悪役令嬢に成り代わったのに、すでに詰みってどういうことですか!?

ぽんぽこ狸

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サディアスの出した答え……。3

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「そう、わたくしは間違っていませんのよ。多くの場合、それが真実ですもの」
「うん」
「……でも、真実だけが、救いとなるかは人によって違うのだわ」
「うん」

 クラリスはちゃんとわかっている。サディアスにはその真実は、立ち直るための支えになったのではなく、彼を打ちのめす呪いになった事を。

「だから……わたくしの思いを上から押し付けて、壊れてしまったサディアスにわたくしは、今度そこ、救いを渡すことを躊躇わなかったわ」
「……サディアスに協力してくれるんだね」
「ええ、あの子に言われてはわたくしは…………何も言えないのですから」

 私は再度クラリスの頭を撫でる。きっとこれは、成長というやつだろう。気がつかなかったことに気がつくようになる。それはとても喜ばしいことだ……そうだ、ララだって、弱い人を許せるようになっていた。

 ほんの少しずつ人は変わっていく。特に今の若くて色々問題があるこの時期は。

 彼女を撫でながら、二人でぼんやりと沈黙し、クラリスの言うままならないを実感しながら、時間を過ごす。

 私の言葉にするなら、やるせないかな。

 出来ることばかりじゃない。上手くいかない事はある。それはちゃんと知っている。

「あ……あぁ、でもクラリス、私ね。私もやるせない事ばっかりだと思うよ」
「……」
「でもね、忘れちゃだめだよ。クラリス。クラリスが自由になれたみたいに、どうしようもなくない望むことが叶う時だって確かにあるんだよ」
「……自分は叶わなという嫌味かしら」
「違うよ。今度……クラリスの口から、サディアスに言ってあげて、大方、ままならないけれど、希望はあるって」

 きっと、そうすれば、傷ついた心は癒えないけれど、彼の苦悩した時間は変わらないけれど、言葉の呪いは消えてなくなる。

「クラリスの実体験だもん、きっと、前と同じように、サディアスにきちんと届くよ」
「…………考えておくわ」

 クラリスはそれだけ言って、やはりぴょんと柵から飛び降りてバルコニーからいなくなる。

 暗闇に手を振ってみて、それから私も部屋に戻る。私もあの姿をふっと暗闇に消す感じを一度でいいからやってみたいのだが、使うシチュエーションが思いつかない。

 今度魔法を使ったら、バルコニーにから飛び降りて見ようかななんて、出来もしない事を考えた。

 久しぶりにしたくだらない思考に、少し笑って、それから、やっと手紙を書いた。個人戦は近い。私の余命もあと数日だ。

 もう、死にたくないとは言っていられない。また勝手に涙が出てきた。それを適当に流すままにして、朝をまった。




 個人戦が翌日に迫った今日。

 学園の食堂では、高級食材をふんだんに使った応援メニューが期間限定で発売されていて、寮食も今日の夜は豪華なメニューらしいという話を聞いている。

 何となく皆浮き足立っているような、練習に集中しきれないようなそんな雰囲気が学園全体を包んでいた。

 私はヴィンスに剣を打ち込んでいく。やっと攻守はっきりさせなくても、何となくテンポを掴んで攻める、受けるの選択がはっきりできるようになってきていた。

 それでも技術に格段の差はあるが、一戦力ぐらいにはなれる程度の力はあると思う。

「っ、……はっ、」

 息が上がって腕が痛くなってくる。ヴィンスはそんな私を見逃さず、少し踏み込んで、攻撃をしてくる。守るにも腕だけの力で守っていてはだめだ、体全体で剣に集中する。

 守り切り、一旦ヴィンスが引いたところで、授業終了の鐘がなる。ブレンダ先生がパンパンッと手を叩いた。

「はいっ、一度集まりなさい!」

 言われて散らばっていたクラスメイト達と共に剣を腰に刺してブレンダの元へと集まる。

「いよいよ明日! 個人トーナメント戦です、今日になって焦ってる者、準備万端な者、いるでしょう! けれど、私から言う事はひとつ!」

 ブレンダ先生はピッと一本指をたてて、生徒達を見つめる。

「今日無理しても意味はありません! よく休みなさい! いつものルーティンを崩さないこと!良いですね」

 彼女らしい堅実な案に納得する。確かにその通りだ。明日の試合、ここまで努力をしてきただけあって、どうにか結果を残そうと無理をする生徒も毎年いるのだろう。

「それから、頑張ってきた皆さんに餞別です! これを受け取った者から帰ってよし! 呼ばれた者から私の元に来なさい、それ以外は武器を片付け待機!」

 「はーい」とクラス揃って返事をし、ヴィンスと二人で武器を一番近い倉庫に片付けブレンダ先生の元に戻る。するとちょうど名前が呼ばれた。 

 パタパタと走ってブレンダ先生の方へ行くと、彼女は私に一枚の紙を差し出した。

「貴方は、きちんと実力を出すこと。私は貴方の努力を知っています。健闘を祈ります」
「……ありがとうございます」

 わざわざ実力と言ったのは、ブレンダ先生が私の固有魔法にある程度気がついているからだろう。それをきちんと使えと。
 
 ……。

 プリントに目を落としながら、先生の元から離れて、歩き出す。チェルシーやシンシアの方へ行くと彼女たちは既にプリントを受け取っているようだった。

「あ、クレアっ! クレアはなんて書いてありましたか?」
「え?……ええと」

 プリントの上部には、よくある失敗例、持ち物チェックリスト、タイムスケジュールが書いてあるのだが、プリントの下部には、ブレンダからのメッセージが書かれていた。

 私のは実力という言葉が先程の彼女の言葉と同じで隠語のように使われており、相手の慢心も逆手に取って方をつけてしまえと、書かれている。

「……油断してる所を叩きめせ! って……感じ」
「ふふっ、ブランダ先生らしいアドバイスですね! 私はとにかく緊張しないよう、優しくアドバイスが書かれています!」
「そうだね、チェルシーは確かにあがっちゃいそうだから、ブレンダ先生もよく見てるよね」
「ええ、確かに。私には、闘志を煽るような言葉が書かれていました、今から試合でも大丈夫なくらいです!」

 シンシアは珍しく、興奮していて、目をギラギラさせている。もともと、シンシアは喧嘩っ早い方なのだ。一世一代の大勝負、興奮するのも無理は無い。

「気が早いなぁ、リラックスだよシンシア、明日は皆の試合楽しみにしているから」

 そろそろかなと思って会話を切り上げる。彼もプリントを貰ったらこちらに来るはずだ。私の気持ちとは裏腹に、二人はニコッと笑う。

「私も! クレア、貴方の試合楽しみにしています!」
「ぎゃふんと言わせてやればいいんです、クレア、貴方は強くなった」
「……ありがとう」

 そう出来たら良かったんだけど、私は嘘をつくしかなくて、困ったまま笑った。今日の授業が永遠に続いたらいいのに、終わってしまった。

 考えてみるとあっという間で、プリントを皺がつくほど強く握ってしまう。




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