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楽しいゲーム……? 3
しおりを挟む厳しい意見と優しい意見ふたつが私の中に存在して少し考える。
ひとつは同調してあげたいという気持ち、もうひとつは、ララに責任があるという気持ち。彼女が原作で取った行動の結果、それが今の状況だろう。
ローレンスを落とす、恋仲になる、手に入れるということはあの物語のエンディングであって、それだけで世界が終わったわけじゃない。必ずそこから続く未来があるのだ。人生は、永遠に幸せに過ごしましたとさ。めでたしめでたし。では終わらない。
だから、養子になる、勉強や練習をして、王子という彼の妻になる、つまり王妃になるという事は必ず必要となってくる。
「……なんなら、クラリスに譲るわ。こんなに嫌な思いをするなら、側室でもなんでもいい」
その言葉はあまりにも無責任で、でも、ただの軽口では無い。少し思い詰めている人の言葉だった。
……クラリスだったら怒ってたね。
「それでもララはローレンスを諦めるっていう選択肢は無いの?」
「無いわよ。彼は……ローレンスは、私のよ」
「ふぅん…………今の私にこういう事を言うのってすごく不誠実だと思わない?」
「知らないわよっ、知らないし、思わないっもう!そういう話し方をしないでよ!はっきり言えばいいじゃない!」
「……」
少し取り乱しながら、彼女は私の両肩を掴んだ。瞳は潤んでいて、きっと不安なのだろうということは分かる。
急に、養子に出すって言われて、皆、好きな人と一緒になれるからと祝福して、家族が他人になるというのはどういう気持ちだろうか。
……私って基本的にこのぐらいの歳の子、皆に甘い気がする。
だって、ただでさえ、いろいろと拗れやすい年齢なのだ。だから、仕方ないと思うんだけど……。
「ララこそ、素直になったら?……私は別に怒らないし、無責任だとか責めるつもりも無いよ。……だってララは私の友達だもん。貴方が傷ついていないかの方が心配だよ」
少し図々しかったかなと思いつつ、それからわざわざそういうことを言ったのが気恥ずかしくて視線を逸らす。
私の肩を掴む手が少し強くなったのを感じ、すぐに視線を彼女に戻す、すると、彼女の大きな瞳は潤んで、それから彼女はばっと上を向いた。
「あっ、貴方っ、やっぱり、っ、随分、優しくなったのね!」
「まぁね。……ララ教えて、貴方は何が一番悲しかったの?」
「ッ、ふっ、う、家族がっ、家族、じゃ、無くなることよぅ」
「うん、他には?……あ、ちょっとしゃがんでくれる?」
私の言葉にララは顔を見せないまま、すぐに私より小さくなるようにしゃがんだ。
それから、ガバッと私の腹辺りに抱きついて来る。なんだか既視感があるなと思いつつ、彼女は魔法を使っているので、強く抱きしめられて背骨がぎしっと音をだした。
「まなあって、何よっ、皆、私が野蛮人みたいにッ言っちゃってッふ、ふぅ、嫌いよ、大嫌いっ、王宮になんて入りたくないものっ」
「そうだねぇ」
「クラリスッ、あなただって、私を馬鹿にっ、したじゃないっ、むか、し、っ、」
「うん」
「国母になんてッ、ならないわぁっ、絶対いやよっ」
愚痴なのか泣き言なのか、微妙なことを言いながら、彼女は声を上げて泣いた。展望台に来ていたカップルたちは、私たちを遠巻きにしつつ、観光を楽しんでいる。
目立ってるなぁ。
なんだが、恋人たちのムードが台無しで申し訳ない。
悠長なことを考えていると腰がグキっと音を鳴らし、思わず私は「ぐあっ」と戦隊アニメの敵役みたいな声をあげてしまった。
しばらく彼女が泣くのをそのまま、慰めていれば、段々と落ち着いてきて、最終的には、泣きすぎてぼんやりしている彼女と夕日を眺めた。日が短くなっていることを感じつつ、夕焼けが目にしみる。
