームの世界に入り込んで嬉しい!とは思ったものの、自分はヒロインではなく、ライバルキャラ。ルート次第では悪役令嬢にもなってしまう公爵令嬢アンネローゼだった。
しかも、もう学校に通っているので、ゲームは進行中!ヒロインがどのルートに進んでいるのか確認しなくては、自分の立ち位置が分からない。いわゆる破滅エンドを回避するべきか?それとも、、勝手に動いて自分がヒロインになってしまうか?
自分の死に方からいって、他にも転生者がいる気がする。そのひとを探し出さないと!
自分の運命は、悪役令嬢か?破滅エンドか?ヒロインか?それともモブ?
ゲーム修正が入らないことを祈りつつ、転生仲間を探し出し、この乙女ゲームの世界を生き抜くのだ!
他サイトにて別名義で掲載していた作品です。
【コミカライズ2月28日引き下げ予定】実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。
氷雨そら
恋愛
悪役令嬢だと気がついたのは、断罪直後。
私は、五十も年上の辺境伯に嫁いだのだった。
「でも、白い結婚だったのよね……」
奥様を愛していた辺境伯に、孫のように可愛がられた私は、彼の亡き後、王都へと戻ってきていた。
全ては、乙女ゲームの推しを遠くから眺めるため。
一途な年下枠ヒーローに、元悪役令嬢は溺愛される。
断罪に引き続き、私に拒否権はない……たぶん。

悪役令嬢の生産ライフ
星宮歌
恋愛
コツコツとレベルを上げて、生産していくゲームが好きなしがない女子大生、田中雪は、その日、妹に頼まれて手に入れたゲームを片手に通り魔に刺される。
女神『はい、あなた、転生ね』
雪『へっ?』
これは、生産ゲームの世界に転生したかった雪が、別のゲーム世界に転生して、コツコツと生産するお話である。
雪『世界観が壊れる? 知ったこっちゃないわっ!』
無事に完結しました!
続編は『悪役令嬢の神様ライフ』です。
よければ、そちらもよろしくお願いしますm(_ _)m
私を幽閉した王子がこちらを気にしているのはなぜですか?
水谷繭
恋愛
婚約者である王太子リュシアンから日々疎まれながら過ごしてきたジスレーヌ。ある日のお茶会で、リュシアンが何者かに毒を盛られ倒れてしまう。
日ごろからジスレーヌをよく思っていなかった令嬢たちは、揃ってジスレーヌが毒を入れるところを見たと証言。令嬢たちの嘘を信じたリュシアンは、ジスレーヌを「裁きの家」というお屋敷に幽閉するよう指示する。
そこは二十年前に魔女と呼ばれた女が幽閉されて死んだ、いわくつきの屋敷だった。何とか幽閉期間を耐えようと怯えながら過ごすジスレーヌ。
一方、ジスレーヌを閉じ込めた張本人の王子はジスレーヌを気にしているようで……。
◇小説家になろうにも掲載中です!
◆表紙はGilry Drop様からお借りした画像を加工して使用しています
転生者はチートな悪役令嬢になりました〜私を死なせた貴方を許しません〜
みおな
恋愛
私が転生したのは、乙女ゲームの世界でした。何ですか?このライトノベル的な展開は。
しかも、転生先の悪役令嬢は公爵家の婚約者に冤罪をかけられて、処刑されてるじゃないですか。
冗談は顔だけにして下さい。元々、好きでもなかった婚約者に、何で殺されなきゃならないんですか!
わかりました。私が転生したのは、この悪役令嬢を「救う」ためなんですね?
それなら、ついでに公爵家との婚約も回避しましょう。おまけで貴方にも仕返しさせていただきますね?

誰からも愛されない悪役令嬢に転生したので、自由気ままに生きていきたいと思います。
木山楽斗
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢であるエルファリナに転生した私は、彼女のその境遇に対して深い悲しみを覚えていた。
彼女は、家族からも婚約者からも愛されていない。それどころか、その存在を疎まれているのだ。
こんな環境なら歪んでも仕方ない。そう思う程に、彼女の境遇は悲惨だったのである。
だが、彼女のように歪んでしまえば、ゲームと同じように罪を暴かれて牢屋に行くだけだ。
そのため、私は心を強く持つしかなかった。悲惨な結末を迎えないためにも、どんなに不当な扱いをされても、耐え抜くしかなかったのである。
そんな私に、解放される日がやって来た。
それは、ゲームの始まりである魔法学園入学の日だ。
全寮制の学園には、歪な家族は存在しない。
私は、自由を得たのである。
その自由を謳歌しながら、私は思っていた。
悲惨な境遇から必ず抜け出し、自由気ままに生きるのだと。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる