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バーベキュー大会……? 7
しおりを挟む「……そんな無責任な僕とクラリスはあまりにも違って、自分のやるべき事を貫き、貴族というしがらみから開放されるために正攻法で、ローレンスの手から逃れようとしていました」
「……」
「ですから僕は、彼女の手助けをしたいと、思ったんです。少しでも、自由な日々を彼女が送れるように」
確かに正攻法だったなと思う。自ら罪を犯し、周りのララに既得権益を脅かされている者達の矢面に立ってそして派手に散った。
幽閉されて、そしてクラリスはやっと自由を手に入れた。……クラリスの自由は今この時にあるんだね。
そうか、と思う。もしかしたらクラリスの自由の形が、猫ちゃんだったのかな。私も同じだ、猫とは自由で気ままな生き物というふうに思っている。
「今は……二人は、自由なんだよね?」
「そうです……君が何を言いたいのか分かりますよクレア」
「……」
ならば、結局なぜ、ローレンスを排除しようとするのか。その質問に結局たどり着く。
「君にもそのうち分かります。ローレンスは、そもそも王なる器でもなんでもなかった。あの子はずっと子供のままです。僕たちはそれを痛いほど知っている」
……でもそれを、逃げた貴方が言うのか。
王の器ではなかったのだとしても、ローレンスがああいう性格な事がもしエリアルに関係がないのだとしても、今、逃げ出した場所で必死で生きている人に、エリアルはそれを言えるのか。
「それに、僕達は、ローレンスが呪の力を諦めるようなら、別に君をどうするつもりもありません。君があの子を変えられると思うのなら、それでも構わないんです。自らの周りをトラブルで乱すだけでは飽き足らず、国まで戦争に陥れようとするあの子が、君を助ける事を選んだのなら、僕たちだって手を出しません」
不服そうな私にふと、彼は私に手を伸ばしてくる。
ローレンスと同じような蜂蜜色の声で、少し残酷な事を言う。
「媚びるならあの子にどうぞ。僕はクラリス以外の意見は聞くことはありませんので」
この人は大人だ。私の外見のせいもあるだろうが、少し私の事を舐めているのだろうなと思う。
だって、まるでローレンスが全部の元凶のような言い方をして、彼が何もしなければ、自分たちはそもそも害をなさないと、エリアルは言ったが、進んで私を害する人間も、害をなすのを見て見ぬふりをする人も私に取っては一緒だ。
待っているのは死という事実だけ。
夕焼けが目に染みる。
少しこの場所も冷えてきたように思う。
……でも、そんな事を言っても無駄だろう。きっと、彼らはローレンスが呪の力とやらを手に入れるために動くと確信しているし、それを止めるわけではない。
自分たちだって渦中の人間のはずなのに、傍観者を気取っている。ずるくて酷い大人だ。
こっち側に引きずり込んでやりたいような気もするけれど、そうして同じ土俵に立っても意味はない。
そのことにイラつきながら口を開く。
「……エリアルもクラリスも、逃げ出せない最中にいた時に、今のあなた達のような人の事をどう思ってたか思い出した方がいいと思う」
「今の僕たち……ですか」
「そうです。安全圏から、傍観者として、行動を自分の意思ではないように取り繕って。私怨で動いていると言われた方がまだわかりやすいです」
「なんとでもどうぞ。その言葉で僕たちが行動を変えることはありませんから」
「……そういうところです。そうやって、自分は同じ土俵に上がらないところが……嫌なんです」
私は、グッと拳を握って、膝の上に下ろした。エリアルは、やはり私の言葉なんてどうでも良いみたいで、少しアルコールの回ったしまりのない表情でこちらを見ている。
「……直に分かりますよ」
「何がでしょうか」
「……」
ゆったりとした口調で話す。
彼は少し視線を落として、眉を落として笑う。
「あの子の異常性です……こうするしかないんです」
「……」
その表情は、少し悲しそうにも見えて、もしかしたら、ローレンスの事にも、私のことにも申し訳ないという気持ちがあるのでは無いかと思ってしまったが、実際は分からない。
彼は少しふらつきながら席から立って、きっちりと私に金貨を握らせてそれから「ご馳走様でした」と言って、テラスを出ていった。
何だか私は、エリアルとクラリスの事が結局わかったような、さらに分からなくなったような心地のまま、彼が出ていった扉をじっと見つめていた。
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