185 / 305
体が二つあればいいのに……。6
しおりを挟むそんな考え事をしていると、ララはメイスの先を私の胸元に押し付ける。抵抗できずにそのまま後ろに手を付き、彼女が差し向けるまま、上半身を傾けていく、するとララは私の方へと手を伸ばしてきて、徐に、私の魔法玉を手に取る。
そして私を睨みつけて、尚かつ涙をこぼす。
「な……何する気?」
「……壊すのよ。私を利用しようとして、それで自分ではなんの努力もしてなくて力もなくて、そんなのつまらないもの、いらないわ私の視界に入らないで欲しい」
言われてまずい事になったと、ダラダラと汗をこぼす。それは、それだけはダメだ。
「ダメ!だめだめ!ララ!待ってちゃんと説明するから」
「……」
「お願いそれだけはダメ!死んじゃうから!」
私が、メイスをぎゅっと握って、少しでも自分の魔法玉に近づこうと手を伸ばす、それでもララは私をじっと睨んでいる。
「……何を説明するって言うのよ、どうやったか知らないけど、貴方、私の知識まで盗んでおいて、今更よ!」
「それも説明するって!ちょっと待って本当待って!」
「…………何でもする?」
「へ……え?」
私が必死に訴えると、ララは涙を流しながら、メイスをよりいっそう強く突きつけた。
何でもする?というのは、何でも言う事を聞くかということだろうか。
「……」
そんなことにイエスと言ってしまっていいのか、と戸惑うが……とにかく今は、仕方がない。こくこくと頷いて、答えを口にする。
「するっ、言うこと聞くから!」
「…………」
私の言葉に、ララはしばらく考えてそれからメイスを下ろす。
稽古室の床に二人で座って、私がとにかくもう誤解を生まないようにと、ゼロから百まですべてララに話をすると、ララはしばらくぽかんとして、その暗く陰らせていた瞳をひとつ、ふたつと瞬かせ、それから少し黙った。
ララの知識を盗んだと言われていた事はもうしかたがないので、前世で読んだと伝えると、その前世では当たり前に流通している知識みたいな受け取られ方をしたが、まぁこれ以上説明のしようはないだろうと思う。
というか、どこでバレたのかなと考えてみたのだが、普通に、先日の試合の時にべっこう飴を食べていたのでバレてもまったくおかしくなかった。
「ねぇ、じゃあ貴方って結局なんなの?」
「何って言われても……ただ生きたいだけの人間というか……ちょっと変な記憶のあるちょっと変な生い立ちの魂というか……」
「要は……貴方自身も自分の事ちゃんと説明できないのね」
「ん……んー……まぁ、そうだけど」
ララは私の魔法玉を手で弄びながら、片手で落ちてきて決まっている髪を耳にかける。それから私を見ずに言う。
「貴方、よくそれで私にゲームなんて言ったわね」
「!……いやぁ……面白いかなって思って」
「……面白かったわよ。でも難易度が高すぎだわ。それに結局、貴方が私を利用していないっていう証拠は無いじゃない。私はそれが気に入らないのよ」
「そうなの?」
「そうよ……ずっとそう、アウガス学校時代は良かったわ。私をみんな見くびってて、誰一人だって私に寄りかかって来たり、利用しようとする人なんていなかった」
ララは、私の魔法玉の中心の色のない部分を親指で擦って、私の魔法玉の光を見つめる。
「でも……今は違うわ……私、他力本願な人なんて守りたくない。あわよくば、私の実力のお零れに預かろうとたかってくる人間が嫌いだわ」
苛立たしげに、険しい顔をしてそう言う。今、ララは周りの人間が皆そうに見えるのだろうか。
「そして押し付けて来るのよ。理想像を責任だと言って…………貴方も同じよ。どうせ私に助けて欲しいんだわ」
「……」
「皆そう、全員そうなの、責任とか、責務とか、持つものの義務だとかそういう言葉を並べ立てて、今度は私をいいように使おうとしている」
…………ララの中で嫌な事実から逃れられない状況が変わらないせいで、脅迫観念になりつつあるのかも知らない。
