悪役令嬢に成り代わったのに、すでに詰みってどういうことですか!?

ぽんぽこ狸

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新章開幕……? 4

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 じっと私の返答を待つ彼に、私はなんと答えようか思考を巡らせた。

 チェルシーやシンシア、彼女たちに会ったらきっと気が紛れるだろう。楽しい話をしてくれる。サディアスであれば、ため息をつきながら私の不安を聞いてくれる。

 不安はあるがディックでもいい、オスカーでも、というか、多分誰でもいい。きっと、確かに、今こうして一人で嘆いている事以外ならきっと、誰でもいてくれたら嬉しい。

 腹の底でそのことに納得がいくと、何か少し楽になって、それは少しだけ、自分の安心に繋がった。

 涙は止まっていて、何となくローレンスの手を握り返す。

「……ねぇ、ローレンス」

 私が息を整えて言うと、彼は「ん」と相槌なのか返事なのか分からない言葉を返す。

「貴方って……怖いことが、あった時はどうしてる?」

 いつだか、彼と話をした、好きな事は何かという話を思い出して聞いてみた。私は好きなことが沢山あって、彼は、まったくすべてが無駄に思えると言っていた。

 今は何となく逆な気がした。彼は何となくだが、こういう事に慣れて居そうで、私は、今この状態の処理の仕方が分からない。

 ローレンスは少し考えるように視線を空に移してそれから、私に視線を戻す。翡翠色の瞳は優しく見えて、ローレンスが最低なだけの男では無いと物語っているようだった。

「今のきみと、同じ」

 …………。

 そうだよね。うん……あぁ、なんか涙、また、出てきちゃう。

 ……ひとりで居ない方がいいって貴方が言ったのに。ローレンスは一人でいるんだね。

 それはそれで、というかそれにも納得で、それもセットで正解のような気がする。こんな風に辛いときは、誰でも、傍にいた方がいい。その方がきっと、苦しみは軽い。でもそれでも、それだけでは無い。

 上手くまとまらないが、彼のまったく矛盾するような、言葉が私を肯定してくれているような気がして、物悲しさだとか、やっぱり不安なことだとかそういうことに涙がでてきた。

「ありがと……なんかっ、あはは、こんな時に、来たのがローレンスでよかった」
「…………」

 私の言葉にローレンスは、少し驚いてそれから、私の頬を緩く撫でた。

「私は君の事が……やっぱり良く分からない」
「そう?……そうかな」

 分かりやすいと思う。私は、多分とても。

 思ってはいけない言葉を飲み込んで、ローレンスに笑いかける。

 何も打算もない、要求もない、私に望まない、ローレンスだけの彼しか言わない彼自身の言葉が私はとても……。とても……だ。
 
 わかっても、おかしく無いと思うのだが彼は気が付かない。嘘ばっかり言ってるからだよ。だから、分からない。
 
 彼はいつも望んでいる、自分に関心を持って欲しいと望んでいる。それは見てきた限り、憎悪でも愛情でも、嫉妬でも、なんでも良さそうだ。とにかく、彼は誰かのどうでもいい人じゃなく、何か情を向けられる事を望んでいる。

 そのせいで嘘ばっかりだ。そのせいで、私の事を見て、私に何かを思わせるような事しか言わないし、しない。

 意識的にそうしてばかりいるせいか、そうじゃない時にはめっぽう私の機微に疎い。

「いつか、気づいてね」
「……何をかな」
「なんでもないよ」

 悟られないように微笑んだ。

 ……きっと、私の人生は今終わっても、きっと疑問に思わない。なんだったのだろうと思わない。そしてきっと、いつ終わっても思うことはない。
 やはりそう思い続けて生きるということを、私は絶対に辞めない。心に深くそう誓った。





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