悪役令嬢に成り代わったのに、すでに詰みってどういうことですか!?

ぽんぽこ狸

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体が二つあればいいのに……。1

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 コーディはそれほど、落ち込んでいる様子も無く、ただぼんやりとどこかを見ており、ディックは少し自慢げだった。

「お疲れ様、凄かったね」
「クレア……君のおかげだよ」

 ディックは控えめにそう言って、コーディの方へと振り返る。

「君に少しは認めて貰えた?」
「……そうだね……先程は詰って悪かった」
「ふ、ふんっ……こっちこそ、クレアが騒がせてすまなかったな!」
「それは別に……ボクも騒動を起こす事が多いから……今回も、組み合わせ的にそうならなかっただけで」

 コーディは意味深な事を言いつつ、私の方を見る。

 ……そ、それって、もしかして、私が彼と戦う事になっていたらまた、騒動というか、事件と言うかに発展していたということだろうか。

 まったく普通に話せていたので、頭からすぽんと彼は危険だと言うことを忘れていたが、私を見る冷たい瞳は変わらない。スススっとディックの影に隠れると、コーディの視界は遮られ、少し安心する。

「でも、やっぱりディックのような人達が常にいるとなると、貴方は安全だね」
「……」
「クラスにいる時には、面倒な人達もいるようだし……本当に恵まれた人だ」

 それだけ言って、彼は、自分のプリントを取り、テーブルに視線を落とす。

 そして、ディックが勝ったことに納得のいっていないシャーリーは、私たちを一睨みし、けれども何も言うようなことは無い。

「次は私の番だねぇ……シャーリー行ってくるよ、健闘を祈っていてくれるかな」
「せいぜい無様を晒さぬよう祈っていますわ」
「ハハッ、手厳しい」

 シャーリーの手にひとつキスを落として、それからクリスティアンはコートの方へと向かって行く。
 同じくコートへと向かっているローレンスは、既に手に黒いサーベルを持っていた。

 私は先程の試合について適当に勝敗と、戦況を箇条書きにして、ディックの弱点である、初速が遅いことも一応書いておく。どうせ、エリアルに提出するものなので、私の固有魔法を使用していた事も記載しておく。

 三試合目はすぐに終了した。

 ローレンスは、少し楽しげに、クリスティアンの握っている武器を破壊した。ああして、ローレンスはたまに格の違う相手に、当てつけのような勝ち方をするときがある。

 それにクリスティアンは、貴族で身分が高いとはいえ、編入者だ。

 ローレンスは純粋にブロンズ達の中でも優秀で強いというのに、入学試験で落とされ、途中から遅れて入ってきたクリスティアンに勝てるはずがない相手だ。

 それを理解しているのか、クリスティアンは仕方ないとばかりに、微笑むが、その笑みはどこか陰のある笑みだった。


 私は珍しく、ヴィンスと二人でローレンスと斜め向かいあって、ソファーに座っていた。このお部屋は王族用のお部屋で、このお部屋にたどりつくまでに、廊下で西倉庫でポジション別のクラスの時に控えている護衛達にまずは止められ、その後部屋に入れば、侍女に案内されつつ廊下を進み、最終的には、部屋の中で護衛をしている学生二人が常時魔法を使用し、剣を腰に差したまま、お茶を出された。

 私は常に魔法を使っている、大剣を持った男性二入に睨まれている恐怖からろくにお茶菓子の味も分からずに、萎縮しきってヴィンスとソワソワしながら、優雅にお茶を楽しんでいるローレンスを見やった。

 こうして見ると、お部屋は装飾が豪華な調度品の数々で構成されていて、寮の部屋だというのに、まるでお城の一室のように感じられて、私なんかは、場違いな気さえしてくる。しかし、ローレンスにこの部屋はしっくりくる。如何にも住んでそうである。

 ちなみにヴィンスは、私の従者として仕事をしようとしていたところ、ローレンスに止められご立腹だった。

 夕飯を食べたあとなので甘いものを食べるのは、肥満の元なのだが、それでも、ここで出ているお菓子は格段に美味しい。それにソファーの座り心地がフワッフワで腰がとろけてしまいそうだ。

 あまり、意地汚く食べ過ぎないように注意しつつ生クリームたっぷりのショートケーキをもくもくと食べる。食事をしてしばらくすると緊張もほぐれてきて、柔らかな甘みが口に広がるのがわかる。

「おいしい……」
「そうか、それは良かった……ヴィンス君は食べないのかな」

 ローレンスは、紅茶だけ飲んでニコニコとしているヴィンスに対して言う、彼は「私は甘いものが得意ではありませんので」と返す。私はそんな情報は初めて知ったのだが、ローレンスはその返答に、少し笑みを深める。

「何も盛っていないよ、間違ってクレアが食べたら大変だろう」
「ローレンス様、そのような心配はしておりません。どうかお気になさらず」
「……そういうことにしておこうか」

 彼らは含みのある会話をしていて、逆に何か盛っている可能性があるのかと少し驚く。

 ……というか私、この二人がきちんと話しをしているところ見た事なかったような……。

「盛るって何を?」
 
 もっと何か話をしないかなと思い、毒とかそういったものだろうという事をわかっていつつもアホの子のフリをして、ケーキを口に入れつつ聞いてみる。

「以前、毒味も出来るようにと少しヴィンスの食事に混ぜるようにしていた事があってね。その時のことだよ」
「毒味って、毒味役って事? 出来るようになるものなの?」
「いいや、食欲不振に陥って使い物ならなくなる場合も多いよ」

 ……そりゃそうでしょ。ただでさえ、食べたら太っちゃうというマインドだけで拒食症になる人がいると聞くのだ、食べたら死ぬかもしれないと思ったら食べられなくなるのも無理は無い。

 なんだか、物騒だなと思いつつ、ヴィンスを見るが相変わらずニコニコしている、こんな主に仕えていたというのは、彼の心情的にどんなものなんだろうか。

「ヴィンスへはいつくか常人には耐え難い事をしているが、そのどれもにはいはいと頷いてこなしている。……そう思うと、少し君に似ているな」
「……まったく正反対じゃなくて?」
「ああ……思い通りにならないことがだよ」

 ローレンスは笑って言ったが、その目は笑っていない。私は置いておいて、ヴィンスはローレンスの思い通りになっていたんじゃないかと思うのだが、彼の判断では違うらしい。

 それとも、ローレンスの癖と言うやつだろうか。本当は常人に耐えられないことをいくつもして、反旗を翻して欲しかったとか、そういう。

 よく分からないがそんな事のために、不幸を被ったヴィンスが可哀想だ。

「ただ……ヴィンスは君に忠誠を向けるという私の予想外の事をしてくれたからな、多少は納得しているよ。私から離れた生活どうかな、ヴィンス」
「……充実しています。ローレンス様から仕込まれたことの多くを利用することができ大変楽しい毎日です」
「そうだろうね。出会った時から変わらず、クレアは呑気で愚直なままだ。君は上手くやっているんだろう」

 ……具体的に何を仕込まれていて、何が役に立ったかということは、二人はわざわざ言わない。もしかすると、先程の毒のように、闇深い話なのかもしれないので、もうわざわざ聞くような事はしない。

「ただ、少しは賢さを身につけているらしい。私が知りたいことはひとつ、君が秘密にしている固有魔法を明かしてくれ、その辺に昼の魔法玉の状態が関係しているのだろう?」

 ローレンスは鋭い視線で私を見て、彼はすっと片手をあげる。そうすると、途端に侍女が下がっていき、二人の学生護衛が私達の背後へと移動する。



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