悪役令嬢に成り代わったのに、すでに詰みってどういうことですか!?

ぽんぽこ狸

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体に宿った宿命……。1

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 シンシアの髪をあみあみと編み込みをしていく。けれど彼女の髪はサラサラヘアーであり、編んだそばから落ちてきてしまうので少しキツめに髪を引っ張る。

「ちょっと痛いかも!」
「平気です、もう少しキツく結っても構いませんよ」
「わかった!」

 ありがたいと思いつつ、彼女の紅色の髪を深緑のリボンで止める。それからいくつか見えない位置でピンをさして落ちてきてしまっている場所を止めていく。

「クレアの髪は本当にツヤツヤですねっ!」
「そ、そう?今どんな感じ?」
「いい感じですよ!もう少しで完成です!」

 チェルシーは手を動かしながら言う。私も頭を出来るだけ動かさないようにしながらテーブルに置いたピンの入っている小箱に手を伸ばす。

 ふと机に影が落ちる。誰かと思い、視線をあげると、困惑気味のサディアスがいた。

「…………何をしてるんだ、君達は」
「髪のセットをしあいっこしているんです! ね、クレア、シンシア!」
「ええ、お恥ずかしながら、私自分では上手くできないのです、なので個人戦の予行練習も兼ねまして」
「私は、何となく! 面白いから」
「……そうか、昼休憩ももうじき終わる、ほどほどにな」

 サディアスの言葉に、私たちは「はーい」と返事をして、日直の仕事であるプリントの配布をしている彼に答える。今日はヴィンスも彼と同じ日直だ。

 ……でも確かに、何してるって言いたくなるよね。

 彼の言葉に心の中で賛同する。なんせ、私がシンシアの髪をセットしている間に、チェルシーがその後ろに並んで私の髪をセットしているんだ。確かに妙な構図である。

 クラスの人達は、午後の授業がポジション別クラスではなく、通常クラスでの授業とあってか、まったりとグループごとに話をしているので、私達の奇行に対して興味を示していないが、自分のチームメイトがこんなことをしていたら、そう言いたくもなるだろう。

 そんな風に思っていると、私はあっと思い出す。そういえば彼に言いたいことがあったのだ。

「あ、あのさ!サディアス」

 私の声に、去ろうとしていた彼は一拍おいてから振り返る。

 パッと振り返った彼は笑顔で、その笑顔に妙な圧がある。

「なんだ?」

 機嫌が悪そうでも、なんでもないのに、最近見なれた青白い顔でその笑顔を向けられると、どうにも言いづらい。

「え、えっとさ……」
「早くしてくれないか?授業が始まるまでにやる事があるんだ」
「う、うん……この前の──────
「クレア!……シンシア様、チェルシー様も放課後は、トーナメント表の発表を見に行きませんか?」

 私がサディアスに言う前に、ちょうどタイミング悪く、ヴィンスが割って入る。
 
 ……また……か。ちょうど今なら居ないと思っていたのに……。

 私が言いかけた事をサディアスは、さしてきにしていないように、ヴィンスの提案に対して反応する。

「いいんじゃないか?知り合いと当たるかもしれないし、敵を知っておいた方が対策が取れるしな」
「ええ、サディアス様は如何されますか?」
「すまないな、俺は用事がある。君たちで行ってきてくれ、じゃあな」
「ええ、また授業で」

 サディアスは少し駆け足で去っていき、その先にはクリスティアンが居る。彼と二言三言交わして、二人で廊下の方へと出ていく。

 正直、最近こんな事ばかりなのだ。サディアスにも意図的なものを感じるが、正直ヴィンスの方がそれが顕著だ。

 ララとの稽古室でのことがあって以来、サディアスに弁明する機会が無い。それに……クリスティアンやクラリスの元へも行けていない。

 出来るだけ早くフォローしなければと思っているのに、いつもタイミングが悪いのだ。私が手を動かしつつ、考えにふけっていると、パッとチェルシーが私の顔を覗き込む。

「最近思っているんですけどっ……サディアスと喧嘩でもしましたか?」
「ああ、私もそれ思っていました」
「……分かる?」
「分かりますよ!……だってサディアス、クレアと接する時だけ、苦しそうというか、辛そうです!」

 言われて瞳を瞬かせる。個人的には、私と接する時だけ、威圧的というか怖いという感想だったのだが、傍から見るとまた違った感想になるらしい。

「怒ってる感じじゃなくて?」
「怒っているというより、無理している感じが……きっと貴方との事だけではなく、夏休みの事も関係しているのでしょうね……最近の彼は、見ていて少し……」

 そこまで言ってシンシアは黙り込む。それは私も思っている。夏休み前の彼は、感情がきちんと表情に出ていて、疲れさせてしまう事も多かったが分かりやすかった、今は、ずっと同じ顔をしていて彼の感情というものが上手く読み取れない。

「でも、クレア、恋のパワーは強いんです!めげてはダメです!」

 チェルシーは自分を鼓舞して、グッと拳を握る。

 確かに恋のパワーというものはすごいと私も思うので頑張って欲しいが、彼自身が私達と距離を置いてしまって壁がある。

 私達チームメイトは彼の問題について、彼からきちんと説明を受けている、なので一応、授業に彼が出られない時の情報共有、それ以外での役回りの交代などサポートや伝達は怠っていないが、彼の問題を解決するという事は出来ていない。

「恋ですか……そういうものもありますし、私達はチームです。サディアスにはもう少し私達を頼って欲しいです。きっと全部、自分自身で抱え込んでしまっていると思いますから」
「……そうね。話だけでもちゃんと聞いて、出来るなら協力したいよね」

 結局、サディアスは事の次第を説明はしてくれたものの、彼は心配いらないと私たちに言った。それを、否とはいえなかった。だから、今だってチーム皆で彼のSOSを待っている。出来ない事も多いかもしれない、チェルシーやシンシアも私に警告してくれたとおり平民で、下手な事は出来ない。

 ……それでも、力になりたい。

 その思いは皆変わらず、けれど、サディアスの無理を咎める事もまた出来なかった。もしかすると、彼は私たちにまったく期待をしていないのかもしれないし、彼には彼のプライドがあるのかもしれない、そんな風にも思う。

 だんだんと思考の沼にはまっていって、賑やかな教室で、手だけを動かしつつ私達のチームのテーブルだけの無言が、妙に気持ちを落ち込ませる。

 すると、ぽんとチェルシーは私の両肩を叩く。

「出来ました!……クレア、シンシア!落ち込んでいても仕方ありません!私達はサディアスに頼って貰えるよう、努力しているじゃありませんか!」

 チェルシーの声は自信に満ち溢れていて、私もそれに納得する。

「よし、私もできた!チェルシーに同意!私は一回戦だけでも絶対に突破するよ!」
「私は夢は大きく、三回戦以上!バッチを狙います!」
「私は、勝利回数問わず、自らの全力を出し切ります」

 私が宣言すると、チェルシーもシンシアも後に続く。
 急に、そんな宣言をした私達のチームをまた、何か言っているとばかりに、クラスの女の子達が視線を向けて、朗らかに笑っている。

 三人でお揃いにリボンをつけて私達は、お互いに向かい合う。

「きっと、頼れるチームメイトだって証明して見せます!」
「うん!頑張ろ!」
「約束ですよ」

 三人で決意を込めて、私達は教室を出た。ちなみにヴィンスはこういうとき、だいたい一歩引いて私達を微笑ましく見守っている。
 
 そんな時にタイミング良く予鈴がなり、私達は急いで練習場へと、移動した。




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