悪役令嬢に成り代わったのに、すでに詰みってどういうことですか!?

ぽんぽこ狸

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新章開幕……? 7

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 それを心配してくれて嬉しいとも思うけど、やっぱり、気兼ねなくお休みを楽しんできて欲しいとも思って、気持ちがせめぎ合って、モゴモゴと口を動かす。

「……うん、……うーん、……二人とも、ありがと……ですわ」
「ですわ?」

 謎の語尾に、チェルシーが復唱する。先程まで拗ねていた自分が邪魔をして簡単には素直になりきれない。

「やっぱり、少し寂しく思っていますのよ。わたくしの大切なお友達が遠くに行くのですからね。でも、それと同じぐらい、良い休息になるの事を望んでいますの」
「……」
「……」
「どっちつかずでごめんなさいね。でも、どうか心配しないでくださいませ。わたくし、また二人に会える日を楽しみに鍛錬を重ねて待っていますから」

 まるで、長年の別れになるよかのような事をいってしまったが、お嬢様言葉なので無効である。恥ずかしくなんかない。
 ヴィンスの真似をして、上目遣いで彼女たちを見つめて見た。

 するとぎゅうっと二人に勢いよく抱きつかれ、体が持ち上がる。普段からブンブン剣を振り回しているだけあって、有り余る力を感じつつ私も抱き締め返した。

「私もっ、きっと強くなって帰ってきます!クレア!」
「チェルシーと同じくです。手紙も沢山送りますから、そんな悲しい顔しないでください」

 そんなつもりは無かったのだが、言われてみれば眉が下がってしまっているような気がする。

 手を離されて床にきっちりと着地し、三人で手を握った。

「お互い一回り大きくなって、きっとまた会いましょう!約束ですっ!」

 場の雰囲気に流されやすいチェルシーがそんなことを言い、なにか趣旨が違うような気がするが、無駄に結束力だけは高くなる。

「おい、約束しなくていい、どうせ必ず会うから、そろそろ二人は出発しろ」
「皆さん、驚いていますよ」

 二人に言われて、三人だけの世界から戻ってくると、夏休みに実家に帰るだけなのに何事かと、またクラスの注目を集めてしまっていた。

 ヴィンスとサディアスの指摘に、私達は苦笑して、そのまま彼女たちを見送った。

 今度会えるのは随分先になってしまうが、今はあまり寂しくない。意外と思っていることを言ってみるのは大事だなと思う。

「クレアは相変わらずみたいだねぇ、それほど寂しいのなら、寮に残って私が慰めてあげようか?」

 ふと呑気な声が聞こえてきて、そちらを振り返ると、ミアとアイリ、それから、編入者のクリスティアンだった。

 彼は藍色の長い髪を揺らしながら、私の肩に触れる。それから、私の長い髪を手櫛で梳くように指を通す。

「結構。……ミア、アイリ、二人も今日出発?」

 その手を払い除けて、左右にいる二人に話を振った。二人とも私の反応にくすくす笑って、それから答える。

「そうよ、クリスと離れるのは寂しいけれど、やっぱり実家が一番だもの今日出発する予定、ね、ミア」
「うん、アイリ。私もクリスと離れるのは寂しいけれどね」
「…………あなた達、それでいいの?」

 私は思わず聞いてしまった。ずっと聞くまいと思っていたのに、つい口から出てしまったのだ。

 だってクリスティアンは、私に払い除けられた手をそのままミアの肩に回し、反対側の手でアイリの腰を抱いている。

 ……クリスティアンはいつからこんな感じだったっけ?

 確か、編入当初はこれ程、誰彼構わずベタベタ触れて回ったりしていなかったように思うのだが、いつの間にか、ミアとアイリのチームはこんな感じになっていて、あと二人の女子もとてもクリスティアンと距離が近い。
 
 絶対に恋人以上の距離感なのだが、それが全員なので、どう考えてもハーレム状態だ。

 そして、チーム外の女性にも、平気で触って愛情を振りまくような発言をする。

 私の言葉に、二人は少し困ったような笑顔を見せる。

「ううん、クリス以外だったら許せないかな、ねアイリ」
「そうね、クリスだから仕方ないのよ、いいと思ってるよ、クレア」
「そう……それならまぁ、いいんだけど」

 聞きたい。誰がどう付き合っているのか、付き合っていないのか、どういう関係なのか。ただ聞いてしまったら負けな気がして聞けもしない。

 この世界って、そもそも一夫多妻も上流階級なら当たり前だったんだっけかな。それなら私もこういう恋愛観に納得するべきなんだろうか。

「私はあまりベタベタ触られるの好きじゃないから、やめてねクリスティアン」
「……さぁね。君にそれを言われる筋合いは、私には無いと思うよ。だってクレアがクラスで一番、触れ合っていると思うしねぇ」
「……そんな事ないけど?」
「何を言っているのかなぁ、いつも侍らせているだろう?」
「誰を?」
「そこの彼」

 クリスティアンは、ミアの頭にちゅっとキスをしてから、ヴィンスの事を指さす。侍らせているなんて随分な言われようだ。





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