「誰も彼も皆、私が助けてあげるような価値すらない、弱い、努力もしない、口先だけの薄っぺら人間よ!」
その状況を変えたいと誰よりも願っているはずなのに、変え方も、どうしたらいいかも分からずに、ララは疑う事だけ先行してしまっている。
もしかしたら、それほど、彼女を利用しようと思っている人間は多くないのかもしれない。努力していないとか薄っぺらだとか人間はそんなに、簡単じゃない。
今だって、ララは勘違いをしていた。すべてを話していなかった事は私の落ち度だが、信じるということだってできたはずだ。
「嘘つき……嘘つき、皆嫌いよ。私、ずっとずっとこっちに来てから疲れているの」
恨み言のようにララはつぶやく。
……確かにずっと言ってたね。つまらない、暇だ何も面白くない、そうやって、確かに彼女は言っていた。
それから、それが嫌い、嫌だ、押し付けないで。
今は、嘘つき、嫌い、価値もない、疲れている。
だんだん悪化してきているように思えて、私はしっかりとララのことを見ていなかったのだと思う。
……だって、それは……ローレンスの役目だと思っていたから。
それに、ララは潰れる事は無いとも思っていた、でもきっとそれは違う。
ララは自分の足を引き寄せて三角に座る。それから私の魔法玉をきゅっと握る。こて、と膝に頭を預けて私を見た。
「……そうよ………………疲れたわ」
嗚咽も漏らさずにララは涙を流す。生気の無いような瞳から、一粒、また一粒と涙が落ちて、瞬きもしていないのに大粒の涙が落ちていく。
0
お気に入りに追加
137
あなたにおすすめの小説
旦那様、前世の記憶を取り戻したので離縁させて頂きます
結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
恋愛
【前世の記憶が戻ったので、貴方はもう用済みです】
ある日突然私は前世の記憶を取り戻し、今自分が置かれている結婚生活がとても理不尽な事に気が付いた。こんな夫ならもういらない。前世の知識を活用すれば、この世界でもきっと女1人で生きていけるはず。そして私はクズ夫に離婚届を突きつけた―。
悪役令嬢でも素材はいいんだから楽しく生きなきゃ損だよね!
ペトラ
恋愛
ぼんやりとした意識を覚醒させながら、自分の置かれた状況を考えます。ここは、この世界は、途中まで攻略した乙女ゲームの世界だと思います。たぶん。
戦乙女≪ヴァルキュリア≫を育成する学園での、勉強あり、恋あり、戦いありの恋愛シミュレーションゲーム「ヴァルキュリア デスティニー~恋の最前線~」通称バル恋。戦乙女を育成しているのに、なぜか共学で、男子生徒が目指すのは・・・なんでしたっけ。忘れてしまいました。とにかく、前世の自分が死ぬ直前まではまっていたゲームの世界のようです。
前世は彼氏いない歴イコール年齢の、ややぽっちゃり(自己診断)享年28歳歯科衛生士でした。
悪役令嬢でもナイスバディの美少女に生まれ変わったのだから、人生楽しもう!というお話。
他サイトに連載中の話の改訂版になります。
悪役令嬢になりたくないので、攻略対象をヒロインに捧げます
久乃り
恋愛
乙女ゲームの世界に転生していた。
その記憶は突然降りてきて、記憶と現実のすり合わせに毎日苦労する羽目になる元日本の女子高校生佐藤美和。
1周回ったばかりで、2週目のターゲットを考えていたところだったため、乙女ゲームの世界に入り込んで嬉しい!とは思ったものの、自分はヒロインではなく、ライバルキャラ。ルート次第では悪役令嬢にもなってしまう公爵令嬢アンネローゼだった。
しかも、もう学校に通っているので、ゲームは進行中!ヒロインがどのルートに進んでいるのか確認しなくては、自分の立ち位置が分からない。いわゆる破滅エンドを回避するべきか?それとも、、勝手に動いて自分がヒロインになってしまうか?
自分の死に方からいって、他にも転生者がいる気がする。そのひとを探し出さないと!
自分の運命は、悪役令嬢か?破滅エンドか?ヒロインか?それともモブ?
