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新章開幕……? 1
しおりを挟む「クレア、僕は君と言う存在を生み出した、いわば親のような存在です。君が何か、特殊なものを獲得したのであればそれを理解する必要が僕にはあります」
「……」
エリアルは説得するように私に言うが、理由などどうでもいい。申し訳ないと思っているのなら、今すぐ私達を解放して欲しい。
初っ端からかなり変わった人だと思っていたし、私達に人としての情など無いのだと分かってはいたが、ここまでだとは思わなかった。
「君は、今回、僕達に反抗するような態度を示しましたね。クラリスの助言を無視し、君自身がローレンスと直接繋がりを持つことを選んだ。では、僕達にこうして襲撃を受ける事は予測できるはずです」
「……」
「本来であれば、まったく何も説明されぬまま、僕たちに排斥されてもおかしくないんですよ、クレア、その辺をわかっていますか」
道理は分かる、彼らの主張は理解ができる。けれど、こちらにそれを受け入れる道理だってまた存在しないのは事実だ。
クラリスの、ヴィンスとローレンスを決別させろという助言を無視したこと、結局、エリアルの意にそぐわない形になってしまったことは、もちろん彼らと敵対を意味する。
そのことをまったく考えなかった訳では無い。ただ、私は、まったく明確な理由は無かったけれどわかっていた。
多分、エリアル達はあまり切羽詰まっていない。
きっと私を警戒しつつも、私たちがローレンス側についてもどうにかする考えや作戦があるように思う。
だから私は話し合いが出来ると思っていたし、しようとも考えていた。こちらから信用してもらえるように話をしたり、そして、エリアルが考えているそもそものローレンスの思惑についてを聴き、納得出来るのなら、また、エリアル達に協力することを考えようと。
それなのに……今彼はなんて言った?
排斥されても仕方が無いのに、少し穏便にしてやっているような言い方をしなかったか?そもそも論点が違う。
エリアルはずっと上から目線でどうとでもできるような事を行ってくるが、エリアルだって、私達に協力を仰ぐ立場じゃないのか。
「分かりません、……分からないです、エリアル。そもそも私、随分前から思っているんですけど、あなた達って私をどうにかする手段があるんですか?」
「君を作ったのは僕です。当然、あります」
「じゃあ、私の魔法なんか気にせず、利用できないと考えた時点で、やればいいだけの事でしょう、違いますか」
「ですから、それは……君に利用価値があるからです。話をしたでしょう、クラリスの代わりとして、活動することを期待していると」
私の問いかけに対しての返答にしては、少し弱いとおもう。だって、その利用価値をまるっと否定するような行動を取り続けているのが私だ。
「期待されても、やらない事はわかっているんじゃないですか?」
「だからこうして説得もしていますし、何より、君の魔法自体にも価値があるように思えます。その固有魔法、非常に稀有だ。類を見ない。ウィングが特別製ということを差し置いても、君という人間は僕たちの力になる」
「なりませんよ、絶対に嫌です。そして謝ってください」
エリアルの本音が見え隠れし始めて、私は呆れたような気持ちになる。今回の本音はそこだろう。どうせその為だけに私は、あんな酷い目にあったのだ。
本当にヴィンスの言ったことを真面目に聞いておけばよかったと思う。
「僕に謝る必要が感じられません。そもそも、君は、僕が生み出したんですよ、ローレンスに何を義理立てする必要がありますか」
「義理立てじゃないですし、別に私、あの人嫌いじゃないですよ。せいぜい、エリアル、貴方よりは」
「では、君はローレンスの肩をもち、有事の際は彼の側に着くということですか」
「有事って、ものによります。ローレンスが悪いことをするかもしれないじゃないですか」
「そんな事では、やはり彼に良いように利用されます、クレア。君達は僕たちの側に着くべきです。そうせざる得ない状況にならなければ、分かりませんか」
段々と口論のようになってきて、私は少し声を荒らげる。というかこれでは、私に脅しが通用しないと認めたも同然である。やはりエリアルには、私を排斥するだけの力は無いのかもしれない。
ただそれにしては、やはり強気だ。あまり状況を楽観視しすぎるのも良くないだろうし、ローレンスが何かを企んでいるというのも事実のはずだ。
……そう、それさえ分かれば私は、こんなに気持ちが揺れずに済むのだ。エリアルがそうまで言う、ローレンスの思惑とはなんなのか。確かに彼は不可解な人だ。きっと本人に私が聞いても、また怒って、嫌な事をされるだろう。
「そんな事を言われても、困ります。まだ、本当に未だに分からない事だらけで、でも既に、打算だとか、思惑だとか色々言われて、選択を迫られて、考えて、一つ一つ答えを出しているんです。それを曖昧なことばかり言って、なんの開示もせず、私の状況を引き合いに出して脅して」
言っているうちに、段々とエリアルにも、そしてなぜだかローレンスにも腹が立つし、なんなら私をボコボコにしたコーディにも、みんなみんな、私が分からない場所で、考えた、“私”が悪くない事をぶつけて来る。
他人の害意が、敵意が、無感情なエリアルのやった陵辱が怖くないわけが無いだろう。恐ろしくないわけがないだろう。
「少しはその、傲慢な性格をあらためたらどうですか、いい加減に、乱暴をしたことぐらい、真摯に向き合わなかったことぐらい、謝罪をしたらどうですか、こんな子供に大人気ない」
体が子供だということを引き合いに出すつもりはなかったが、つい言葉が出てしまう。
そしてこの言葉は多分エリアルだけに言っているものでは無かったローレンスにもだ。そうなのだ。私の中では、彼らは乱暴で傲慢でどっちもどっちだ。
ただ、大嫌いなのはエリアルだけだ。
「それがない限りは、私はエリアルの質問にも、魔法も何も答えません、もちろん協力するかどうか思案だってしません」
彼を睨みつけるが相変わらず、うざったい前髪で隠れて表情は読み取れない。
声が大きくない彼に、こうして大きな声で言うのは、彼の言葉を遮ってしまうので、今までちゃんと同じ声量で会話をしていたがもう、そんな気遣いすら面倒だった。
「もう一度言います、謝ってください、でなければ魔法玉を返して!部屋に戻って、ヴィンスの手当をしなければなりませんから!」
手を差し出す。言い切ったしスッキリもした、けれど、殴られるかもという気持ちもある。ここの学園の住人はすぐに手が出るし。
体は少し緊張していて、何を言ってくるかと私がエリアルを伺っていると、彼はしばらく硬直してそれから、グッと唇を引き結ぶ。
彼は謝罪をせずに、私の手に魔法玉を置く。
あまりの潔さに、私は思わず瞳を瞬いた。
八割がた、図星に逆上するかと思っていたのだが、意外な反応に拍子抜けする。
手元に戻ってきた魔法玉に少し安心して、きゅっと握り込む。
「…………確かに……乱暴をした事は……申し訳なかった」
誠意があるかは分からなかったが、しっかりと謝罪と取れるような言葉だった。いつの間にか、元のサイズに戻ったクラリスがとてっとテーブル上に乗る。寄りかかっていたヴィンスはどうなったかと、私が振り返ると、彼は壁に体を預けてまだ眠っている。
『エリアル、もういいわ。貴方紅茶でも淹れてらっしゃいな』
「……はい」
命じられるがままに、エリアルは立ち上がって、手際よく紅茶を入れる。やはり、話をしたり主導で動くのは人間の体をしているエリアルだが、実質の権利を有しているのはクラリスだろう。
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