すんっすんと隣で鼻をすすっているララの方を見れば、ふと目が合う。私の顔を見たら何故かまた悲しくなったようで、うるうると瞳に涙を貯めた。
「また泣いちゃうの?胸をかそうか?」
私が少しおちゃらけて両手を広げると、彼女は、魔法を使ったまま、私を徐に抱き上げて、そのまま柵の上に座らせて目線を合わせた。
「うわ、っ、危ないって」
「大丈夫よ、支えてるから」
「う、うん?」
そういう問題では無い。柵の向こうには何も無い、たとえ支えられていたって、こんな場所に座っていたくないのだが。
そんな事を思いながら、ララを見つめると彼女はぎゅっと私を抱きしめて、背中に手を回す。私の胸元に彼女は顔を埋めた。
……ララは確かに、スキンシップは多いけど、あんまりこういうことをするタイプじゃないと思ってたんだけどな。
なんというかこう、他人で精神の安定を図るというか、そういう行為だ。むしろ、頼られる側というか、姉御肌だと思っていたので意外だ。
「ねぇ、クラリス、すごく心臓の音が早いんだけど、貴方って小動物みたいね」
「いや、落ちそうで怖いからなんだけど」
「背も小さいし、きっと小動物だわ。かわいい」
「あれ、私の話聞いてる?」
確かにララとは少し身長差がある。でも、そこまで言われる程じゃないと思うんだけど……。
よく分からないなと思っていると彼女は、ふと離れて行って、私の顔をじっと覗き込む。
夕日に焼かれた彼女の瞳は、燃え上がるような鮮烈な赤で、髪は風に靡いて、ふわふわと揺れている。その柔らかな彼女の髪に触れると、絹糸のような手触りで、つい感心してしまう。
「クラリス……貴方って本当にクラリスなの?」
「……」
唐突な質問に固まってしまう。
その意味を考えた。ララは私をクラリスだと言い当てた、そのうえで今度は別人じゃないかと疑っているのか。
もしくは本質的に、私がクラリスであって違うということに気がついたのかどっちだろう。
でも、どっちであっても、私は何となく嬉しく思った。言うつもりなどなかったのに、彼女が私という存在を見つけてくれたかもしれないのが嬉しくて、思わず笑みをこぼす。
「違うよ。私は私。クラリスじゃない、クレアだよ」
「……クレアは、咎人扱いされないための偽名でしょ?」
「違うよ。クレアが私の本当の名前。この体はクラリスだけど」
ララは何か信じられないものでも見たような顔をして、それから、私の頬に触れる。風に靡いて落ちて来てしまった髪を私の耳にかけ直す。
真実を見透かされそうな彼女の強い瞳に、微笑みかける。ララは真実を知ることはできるんだろうか。そして、彼女は、私の巻き込まれている思惑を知っているだろうか。
ローレンスが呪いを狙っている話、そういえば、ララにも関係がないとは言いきれないよね。
「説明して、私、本当に変な事を思い浮かべてしまいそう」
「やだよ。秘密」
「どうしてよ。意味深な発言だけするなんてずるいわ!」
言いながら、私はふと思いつき、彼女の頬に触れる手を取って口を開く。
「ララ、ゲームしよう?貴方が私の真実を言い当てられたら、本物のクラリスが何処にいるか教えてあげる」
どうせ無理だろうと思いながらそんな事を言った。それに、クラリスの事を話したってきっと信じないだろうし、いいかと高を括った。
彼女はぱちぱちと瞬きをして、それから、目をキラキラとさせて笑う。
「面白いわねっ、いいわよ!」
「いいの?きっと難しいよ」
「全然問題ないわっ!覚悟しておいて、きっと正解を見つけて見せるわ!」
ララはそう啖呵を切って、私を強気な瞳でみる。
……たまには弱っているララもいいけど、ララはこうじゃなくっちゃね。
私もかかってこいとばかりに、悪役令嬢フォルムをふんだんに使って、髪をファサァー!と靡かせなが「望むところですわっ!」と返した。
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