ゲーム修正が入らないことを祈りつつ、転生仲間を探し出し、この乙女ゲームの世界を生き抜くのだ!
他サイトにて別名義で掲載していた作品です。
【コミカライズ2月28日引き下げ予定】実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。
氷雨そら
恋愛
悪役令嬢だと気がついたのは、断罪直後。
私は、五十も年上の辺境伯に嫁いだのだった。
「でも、白い結婚だったのよね……」
奥様を愛していた辺境伯に、孫のように可愛がられた私は、彼の亡き後、王都へと戻ってきていた。
全ては、乙女ゲームの推しを遠くから眺めるため。
一途な年下枠ヒーローに、元悪役令嬢は溺愛される。
断罪に引き続き、私に拒否権はない……たぶん。

悪役令嬢の生産ライフ
星宮歌
恋愛
コツコツとレベルを上げて、生産していくゲームが好きなしがない女子大生、田中雪は、その日、妹に頼まれて手に入れたゲームを片手に通り魔に刺される。
女神『はい、あなた、転生ね』
雪『へっ?』
これは、生産ゲームの世界に転生したかった雪が、別のゲーム世界に転生して、コツコツと生産するお話である。
雪『世界観が壊れる? 知ったこっちゃないわっ!』
無事に完結しました!
続編は『悪役令嬢の神様ライフ』です。
よければ、そちらもよろしくお願いしますm(_ _)m
私を幽閉した王子がこちらを気にしているのはなぜですか?
水谷繭
恋愛
婚約者である王太子リュシアンから日々疎まれながら過ごしてきたジスレーヌ。ある日のお茶会で、リュシアンが何者かに毒を盛られ倒れてしまう。
日ごろからジスレーヌをよく思っていなかった令嬢たちは、揃ってジスレーヌが毒を入れるところを見たと証言。令嬢たちの嘘を信じたリュシアンは、ジスレーヌを「裁きの家」というお屋敷に幽閉するよう指示する。
そこは二十年前に魔女と呼ばれた女が幽閉されて死んだ、いわくつきの屋敷だった。何とか幽閉期間を耐えようと怯えながら過ごすジスレーヌ。
一方、ジスレーヌを閉じ込めた張本人の王子はジスレーヌを気にしているようで……。
◇小説家になろうにも掲載中です!
◆表紙はGilry Drop様からお借りした画像を加工して使用しています
転生者はチートな悪役令嬢になりました〜私を死なせた貴方を許しません〜
みおな
恋愛
私が転生したのは、乙女ゲームの世界でした。何ですか?このライトノベル的な展開は。
しかも、転生先の悪役令嬢は公爵家の婚約者に冤罪をかけられて、処刑されてるじゃないですか。
冗談は顔だけにして下さい。元々、好きでもなかった婚約者に、何で殺されなきゃならないんですか!
わかりました。私が転生したのは、この悪役令嬢を「救う」ためなんですね?
それなら、ついでに公爵家との婚約も回避しましょう。おまけで貴方にも仕返しさせていただきますね?

誰からも愛されない悪役令嬢に転生したので、自由気ままに生きていきたいと思います。
木山楽斗
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢であるエルファリナに転生した私は、彼女のその境遇に対して深い悲しみを覚えていた。
彼女は、家族からも婚約者からも愛されていない。それどころか、その存在を疎まれているのだ。
こんな環境なら歪んでも仕方ない。そう思う程に、彼女の境遇は悲惨だったのである。
だが、彼女のように歪んでしまえば、ゲームと同じように罪を暴かれて牢屋に行くだけだ。
そのため、私は心を強く持つしかなかった。悲惨な結末を迎えないためにも、どんなに不当な扱いをされても、耐え抜くしかなかったのである。
そんな私に、解放される日がやって来た。
それは、ゲームの始まりである魔法学園入学の日だ。
全寮制の学園には、歪な家族は存在しない。
私は、自由を得たのである。
その自由を謳歌しながら、私は思っていた。
悲惨な境遇から必ず抜け出し、自由気ままに生きるのだと。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる