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夏休み早々……。9
しおりを挟む話をするだけしたらオスカーは、難しい顔をして考え込んだ。突飛な話だったからかすぐに反応はせずに、私と共にディックとヴィンスを探すために歩き出した。
まぁ、後で、ディックが揃ったら、それ以外にも話をする事があるんだけど、それは二人を見つけてからでいいかな。
とりあえず教員棟の彼の自室の方へと向かうのだと思ったが、オスカーはグラウンドの方へと足を進めていた。
「……心当たりがあるの?」
「ああ、一応な」
「もしかして……森の先?」
「……あんな場所の事までお前と共有してんだな、ディックは」
「ん、いや、そういう訳じゃないと思うけど」
歩幅が違うので、ずんずん歩いていく彼の後ろを、私はパタパタ足を動かして早足でついて行った。身長的には、オスカーはサディアスと同じぐらいなのだが、サディアスと歩いていても、そういえばこういう事はなかったなと思う。
……こういうのは、気遣いするつもりがあるかどうかが問題だよね。サディアスはきっと気を回してくれていたのだろうと思う。そして、オスカーがそういう気を回す相手は、ディックにだけなのだろう。
「オスカー、貴方って、ディックが毎回なんの研究をしているか知ってる?」
「……お前は知ってるのか」
「うん」
「……へぇ」
彼の反応を見て、なるほどと思う。
先程あんなに怒っていたのは、きっと秘密を作られていたこと、ディックが自分を傷つけて良いと言ったこと、これ以外にも、あまり自覚していなさそうなオスカーの心情がありそうだと思う。
……この二人ってめんどくさい恋人みたいだね。
だって、ディックだって、オスカーを巻き込みたくないからと秘密にしていたんだ。そしてそれを私が共有していると知って、オスカーは嫉妬している。
だから、あんな風に怒るし、脅すしイラつくのだろう。
そんでもって私みたいなのの事を当て馬というのだ。結局、ディックはオスカーが大好きで、オスカーもディックが好きなのだから、二人がイチャイチャしてハッピーエンドである。
……そう考えると、今の状況って、もしかしてすごく、悪役令嬢らしいんじゃない?!
そうとなれば、オスカーの嫉妬を明確にするために、彼を煽るような行動を取ればいいんじゃない!うん、すごく悪役令嬢っぽいよ!
「オスカー、ディックが──────
私が煽り文句を言おうとした途端、オスカーは私を木に向かって壁ドンするように、拳を打ち付けた。
「さっきから何が言いたいのか、聞いてやるよ」
「……へ」
「ディックがお前になびいてるって話か? それなら、お前をこうやって俺が手に入れれば、あいつも俺のもんになるか?」
頬に触れられて、イラつきと彼の真剣さが伝わってくる。
おかしい、こんな感じじゃないような気がする。なんでこうなった。これじゃない。
「どうした、なんで固まってんだ? あぁ、お前本当は公爵令嬢様だもんな、迫られんのは初めてか?」
頬をさすされて、これは迫られていると言うより、シチュエーション的には絡まれているような状況に近い。
というか、大体こうやって、好きな相手の事をよく知っているマウントを取られたら、ぬぐぐとなってそれから、こう。本人と対話をするのではないだろうか。
いや、そもそもだ、私の読んだことのある少女漫画だと、男主人公は、秘密にされていた事を知った時、怒鳴ったり、髪の毛掴んだり、DVめいた発言なんかしなかった。
そして、当て馬さんは大体、同じ体格の男性で、男主人公側はぬぐぐと我慢する。現在私は、こんななりであり、そういえば先程、か弱い公爵令嬢だったことを暴露している。
……まずった。方向性を間違えた。軌道修正しなければ。
「……ふっ、そうして貴方が怒る理由、きっと自分では分からないのでしょうね……」
「お前、なんでちゃんと高貴な生まれなのに、そんなに言葉遣いに違和感あんだよ」
「あたくしには貴方がこんな暴挙に出る理由も全てわかっているのよ!!」
「はいはい、ミアやアイリを攻めた手前、ばつがわりぃがお前が煽ってんのが悪ぃんだ、あんま騒ぐなよ」
その言葉をきいて私がワタワタと抵抗し始めるとオスカーは私の腕を掴んで、木に押し付ける。
首筋に軽くキスをされて、軽く思考が混乱する。軌道修正とか言ってられない。私が悪かった。もういろいろと、今日は調子に乗りすぎだったのかもしれない。
「ごめん、ごめん、ごめんって、オスカー!!ストップ!!」
「……」
私の制止に、彼は少しも驚きもせずにこちらを見やった。
「色々違うの!!ほら、貴方がとにかく怒ってたから!!でもさ、それって嫉妬もあるのかなって!!だから、この後の二人の仲直りをさ、お手伝いしてあげようと思って!!!」
「……それで?」
「だ、だから!!私がこうやって自慢すれば、なんでこんな奴に!!俺のがあいつを知ってるっ!!ってなって、俺はっ、あいつが!!ってなるのかなって!!ちゃんと、ディックはオスカーの事、大事だよって!!これからちゃんとわかる事だと思うけど!!」
早口でまくし立てて、必死に言い募る、すると次第にオスカーの少し怖いような怒った表情が無くなっていく。この際だから、情けなくてもなんでもいいから、とにかく早く仲直りしてもらいたい。
「だから、あんまり、怒らないであげて!!ディックに怒ってるのもあるけどっ!!嫉妬から怒ってる部分も、理解してっちゃんと許してあげてっ!!てことなの!」
「っ……ふははっ……くく」
「って……オスカー?なんで笑って」
「あははっ、いやな。必死なお前が面白くてな」
彼は私から手を話して、それから腹を抱えて笑った。なんだが、情けないところを晒してしまって、少し恥ずかしくなる。
ひとしきり笑ってから彼は、はぁ、と息をついて、幾分スッキリしたような表情で、私に視線を向けた。
「あのなぁクレア。わかってんだよ。俺だって……言いすぎたしやりすぎた。悪い癖だな、すぐに頭に来ちまう」
「…………そう、なの?わかって……たの?」
「ああ、あいつはそう簡単に俺から離れたりしねぇし、お前の手に終えるやつじゃねぇよ」
「うん、それはうん、すごい思った。介護かなって思ったもん……ていうか……なんださっきの冗談? びっくりしたよ」
私が安心からそういうと、オスカーはピタリと真顔になって、私の髪をすっと手櫛ですいてそれから、ぽつりという。
「いや、どっちでも良かったぞ。お前が否定しないならしないで、多少強引にでも、お前を手に入れても悪くなかったけどな」
「…………じょ、冗談でしょ」
「くくっ、あぁ、冗談だな」
……な、なんなんだ。オスカーの癖に、なんなんだ。
心臓が今更バクバクして、この人はとっととディックとセットにしておいた方がいいと判断する。彼の介護というか、育児と言うかをしていた方がよっぽど彼らしい。
「は、早く行こ、ヴィンスが待ってる」
「そーだな」
二人で言葉少なに森の中を歩いた、本日三度目の森の中で足が疲れて早く安心出来るヴィンスに会いたいと思った。
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