悪役令嬢に成り代わったのに、すでに詰みってどういうことですか!?

ぽんぽこ狸

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体が二つあればいいのに……。3

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 今は私が怖がらなくなったのでそれをローレンスが言うことは減ったが、こうやって急に、手を出して来るぐらいならば、あの方がマシだったと思う。

「っ…………」
「君の隠し事は、私が思っていたより、厄介なものらしいね」
「はっ、ローレンスっ、はな、して」

 ローレンスの冷たい声に私は血の気が引いて、震える手で彼の手を掴む。当然、私は魔法が使えていないので、ビクともしない。

 随分、情けないことになっているのはわかるけれど、彼相手に強がる事は意味が無い。ローレンスには結構前から負けっぱなしなのだ。だから、シャーリーやクリスティアンの相手ように自分が怯えているのを隠そうとは思わない。

「しかし、私に逆らったのだから、しかるべき罰があって当然だろうね」
「……っ、……ごめんなさい、あんな、風にするつもりは」

 不可抗力だ。それに、私に無理やり魔力を注ごうとした方だって悪いのだがそれを言い出したらキリがないし、この状況だって変わらない。仕方なくその言葉を飲み込んで、媚びるように彼を見た。

「喉を切っては、命に関わるからね。……今日、シャーリーに蹴られていた耳か頬でも傷つけようか」
「っ……」

 頬にピタピタと刀身を当てられて、その度に体がビクつき、強く目を瞑る。耳なんて切られたら、元に戻るかが心配だ。でも、出来れば切り傷は顔はやめて欲しい。

「…………私がやってもつまらないか……君が自分でやるなんてどうかな」
「わ、私?……な、なんで」
「さぁ?……私の護衛に害をなしたと言うことは、私に害をなしたのと同じなんだよ、クレア。また幽閉されたいのかな」

 黒いナイフを持たされて、重さがまったく感じられないことに驚きつつも、久しぶりに脅された。それになんだか改めて、リアリティのようなものを感じてしまう。

 私は色々な人に狙われているらしいし、殺されてしまうらしいし、けれど、色々な人達と繋がりを持っていてこの世界にも馴染んできた。分かることだって増えてみんな喧嘩っ早くて困る事だってあるけれど、それでも割と長い時間、楽しくやっている。

 そしてこの生活の中で、ローレンスが私という存在を握っている。彼が一言いうだけで、私は幽閉生活に戻される。
 シャーリーやクリスティアン、他の気に入らない人には、簡単に喧嘩を売って悪態をつくが、ローレンスはそうもいかない。

 彼はちゃんと私という人間そのものを握っている。

 ……わかってる。急にまたゼロまで戻されたら、辛いどころじゃすまないし、どうしたらいいのか分からなくなってしまうだろう。だから、私はローレンスに怯えて、縋って然るべきだ。

 彼は、それに値するぐらい割と理不尽だし、権力を持っている。本当は私だってそうするべきだと思うけれど……でも今更、彼の思い通りになると言うのも、それを納得するのも何か違うと思ってしまうのだ。

 別に、反発心じゃない。なんというかこれはローレンス自身と私自身の人間性の話だ。
 
 ローレンスを見つめる。彼は、私の行動をじっと観察していて、私は、自分で自分を傷つけるのはさすがに出来ないと、意思表示をするために、彼の短剣をポイッと投げた。

「…………ローレンスがやって……くれた、ほうが……いや、私は……そういうのは……できないっていうか……」

 しどろもどろになりつつ、弁明をする。それに、やっぱり不可抗力だしと思う。
 
「故意じゃ……無いの、ローレンスを害するとか……そういうつもりは全然なかったから、ごめんなさい、許して」

 私が言うと彼は黙ってそのまま、短剣を消す。それから、少し考えるように視線を動かして、私に戻す。

「……少しは従順さを身につけたかと思ったのだが、気のせいだったようだね」
「ゔっ!!」

 流れるようにナチュラルに腹を蹴られて、痛みに一瞬末端が痺れ、じんわりとした重たい痛みが襲ってくる。
 
 お腹を抑えて痛みに悶えていると、髪を掴まれて目線を無理やり合わせられる。

 痛みから涙に歪んだ視界でも彼の顔は相変わらず美しい。

「弁明をしてもいいよ、聞いてあげよう」
「ッ、うん、っ、」

 言われて私は、全ての詳細を呼吸を荒くしながら、ひたすらに話をした。魔力を吸い取れるということもきちんと説明と謝罪をして、思案しながら聞く彼に、本意ではなかったと訴えた。

 ローレンスはしばらく考えを巡らせて、深く呼吸をして痛みを落ち着けている私に言う。

「実践はできる?」
「……出来、る」

 思ったよりも当たりどころが悪かったらしく、後を引く痛みに、眉をしかめながら言うと、ローレンスは私の両脇に手を入れて持ち上げる、それをまま自らの腿の上に私を跨らせて、魔法玉を取り出した。

「っ、…………お、おお、重い……でしょ」
「……君の体は羽のように軽いよ」

 ドン引きする私に、彼は甘ったるい声でそう言う。ゾゾッと背中を悪寒が走って、降りようと思い彼の両肩を押す、けれど急に動いたせいか、ズキっと腹が痛んで嫌な汗が出てくる。

「ッ……ぐっ、うぅ」
「……少し加減を忘れてしまったようだ。魔法を使えばすぐに治るから、早くやるといい」

 珍しく、自分に非があることを認めるような発言に、私は驚きつつそういう事ならと思い、ローレンスから魔法玉を受け取って、彼の魔法玉に触れさせる。腹の痛みで上手く集中が出来なかったが、私の空白を埋め、魔法を使うということを意識して魔力を貯めていく。

「……言い表しようのない感覚だな」
「そ、なの?……私はっ、わかんない」

 彼は少し不服そうにしながら、私の髪を指で梳くようにして撫でる。なんだかそういう事をされると心地が悪い。嫌では無いのだが、妙なカンジだ。

「君には無いのか……普段であれば霧散してしまうものが受け取られ、他人の中で保有される感覚は……なんともね」

 彼の言っている言葉はよく分からない、そもそも、私は受け入れるか吸い取るかのどちらかだ、私が誰かに魔力を注いでも保有されることはない。




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