悪役令嬢に成り代わったのに、すでに詰みってどういうことですか!?

ぽんぽこ狸

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クラリスの正体……。2

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 謎に彼は私の死に敏感に反応して、死ぬかもしれない、とかそういう事を言われると発作が出るというのに、彼自身が動かないというのも妙である。

 ……でも、今は……まぁ、そんな事より。

「あの、ヴィンス、そろそろ眠ったら?……そしたら酔いも覚めるし……」
「……酔ってなどいませんよ」
「酔ってる人はみんなそう言うんだよ」
「……クレア、私がなぜ、貴方様の危機を放っておいたらのか気にならないのですか」

 ヴィンスは私の両手を取って、それから微笑む。完全に自分より頭が下にあって、どうとでもできる体勢のはずだが、謎に危機を感じて魔法をと考えた。しかし、そういえばさっき、魔法玉を取られてしまっている。

「それより、魔法玉かえして」
「……」

 彼はにっこり笑ったまま答えない。

 ……あ、あれぇ……どういう事……。

「クレア」
「……手、離して……」
「サディアス様に、また醜い愛情だと言われてしまうかもしれませんが、私は別にそんな事は気にならないんですよ」
「ヴ、ヴィンス……?」

 彼の言っている事の意味が分からなくて、名前を呼ぶ、醜い愛情ってなんだろうか。というかどんなワードセンスだよと思う。

「私はただ、クレアが貴方様だという事情が他人に漏れるのが、少々つまらないのです」
「私……がクレアって、中身のお話?」
「ええ、ただそれだけです。この話を知っていると言う事は、貴方様の真実を知っているという事でしょう? それはとても私にとって甘美に思えるんです」

 ……そ、そうなのか?そういうもの?別に私は私だから、知ってようが知ってまいが変わらないように思うのだが、ヴィンスは違うのかな?

 よく分からないまま首を傾げる。

 でもその話を鵜呑みにするのならば、ヴィンスは意図的に、オスカーのようなアドバイスや説得をしなかったことになる。というか、だ。

 知っていたのなら。

「私がそもそも、なんで殺されるかってわかったり……するの?」
「分かりますよ」
「呪いがどういうものかとか、ディックの言ってた話全部分かる?」
「もちろんです」

 彼はニコニコしながらそう言って、私の手に頬ずりをした。妙な行動にやっぱり酔ってるんだろうと思ったのだが、それにしてもあまりにも可愛らしい。

「教えて欲しいですか?」
「う……ん、そりゃ、知りたい……よ?」
「……」

 私が言うと、彼は笑みを深めて、私の手の甲にキスをする。
 そのまま、あっと口を開けて、私の人差し指を口に含んだ。

 ……あひっ。

 あ、は、熱い。

 噛み噛みと優しく噛まれて、歯が指に触れて、熱い舌が敏感な指先を舐める。驚きすぎて声も出せずにその光景を眺める。

 口の中はとても熱くて、柔らかい。

「あ……ああ……」

 手を引っ込めようとするのに、魔法を使っている彼との力の差は歴然としていて、まったく動かすことが出来ない。
 変な感覚に、震えるような声が漏れて、肩が震えた。

 ……く、くすぐったいって、言うか、心底恥ずかしいっていうか、涙が出ちゃうような感じっていうか。

「な、に、……して、……やめっ」

 ぬるりと指の腹を舐められて、思わず目を瞑った。私は多分先程のヴィンスよりも真っ赤になっていると思う。

 キスとか、ハグとか、別にまったくこんなに恥ずかしくないのに、な、なな、何だこれ。

 ちゅっとリップ音が聞こえて耳を塞ぎたくなった。しばらく彼は緩く私の指を舐めたり噛んだりして、ふやけてしまいそうなほどそうされていると、急にぎゅっと強く指先を噛まれて悲鳴をあげる。

「いっ……っ……」
「…………はぁ」
 
 指は離されて、彼はゆっくりとこちらに目を開け、自分の唇についた私の血をぺろりと舐めとってこちらを見る。

「クレア、助けてって仰ってくださいませんか?そうして下されば、エリアル先生の愛猫を攫って来ます」
「……っ……」
「オスカー様、ディック様の助力は正攻法に対してのみのものです。ですが貴方様の命を握っている方達は、その抵抗に屈すると思いますか?」
 
 指からじわじわと血が流れ出ていく。

 言いたいことはわかる。ヴィンスが言うのだから、それが彼にとって出来る事なのも理解できるが、それじゃあ、自分が嫌だと思った強引で横暴な方法になってしまう。

 それに愛猫って、クラリスの事だろ。ついこの間までヴィンスの主だった人をさぁ……。

 頭を振るとヴィンスは、少し機嫌が悪そうに目を細めて、血の滴っている指先を舐める。

「ッ……」

 そして、これと先程の話となんの関係があるのだろうか。あんまり分からないのだが、スキンシップ?なのか、酔っているから……。

 それにしても、傷が出来たからか指先がじんじんする。それに、背中の辺りがゾワゾワする。

「そうですか……そういう方法はダメなんですね」

 こくこくと頷く、けれどヴィンスは一向に機嫌が悪そうな表情のままだ。

「では、どうしましょうか?」
「ど、どうって」
「私、今、少し貴方様に必要とされたい気分なんです。言いましたでしょう?クレアの秘密を知っている人が増えるというのが嫌だと。……不安になるんです。クレアの中での私の存在価値が下がっていないか、心配なんです」

 言葉的には、私に精神的に依存しているメンヘラのようだが、状況的に追い詰められているのは私の方だと思う。抵抗するすべもないし、要は秘密が秘密じゃなくなって、寂しいってことだろう。

 私は彼に寂しくないように何かしてくれと言われているのだと思う。それは、さっきというか、いつだかも言われた助けてと言って欲しい、と一緒の感情らしい。

「……」
「クレア」
「……ゆ、ゆび、なめないで」
「……」

 傷口に、柔らかな舌が触れて、私の言葉など聞こえて居ないかのように、舌で傷口をなぞる。痛みと擽ったさに悶えていると、ヴィンスは、私の魔法石を取り出して、自分の魔法玉に接触させる。他人の魔力の気配を感じて、自ずと自分の魔力が漏れていくのがわかる。

 素直に言うことを聞かないと、魔力を流すという事だろうか。あれは、無理やりに、相手の事をおもいやらずに流すと、流される側は酷い目を見るので出来ればやめて貰いたい。

「……わかったよ、なんかよく……わかんないけど、わかったから、ね、いつだって……オスカー達が協力してくれるとしても……ヴィンスが必要だよ」
「……」

 私がそういうと彼は、私の魔法玉に魔力を注ぎ込む。絶妙な加減だ、苦しいという程のことでも無いが、違和感をぬぐい去ることもできない。

「……私死にたくないよ、ヴィンス。……酷いこと貴方が私にしても、そばにいて欲しいよ」
「…………貴方様は私にどこまで許すのでしょうか」

 注ぎ込まれる魔力はなくなって、彼はぽつりとそういった。
 
「さぁ……ヴィンスが許して欲しいと思う部分までじゃない?」

 自分で言っていて、それじゃ制限がないのと一緒じゃないかと思ったが、彼はニコッと笑って、ちゅっと私の手にキスを落とすどうやら、回答がお気に召したらしい。

 すこし怖いような彼の雰囲気がなくなって嬉しいが、いつか、何かしらの歯車が外れて、大事故になりそうだなと思ったが、見て見ぬふりをしつつ、私はやっと部屋の灯りを付けることが出来た。




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