悪役令嬢に成り代わったのに、すでに詰みってどういうことですか!?

ぽんぽこ狸

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体が二つあればいいのに……。6

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 そんな考え事をしていると、ララはメイスの先を私の胸元に押し付ける。抵抗できずにそのまま後ろに手を付き、彼女が差し向けるまま、上半身を傾けていく、するとララは私の方へと手を伸ばしてきて、徐に、私の魔法玉を手に取る。

 そして私を睨みつけて、尚かつ涙をこぼす。

「な……何する気?」
「……壊すのよ。私を利用しようとして、それで自分ではなんの努力もしてなくて力もなくて、そんなのつまらないもの、いらないわ私の視界に入らないで欲しい」

 言われてまずい事になったと、ダラダラと汗をこぼす。それは、それだけはダメだ。

「ダメ!だめだめ!ララ!待ってちゃんと説明するから」
「……」
「お願いそれだけはダメ!死んじゃうから!」

 私が、メイスをぎゅっと握って、少しでも自分の魔法玉に近づこうと手を伸ばす、それでもララは私をじっと睨んでいる。

「……何を説明するって言うのよ、どうやったか知らないけど、貴方、私の知識まで盗んでおいて、今更よ!」
「それも説明するって!ちょっと待って本当待って!」
「…………何でもする?」
「へ……え?」

 私が必死に訴えると、ララは涙を流しながら、メイスをよりいっそう強く突きつけた。

 何でもする?というのは、何でも言う事を聞くかということだろうか。

「……」

 そんなことにイエスと言ってしまっていいのか、と戸惑うが……とにかく今は、仕方がない。こくこくと頷いて、答えを口にする。

「するっ、言うこと聞くから!」
「…………」

 私の言葉に、ララはしばらく考えてそれからメイスを下ろす。

 稽古室の床に二人で座って、私がとにかくもう誤解を生まないようにと、ゼロから百まですべてララに話をすると、ララはしばらくぽかんとして、その暗く陰らせていた瞳をひとつ、ふたつと瞬かせ、それから少し黙った。

 ララの知識を盗んだと言われていた事はもうしかたがないので、前世で読んだと伝えると、その前世では当たり前に流通している知識みたいな受け取られ方をしたが、まぁこれ以上説明のしようはないだろうと思う。

 というか、どこでバレたのかなと考えてみたのだが、普通に、先日の試合の時にべっこう飴を食べていたのでバレてもまったくおかしくなかった。

「ねぇ、じゃあ貴方って結局なんなの?」
「何って言われても……ただ生きたいだけの人間というか……ちょっと変な記憶のあるちょっと変な生い立ちの魂というか……」
「要は……貴方自身も自分の事ちゃんと説明できないのね」
「ん……んー……まぁ、そうだけど」

 ララは私の魔法玉を手で弄びながら、片手で落ちてきて決まっている髪を耳にかける。それから私を見ずに言う。

「貴方、よくそれで私にゲームなんて言ったわね」
「!……いやぁ……面白いかなって思って」
「……面白かったわよ。でも難易度が高すぎだわ。それに結局、貴方が私を利用していないっていう証拠は無いじゃない。私はそれが気に入らないのよ」
「そうなの?」
「そうよ……ずっとそう、アウガス学校時代は良かったわ。私をみんな見くびってて、誰一人だって私に寄りかかって来たり、利用しようとする人なんていなかった」

 ララは、私の魔法玉の中心の色のない部分を親指で擦って、私の魔法玉の光を見つめる。

「でも……今は違うわ……私、他力本願な人なんて守りたくない。あわよくば、私の実力のお零れに預かろうとたかってくる人間が嫌いだわ」

 苛立たしげに、険しい顔をしてそう言う。今、ララは周りの人間が皆そうに見えるのだろうか。

「そして押し付けて来るのよ。理想像を責任だと言って…………貴方も同じよ。どうせ私に助けて欲しいんだわ」
「……」
「皆そう、全員そうなの、責任とか、責務とか、持つものの義務だとかそういう言葉を並べ立てて、今度は私をいいように使おうとしている」

 …………ララの中で嫌な事実から逃れられない状況が変わらないせいで、脅迫観念になりつつあるのかも知らない。

「誰も彼も皆、私が助けてあげるような価値すらない、弱い、努力もしない、口先だけの薄っぺら人間よ!」

 その状況を変えたいと誰よりも願っているはずなのに、変え方も、どうしたらいいかも分からずに、ララは疑う事だけ先行してしまっている。

 もしかしたら、それほど、彼女を利用しようと思っている人間は多くないのかもしれない。努力していないとか薄っぺらだとか人間はそんなに、簡単じゃない。

 今だって、ララは勘違いをしていた。すべてを話していなかった事は私の落ち度だが、信じるということだってできたはずだ。

「嘘つき……嘘つき、皆嫌いよ。私、ずっとずっとこっちに来てから疲れているの」

 恨み言のようにララはつぶやく。

 ……確かにずっと言ってたね。つまらない、暇だ何も面白くない、そうやって、確かに彼女は言っていた。

 それから、それが嫌い、嫌だ、押し付けないで。

 今は、嘘つき、嫌い、価値もない、疲れている。

 だんだん悪化してきているように思えて、私はしっかりとララのことを見ていなかったのだと思う。

 ……だって、それは……ローレンスの役目だと思っていたから。

 それに、ララは潰れる事は無いとも思っていた、でもきっとそれは違う。

 ララは自分の足を引き寄せて三角に座る。それから私の魔法玉をきゅっと握る。こて、と膝に頭を預けて私を見た。

「……そうよ………………疲れたわ」

 嗚咽も漏らさずにララは涙を流す。生気の無いような瞳から、一粒、また一粒と涙が落ちて、瞬きもしていないのに大粒の涙が落ちていく。




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