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夏休み早々……。8
しおりを挟む「お前があいつになにをしてたとしても俺は、そこは譲らねぇぞ、わかんねぇのか?ディック、お前を守るってのはそういうことだろ、それともやっぱり、クレアがいいか?なんだよ、随分仲良さげだったもんなぁ」
「ひっ、……っ」
「お前があいつを選ぶってんなら止めねぇが、俺に何も言えねぇってのはそういうことだよなぁ、一発殴っていいか?」
怒りからか主張がブレブレの気がするが、言いたいことはわかるような分からないような感じだ。とりあえず殴っちゃダメだ。とっても良くない。
ディックは、オスカーが本気で怒っているのが怖いのか、単純に暴力が怖いのか分からなかったが、手をぷるぷる震わせながら、彼の服を掴む。
それは、なんというか彼なりの今の混乱した状況下での、できる限りの謝罪の印というか、そういうものに思えたのだが、オスカーはそんな程度で満足する訳もなく、バシッと手を弾いて何も言わないディックを突き飛ばした。
「……あー、ダメだな、すげぇイライラする。もういいぞディック、俺はクレアと話があるから、お前はどっか行ってろ。お前の事、信頼できなくなった、じゃあな」
オスカーはこちらにやってくる。ヴィンスにどうしようと目配せをすると、彼はこくんと頷いて、傷心のまま、今まで歩いてきた道を走っていったディックを追いかけていった。
……ち、ちがーう!!行かないでヴィンス!!いや、確かに、ディックがとっても心配だけど、私、今魔法が無いよ!!!オスカーにボコされちゃう!!
そう思ったのだが、なんだかそんなことを言うのはものすごくダサいような気がして、オスカーと目を合わせた。
彼はずんずんこちらに歩いてきて、私はもうどうにでもなれという気持ちで歯を食いしばりつつ、彼を見つめた。
なにか言って刺激するのも良くないと思ったので、睨みもせずに、目を合わせる。オスカーは私をとても怪訝そうに睨みつけて、ひとときも私から目を離さない。
「……」
「……」
睨み合いというか、見つめあっている状況は少しの間続いて、仕方がないので、なにか言った方がいいかと考える。
「…………あんなに怒るのは可哀想よ」
オスカーは眉をひそめて、それから口を開く。
「誰のせいだと思ってんだ」
「わたくしのせい?」
「その似合わねぇ口調をやめろっ」
「だって、殴られたら痛いのよ」
「はぁ?関係あんのか」
「あるよ。……貴方が怖いけど頑張って喋ってるから、こうなっちゃうのだわ」
「………………チッ」
私が眉を下げて言うと、オスカーは舌打ちをしてそれから、腕を組んで視線を下げた。
無防備な状態の私を魔法を使っている自分が殴ってしまえばどうなるのかわかっているようで、気持ちを落ち着けるようにして、魔力を沈める。
いつの間にか魔法は解かれて、先程までの威圧感もなくなっている。
「ごめんね。オスカー、私も、ディックに酷いことするつもりもなかったから許して、少し意地悪しちゃった私が悪いのはわかっているし、なんなら、って……これじゃディックと同じだけど、私に同じことしてもいいし」
「やらねぇよ。てか、お前は俺をなんだと思ってんだ。誰かれ構わず、殴るわけねぇだろ」
「うん……そうね。でもほら、貴方ってキレやすい感じが……否めないよ」
「……キレても殴らねぇよ」
「じゃあディックに言ってたのは?」
「頭に血が上ってたんだ、悪いか」
「やっぱり殴るんじゃない」
はぁと息をため息をつきつつ、彼と話をする。まったく、本当にびっくりした。タイミングが悪かったというかなんというか、ちょうど、あの話をしている時に彼が聞いているなんて、どんなタイミングの悪さだと思う。
「あ、ていうか貴方なんでここに居たの?まだ夏休みは長いよ」
「……そろそろ、ディックが死んでんじゃねぇかと思ってな」
「帰ってきてあげたの?……確かに放っておいたら、そろそろやばかっただろうけどオスカー、なんて言うか……二人って仲がよすぎじゃない?」
「知るか。俺は、あいつがそれなりに大切なんだよ。わかるだろ」
オスカーはそう言って、魔法玉をしまい込む。
……それなりの範疇を超えているような気がするが、男の友情ってこんなものなんだろうか。何か少し行き過ぎな気もするがそこは……まぁ、人それぞれだろう。
私だってヴィンスに命をかけられるし。
「……それで、話してくれるよな。クレア」
オスカーのすこし、暗い声が聞こえて、そういえば私は、彼が魔法を使っていなくとも、割とひょろひょろで、守ってくれる人がいなければ、オスカーに何されても敵わないという事を思い出し、距離を取ろうとするが、彼はがっちりと私の手を掴んだ。
「お前がディックに何かしようとしていた事は見逃してやるから、お前らが秘密にしてること全部話せ」
「……それは……その、……ディックが言いたくないって、言ってたって言うか」
「おいおいクレア、今ここに、お前を守ってくれるやつは一人もいねぇぞ、真面目に考えてくれ、な?」
……あ、あぁ~、まずい。
やっぱり彼は頭にまだ血が上っているらしい。
私は、オスカーに、私達が共有している事をすべて話すリスクと、話さないリスクを天秤にかけて、ついでに、ギリギリと掴まれている腕の痛みも鑑みて、出来るだけ分かりにくく、自分の面倒な状況と今後予想される面倒なことについて、タラタラと話をした。
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