悪役令嬢に成り代わったのに、すでに詰みってどういうことですか!?

ぽんぽこ狸

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夏休み早々……。6

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「……ディック」
「断らないで!ッダメだって、言わないで」
「…………」

 私が、名前を呼んだだけで、彼は私の答えに気がついてそういった。それでも、言わなければ、わざわざ私を気遣って言ってくれた彼に……答えを。

 それから、私の真実を。

 私が喋ろうとすると、ディックはパッと私の口を手で覆った。
 聞きたくないのならそれでも構わない。でも、これはただの否定じゃない。

 ……私はローレンスの事をちゃんと分からないから、こんなことを思うのかもしれない。でも、私が知っている部分だって確かにある。

 だから、そんな事やめてって、ローレンスに言えばそれで、皆解決なんじゃないかと思う。

 ローレンスの側につくかどうかは分からない。でも、きっと、エリアル達はローレンスを説得するような方法は取らないだろう。

 私はそれが一番だと思ってしまう。説得して、彼なら……わかってくれるのではないかと思ってしまう。

「……僕、一応、君のこと、気に入ってるんだ」
「……」
「オスカーも君を好きだし、ヴィンスと二人で、この学園の人間になろうよ。同じ年頃のここに住んでる子って少ないし……」
「……」

 それはそれで、きっと楽しそうだ。先生達と仲良くなったり、魔法の研究を私もしたりするんだろうか。

 でも、やっぱりそれは、ないものねだりというか夢物語だ。

 口元を抑えるディックの手を取る。

 それから、笑った。

「ごめんね、ディック。私……多分貴方達に協力はしないと思う」
「……バカすぎる。本当にバカすぎ」
「うん、ちょっと私もそう思ってる」
「なんで……なの?……やっぱり惚れた弱みってこと」

 ……ローレンス……に?私が?違うと思いたいんだけどなぁ。

 あながち間違っていないから、なんともな。

「ローレンスにはララがいるからね。……惚れてなんかいないよ。たまに酷いことされるし」
「そんな男、ほっとけよ。まだ、サディアスの方がいいでしょ」
「うーん、サディアスはダメ。多分一番無し」
「なんでだよ。僕なんだがあいつが不憫だ」
「チーム内の色恋はご法度だよ」
「なにそのルール」
「私だけのルールだけどね」
「はっ、報われないやつ」

 ……どういう意味だろう?

 よく分からなかったが適当に笑っておく。だって、チーム内で恋愛感情なんてあったら大変なことになるだろう。バンドの解散理由だってバンド内恋愛が大体の発端のはずだ。

 チェルシーはサディアスが好きなのだ。ここで私がサディアスと距離を縮めてみろ。大変なことになる、絶対に。

 シンシアにはまったくそういうっけが無いので安心だが、いつサディアスがクリスティアンのように、シンシアとチェルシーに手を出すか分からないのでチーム内恋愛は私の中でご法度中のご法度なのだ。

「結局、君は殿下に何か脅されているから、こちらに靡かないってことでいいの」
「……それも……ないんだよね。……私大切な物なんてヴィンス以外には無いし」
「じゃあ何」
「ん、んー、多分そうやって自分の中で決めちゃったから、だよ。いいや、ですわよ、だね」
「はぁ?」

 ディックは心底意味がわからないという風に、首を傾げた。
 
 でも、理由をつけるならばそういうことだ。私は、命と引き換えにしても、私が望むことをやらなければならない。我を強く持たなければならない。今世、私が生きるということに置いて、一番重要なのはその部分だ。

 だから、気になった相手には首を突っ込んで、話をして、徹底的にだ。

 それは、ディックも同じ。深く知り合っていきたい。私は、そういう人間になりたかったのだ。

「ねぇ、ディック、話があるわ。貴方の知らない事情のお話、長くなるから、寮に戻りましょう?」
「君のそのお嬢様言葉ってなんなの?」
「気合いの入れ具合よ、入ってる時はお嬢様になるのね」
「変なの」
「オーホホホッ!!!」
「うるさっ!」

 彼の手を取ってそのまま、寮へと足を向ける。
 
 少し振り返って、金色の膜の向こうに広がる、二つの大地を見やった。そのどちらにも居場所がないのが学園の人間。それは確かに、罪を犯した私たちにピッタリで、お願いすれば、保護してくれるのだと思う。

 ……でもきっと、私は、この学園の中でも異質なことにきっと変わりは無いだろう。学園の先生達なんかも、きちんと生まれた場所があり、故郷があり、国に居場所が無くとも世界には居場所がある。

 私はそれすら持っていない。だからきっと、私の違和感が際立つだけだ。




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