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体が二つあればいいのに……。7
しおりを挟むこれはこれで私とは違った、不安と不快感、寂しさに押しつぶされた、絶望の形なのだと思った。
まだまだ若いのに、それに、ララは本来とても我が強くて情に厚い。ひとりぼっちではなく、常に周りに人がいるような華のある人物なのだ。
「嘘つき……大嫌い」
震える声で言われてなんだか可哀想になって、彼女を見つめる。私に、王妃にと望まれるララの状況を変えることなどできない。けれど、ララの気持ちを少しでも上向きに変える事だったら出来るかもしれない。
「嘘なんかついてないよ」
「……貴方の言葉なんか信じないわ」
それとちゃんと気にかけて、色々話をして、それからララにはローレンスときちんと話し合いをする事を勧めて、色々やる事がある。またやる事がひとつ増えたなと思うが、仕方がない。結局私は、ララが好きだ。
……兎にも角にも、ララが頼られるのが嫌だと言うのなら……。
「別にいいよ、信じてなくても」
「私は助けない。何もしない、私は貴方のこと放っておくから」
「ん、はいはい」
私はとりあえず立ち上がった。ララはまだ恨めしそうに私を見ている。それから手を引いてあげようとララに手を伸ばした。
すると彼女は、眉を寄せてこちらを見る。
「なんでも言う事を聞くって言ったわよね」
「うん?……うん、言ったよ」
「……じゃあ……私にもアレ作って、それから、チームメイトに渡してるアレとか、あと貴方が持っているソレもちょうだい」
「櫛とキャンドルとべっこう飴?」
キャンドルまでか……どうやって知ったのやらと思いつつ「いいよ」と言えばララは私に、魔法玉を返してくれる。
……あ、そういえば取られてたんだった。思い出してポケットにしまってそれからララの手を取る。軽く引けばララはすくっと立ち上がり、涙を拭う。
「絶対よ、約束よ、じゃないと私、貴方の魔法玉を壊しに行くから」
「うん、いいよ」
私が笑うと、ララはまだ仏頂面をしていて、フンッとそっぽを向いた。少しは気が紛れたかなと思いつつ、稽古室を出た。
そうすると、稽古室のすぐそばには私の見知った二人がいた。
「サディアス、ヴィンス……」
私が瞳を瞬かせながら彼らの名前を呼ぶと、ヴィンスはニコニコしたまま、サディアスは少し機嫌が悪そうにこちらを見た。
そうするとララはおもむろに私を背後から抱きしめる。なんのつもりかと思ったが、振りほどくわけにも行かずに、その状態で何となくヴィンスに聞く。
「追いかけてきてくれたの?」
「ええ、まだこの後のご予定を伺ってなかったものですから」
「……サディアスは……どうしたの」
私が恐る恐る聞くと彼は、珍しく舌打ちをして、それから私とは視線が合わず少し上のララの方を見て言う。
「別に……俺が君に会いに来て何か問題があるか?」
「ないけど」
「その女が君に会いに来るのは、どういう理由があるのか、聞いてもいいか」
「……」
どう考えても私を責めているような口調であり、出来るだけ正確に答えたかったのだが、先程友達では無いと言われてしまったし、何か利害があってともに過ごしているということも無い。
「い、色々……」
私が渋々言えば、ララが自ら口を開く。
「そんなこと領主様に関係あるのかしら、私最近知ったのよ、貴方、私の出身地グローヴの領主様なんでしょ」
「……そうだが、だからなんだ」
「ふんっ、貴族の中で肩身が狭いから、私に当たるのね!クレアは貴方の物では無いのに偉そうに、私がこの子に会うのだって、何していたって自由でしょう」
ララは、自分が気が立っていることを隠しもせずに、サディアスに噛み付く。なんだか不味いことを言っているということは分かるし、ララ側から見れば、それだって正論だろう。彼女が悪いかという問いがあれば、どちらとも言えないが答えだ。
でも、それはサディアスからすれば、悪いが正解だとも思う。
とりあえず振り返って、ララの口を抑える。ララは私に止められると、すぐに裏切られたみたいな顔をして、どうしたらいいのか分からなくなってしまう。
「サディアス!ちょっと今はタイミングが悪い!!ごめん」
私がそう言ってララを引っ張って、部屋に戻る道のりを進もうとすると背中にぽつりと声がした。
「……わかった……君は…………」
なんと言ったのかはっきりとは聞こえなかったのだが、“君はそちらを選ぶんだな”とそんな感じの内容だったように思う。
その声も、どうしようもなく振り向きたくなるようなもので、体がふたつあれば今すぐサディアスの元へ帰って弁明するのにと思う。
……どっちが正解?どっちを擁護する?どうすればいい?どっちも大切で、私の中の天秤はサディアスの方に傾くのだが、ここでララを放り出す訳にもいかない、私はヴィンスに視線を送って、とりあえず、ララを自室へと送って同じ場所へと全力で向かった。
けれどそこには、ヴィンスしか居らずヴィンスからのサディアスの言伝はひとつ「話すことは無い」ということだった。
つまりは彼の部屋に行く前に先手を打たれてしまった。
「……ヴィンス……サディアス……怒ってた?」
「……分かりません……難しい表情をされていました」
まずいと思いながらも、心のどこかでしばらく整理をつける時間が彼にも必要で、そのうち自分を落ち着けていつもの彼に戻るだろうとも思った。
そんな気持ちで納得しようと思ったのだが……それは良くない。だってさっき、肋骨を折られるという痛い目を見たばかりだ。
……ちょっと動こう。話すことは無いといった彼の言葉の意味が自分の心を落ち着けるためにではなかった場合に備えて。
……まずは……きちんとサディアスの話を聞いた方がいい。そうなると……クリスティアンかクラリスだね。
早いうちに話をしに行くことを決めて、一度私は部屋に戻った。
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