悪役令嬢に成り代わったのに、すでに詰みってどういうことですか!?

ぽんぽこ狸

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仲直りって大事だね。 4

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 シンシアぐらいとまではいかないが女性にしては、筋肉が付いていて、けれども女の子らしく柔らかい。

「んっ、ッ、ふっ、……うぅっ、貴方……ずいっ、ぶん、優しくなったのね、っ」
「うーん、うん」
「辞めないでっとも……言ったのよっ、ヒクッ、っ」
「うん」

 ララは私の腕を掴む。泣きながら言う彼女の声は、随分可愛らしかった。これが主人公補正というやつだと思われる。
 ちょうど良い位置に頭があったので、頬を預ける。

 …………ララはいいんだろうか。こんな元悪役令嬢に弱みを見せて。なんだかつけこんでしまいたくなる。

 ララは情緒豊かで、少し気が強くて、それでも優しくていい子だ。すぐに手が出るのは、良くないけれど。

「そしたらぁっ、……、ららちゃんには分からないよ、の一点張りよぉっっひ、酷いったら、アナぁ~」

 わあっと子供のように泣き出す。相当耐えかねていたようで、ララは引きつけでも起こすのではないかというぐらい苛烈に泣いた。
 
 子供が火がついたように泣き出すというがまさにこのことだろう。

「私っを、……ここにっ、置いてくっの?っ、ねぇ、クレアッ……んっ、……ふ、あした、止めたら、きらわれちゃうかなっ」
「そんな事無いと思うよ。ふるさとに戻っても、認めてくれるの待っていてくれるんじゃないかな」
「っ……!……ッうぅ、っひんっ、うゔっ~」

 ララは、ばっとこちらを振り返って、座ったまま私の腰に抱きついた。そのまま私の部屋着に顔を埋める。

 彼女の無防備すぎる距離感に、振られた女の子が、やけになって相談に乗ってくれた男に気を許すというシチュエーションを思い出した。

 今、ナチュラルにその状況になってしまっていて少々怖い。


 しばらく泣き続けたララは、眠たそうにしていたので私のベットで適当に寝かせた。目元を真っ赤にしたララはすぐに眠ってしまった。

「……クレアは、ララ様と何か、以前から面識がおありだったのですか?」
「……どうして?」
「いえ、少し距離感が近いように感じましたので」
「うーん、そうかな。ララの家が大家族でスキッシンップ過多だからね、そう感じたんじゃない?」

 私がこちらに来てからずっと書いている、出来事ノートを書きつつそう答えると、返事はすぐには返ってこない。

 気になって、ヴィンスの方を見ると、彼はなんとも言えないような表情で思案したあとニコッと笑った。

「左様でございますか、ところで本日、ベットは如何されるのですか?」
「……」

 すやすやと私のベットで眠っているララを見つめる。多分セミダブルぐらいのサイズはあるので、少しつめつめにはなってしまうけれど、彼女と眠るしかないだろう。

「ララと寝るよ、なんだか酷く消耗しているみたいだし」
「よろしければ、私のベットを利用して頂いても問題ありませんが……」
「ううん、やめとく」

 私が首を振るとヴィンスは「わかりました」と答えて対面に座った。
 今日あった事を私は綴って、ヴィンスはそれを何となく眺めているようだった。しばらくもくもくと作業を続けて行くうちに少し疑問に思う。

「ねぇ、ヴィンス」
「……なんでしょうか、クレア」

 彼は少し眠たいようで、ワンテンポ遅れて、返答が返ってくる。

 仕方がない、だってもう夜も随分と更けているし、昨日はあれだけ色々あったのに、サディアスの部屋で眠ったのだ、体が休まっていないのだろう。

「ララは、あんまりローレンスに頼ったり……しないのかな」
「例えばどんな事をでしょうか」
「えっと……例えば喧嘩のことを相談したり…………話を聞いていて、ララって今、結構寂しいんじゃないのかなって思ってさ」
「……私には分かりかねますが……ですが、そうですね」

 ヴィンスは少し考えてから答える。

「ララ様の周りには、多くの思惑が交錯しています。サディアス様しかり、ララ様の台頭によって事情が変わったもの、ララ様を利用しようとするもの、排除したいと願うもの、様々です。ローレンス様がその限りでは無いとは言いきれません」

 ヴィンスはララを見つめて、続ける。

「そういった面で、クレアが非常にフラットに接せると考えた故に、貴方様に頼ったのではないかと私は考えています」
「……ララには心を簡単に許せる相手は居ないってこと?」
「あまり、事情に詳しくはありませんが、現在彼女のチームにいる貴族達にも多くの思惑がある事は事実です。ララ様はとてもお強く、武力で彼女を思い通りにすることは出来ません。それゆえ、弱みを見せれば、その心の隙間につけこもうと考えている人が常に周りにいるというのは、心休まるものではないでしょう」

 まぁ、……確かにそれは嫌だし、そういう信頼出来る相手を見つける余裕もないだろうと思う。
 彼女は、現在もまったく困り事などないような振る舞いをしているが、少し接したぐらいでは分からない深い部分が人間には必ずある。彼女がこれ程不安的に見える理由も、その辺りにあると考えても問題はないだろう。

 ……でも、それをどうにかするのは、ララの手を取った。彼の仕事だろうと思う。サボっているのかそれとも、さらにララを自分に陶酔させるための策略か、私にはまるで検討もつかない。

 ララは、こうして、自分と真っ向から敵対していた相手に弱みを見せるぐらいなのだから、相当参っていると思うのに、ローレンスは何をやっているのだろう。

 いつかまた、部屋に来たら聞いてみようかな。

「ローレンスは次、いつ会いに来るのかな……」

 ぽつりとつぶやく、ヴィンスはその呟きを聞いて、複雑そうに笑った。

「会いには行かれないのですか?」
「行かないよ」
「理由を聞いてもよろしいでしょうか」
「うん?……えっとね」

 …………嫌いだから。……は何か違う。別に嫌いじゃない。ただ何となく、ローレンスは私にそれを望んでいると思うからだ。だから会いに行かない。

 行けば優しくしてくれそうだけれど、行かない。

 なんでだろうと自分でも思う。

「理由……分からないや」
「左様でございますか…………いつか、お聞かせくださいね」
「うん」

 ヴィンスは追求することは無い。何故かそれに少しだけ安堵して、また、もくもくと作業をし始める。

 夜の静かな時間はゆっくりと過ぎていった。




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