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クラリスの正体……。1
しおりを挟む……あの分だと、エリアル側に抗うとしたら、私は多分、姑息な手段とか、強引な手段に出て、脅しをかけるなりしなければならないだろう。
多分そういう相手だ、あの二人は。
行動の起因を自分以外のものに作っている人たち、そして既に大切な人がお互いにいて多分とても慎重。
だとするなら、あとはローレンスだ。
彼はどうだろう、というか彼は結局なんで、呪の力が欲しいのだろう。全ての元凶はそこに起因する。夏休みが終わって帰ってきたら、とっとと会いに行こうかな。
そんな事を考えていると、急にズシッと肩に重みがかかった。
「うおっ」
そのままぎゅっと抱きしめられて、体が持ち上がり足が浮く。咄嗟のことになんの抵抗もできず、首根っこを掴まれた猫のように、目を見開いたまま固まっていると、パタパタとこちらに駆けてくる足音が聞こえる。
視界に入ってきたのは、ディックとオスカーだった。
「お前、間違って酒でも飲んだか?誰か教師にでも飲まされたのか?」
「いいえ、そのような事は……ないのですが」
耳元でいつものヴィンスの声がして少しほっとする。ほかの誰か知らないおじさん先生だったらどうしようかと思っていたのだが、彼なら問題ない、……というかお酒?
「オスカー、今なんて?」
「だから、酒だよ。顔もあけぇしな、ディック」
「うん、そんな感じだ。クレアを離す気配もないし」
そう言われても私からでは彼の顔は見えない。仕方が無いので、腕を二三回タップするとゆっくりと下ろされて、ヴィンスの方へと向き直る。
すると、確かに顔が少し赤い。彼は色白なのですぐに、酔いが顔に出るタイプなのだろう。
「あちゃー、どうしようか、とりあえずお水を」
「あー、いいぞ。クレア、そいつを寮まで送って、ついでにお前も休んどけ。俺らで片付けしとくから」
「それは、悪いよ」
「ええ、せめて私だけでも、ここに残りますから」
ヴィンスが見当違いのことを言うのが珍しくて、彼の顔をじっと見てしまった。ぽやんとしていて可愛らしい。酔ってしまったヴィンスを部屋に戻す算段をしているのに、貴方がここにいたらダメでしょという言葉を飲み込んで、すぐにでも寮に返した方がいいと思い直す。
「……悪いけど、お願いしてもいい?今度、なにか奢るから」
「はいはい、そうしてくれ。未成年の飲酒なんて、教師に知られたら面倒だからとっとと行けよ」
「うん、ありがとう……ディック、貴方もごめんねよろしく」
「いいよ、僕は君と違って飲んで食べてしてただけだし任せて!」
「ありがと!」
二人に声をかけて、まだ先生方のちらほらといるテラス席を後にした。
夕日も段々と沈んでいって、夜の闇がすぐそこまで迫っていた。ヴィンスの手を引いて歩けば、彼は何も言わずに着いてきてくれる。暴れたりしなくて良かったなと思いつつ、帰路を急いだ。
私の部屋へと戻って、いつもお茶をしているテーブルではなく、ベットへと彼を座らせて、急いでお水を持ってくる。
少しづつ飲んでいる彼を眺めつつ、日が沈んで暗くなってくる部屋に、灯りをつけなければと、ベットの側を離れようとすると、腕を引っ張られた。
振り返って見れば、ヴィンスは少し俯いていて、徐に立ち上がった。
それから私の手を強く握っているまま、コップをテーブルに戻して、私を見下ろす。
「ヴィンス?」
どうしたのかなと思い声をかけて彼を見ていると、ふと気が付いた。
なんか視線が少し上な気がした。
最近感じていたのだが、出会った時よりも、身長差が開いているような気がする。
……育ち盛りだもんね。身長だってにょきにょき伸びるはずだ。私もぺったんこな靴ばかり履いていないでそろそろ、皆みたいにヒールのあるブーツを履けるようにならないと。
一人だけちんまりしているのは、少し恥ずかしいし。
彼は、何も言わずに私の事をぎゅっと抱きしめる。
「!……ふふっ、なぁに、どうしたの?」
「……」
どうやら本気で酔っ払っているようで、抵抗せずに、少し背伸びをして、彼の肩に顎を乗せた。
それから、後頭部をゆるゆると撫でてやる。
すると、さらに私の肩に顔を埋めるようにして強い力で、抱きしめられる。
「ヴィンスー、苦しいよー」
言っては見るがヴィンスは一向に私から離れる気配はない。酔っているにしては、何だか変だなぁと考えていると、体が浮く。そしてそのまま、ベットに座らせられる。
「??」
大人しく、座って彼の事を見ていれば、もうすっかり暗くなった部屋の中で、ヴィンスの瞳は光を纏ってキラキラが溢れている。ベッドがギシッと音を立てた。
「…………」
ヴィンスは私の首元に手をやって、それから魔法玉を引っ張り出した。あ、取られちゃったなと思ったが、まぁ、彼が何をするかは彼次第だしなと謎の理論で納得して、ヴィンスをぼんやり見つめる。
彼は私を見下ろすのをやめて、それから、両膝をついて、私を見上げた。
「クレア」
「ん?」
名前を呼ばれて、頭を撫でながら返事をすると、ヴィンスはニコッと笑った。
「少し酔ってしまったようです」
「そうだよねぇ、大丈夫?」
「ひとつ、言い訳をしていいですか?」
「なんの?」
彼は、大人しく撫でられながら、私を見上げる。それから、私の手を掴んで自分の頬へと持っていった。少し熱を持っていて柔らかい、ふにふにしているほっぺを少し長く整えている爪で傷つけてしまわないか心配で、手を引っ込めようとしたが、彼に媚びるような目線を向けられて、触れるように手を導かれて、仕方なく頬に触れる。
「……私達……私とサディアス様は、貴方様の命の危険をずっと知っていましたよ」
「……そうなの」
「ええ、けれど、貴方様に伝えずにいた。理由はおわかりになりますでしょうか?」
「あ、あの、分からない……けど」
猫のように頬を擦り付けるヴィンスに、何だか段々と、これはどういう状況かと、正常な理性が警鐘を鳴らし始める。
「サディアス様は、心配性ですが、あれは多分、彼の元来の性格だけのものでは無いように感じます」
「……」
「今、目の前にある貴方様の危険に関して彼は、過敏に反応を示します。ですが本来、救うのであれば貴方様に助言をしたり、状況を説明したりと……正しい順序があるのですが、それを一切せず沈黙を貫いています」
……それは私も思うところがある。彼は少したがの外れ易い節があるというか、なんというか、まるで精神的に追い詰められている人間のような感じなのだ。
それがお家の何か問題なのか、別方面からのストレスなのかは分からないが、私を怪我させてしまったという罪悪感とトラウマが何だか彼の中で妙な感じに絡まっているような感じだ。
「ですが、貴方様の危険回避について、サディアス様には考えがあるようにに思えます。しかし、それが、貴方様の望む解決の形になるとは限りません。極論を言いますと、あの方はある日突然、クレアを攫うだとか、捕らえるだとかそういう事のできる人種です。サディアス様は貴方様の命の危機が近づいていることを知っています。どうか彼と二人きりになる時はお気をつけてください」
「う、うん……」
そんな事するだろうか、あの優しげなお兄ちゃんが。
そう思ったが、ヴィンスの心配はだいたい当たるので、気をつけることにしようと思う。それに、確かに不審な点もある。オスカーやディックがわかるような危機を彼が知っていて、見逃すはずがない。
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