悪役令嬢に成り代わったのに、すでに詰みってどういうことですか!?

ぽんぽこ狸

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一難去ったらまた一難……? 8

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 私が彼に返事をする前に、何やら声が聞こえてきて、話をするのをやめてそちらに意識を集中した。

「…………から!……、…………」
「……なの…………、…………」

 痴話喧嘩のような、もう無理なの?とか、仕方ないの!と言うフレーズが聞こえてくるが、その声は二人とも女性のようで、こちらに近づいてくる。
 カップルだろうか、男女だろうが女性同士だろうが痴話喧嘩など聞いていていいことは無い。
 
 ただ一応、何で喧嘩をしているのかが気になって、私はこちらに歩いてくるのを待った。

 段々と声が鮮明に聞こえて来て、ヴィンスもチラリとそちらを見る。

「どうしてよ!私やっぱり納得いかないっ、模擬戦の結果が悪かったからって何よ!」

 どうやら練習場脇の私達のいる広場を通り過ぎようとしていたようだが、追いかけて怒っている方の女の子が、何処かに向かっている三つ編みの子の腕を掴んだ。

「離してよ、ララちゃん」

 その子は立ち止まって、自分を掴んだ彼女の腕を掴む。

「いや、ちゃんと私が納得できるまで行かせない!」

 聞き覚えのある声に、彼女達の顔を見てみれば、ララと、彼女の幼なじみで原作にも登場していたアナ・タリスだった。
 彼女は、なにかとララに振り回されつつも、いつも彼女を助けてサポートする、ゲームで言えばお助け友人役のようなキャラクターだった。

 茶髪のおさげがチャーミングポイントで、大人しい見た目をしていて、庇護欲をそそられるような可愛い子だ。ちなみにララは強気でついて行きたくなるような可愛い子だ。

「だから、何度も言ってるよ!私はずっとわかってた……魔法使いに向いてないの」
「そんなの関係ない!夢なら、向いてるとか向いてないとか、そんなのは関係ないってば、アナ!」
「……関係あるの……私は、ただでさえ、学校時代からずっと……場違いだったんだよ」

 原作でもよく登場していたキャラなだけあって、アナの初めての心の吐露に私は、ついつい息を潜めて二人の話を聞いてしまう。

「ちがう!貴方は自信がないから、そう思うだけ、今までだって私達、二人でやってきたじゃないの!」

 ララは、彼女の意見を真っ向から否定して、腕を引っ張って自分の方へと向かせる。二人の間には長年培ってきた絆がある。だからこそ言えることなんだろう。それにララはそういう性格だ、回りくどい事は言わない。

 原作からして、アナは、ララになんだかんだ言っても甘い。私とヴィンスみたいなものなのだ、だからこそララにとって、アナはとても大切な存在だ。

 なんの喧嘩か分からないが、すれ違っても結局仲良しに戻るのだろう。

 しかしそう思った私の予測を打ち破るように、アナは魔法を使う。ララも咄嗟に瞳を光らせる。

「ララちゃんには分からないよ……私の気持ちは。だから納得なんてさせてあげられない。離して!」
「……っ……わ、分かるもの!っ、わかるはずでしょう……だって、ずっと私達……」
「ララちゃんていつもそう、ララちゃんは全然周りが見えてない」
「ッ……そんな事……」
「全部、ララちゃんの都合のいいようになるわけじゃないんだよ!クラリス様の事だって私は……」
「っ、あれは私は悪くない!」
「ララちゃんが、悪い。私はそう思う」
「なんでよっ!」
「……理由を言っても、貴方には分からないよ、絶対」

 ……なんかヒートアップしてる……。

 二人はお互いに睨み合って、ものすごく険悪な雰囲気を放つ。私は、止めに入った方がいいのか、よく分からずにヴィンスに目配せをする。
  
 ヴィンスは私と目が合って、それからにっこり笑いながら首を傾げた。

 どうでもいいのか、なんなのか、ヴィンスに判断は任せられそうにない。

 二人は言い合いを続けて、段々と声が大きくなり、そして、パンッと歯切れの良い音が響いた。

 アナは自らの頬を押さえて、ララを睨んだ。

 ララは泣きそうなほど表情を歪ませていて、肩で呼吸をしている。ちょうど魔法を使っていた私は、何となく走っていって二人の間に入った。が、急に現れた私に、ララの事を平手打ちし返そうとしていたアナの手が、私の後頭部に直撃する。

「あでっ……い、てて」
「ッ、貴方は」
「クレア?!どうしてここにっ」

 アナを庇うように間に入ったので、ララと至近距離で目が合う。まさかアナの方まで殴り返そうとしていたとは思わなかったので、予想外の打撃に頭がヒリヒリと痛む。

 ヴィンスもそばに寄ってきて、アナとララはそれも一瞥した。ヴィンスは恭しくお辞儀をする。

 そして、私にララは目線を戻す。

 なんと言おうか、まったく考えていなかったので、口癖でものを言う。

「女同士の喧嘩なんて見苦してくてよっ!!!!」

 大声を出すと、パチンを頬を叩かれて、じんわり頬が熱い。

 ララは咄嗟に手が出てしまったのか、あっ、やってしまったと自分の手を見ていた。

「い、痛い……ただ仲裁をって、思っただけなのに」

 じんじん痛む頬を押さえて、独り言のように呟くと、ララはキョトンとして、それから眉を下げる。

「…………ごめん…………私、授業に……戻るわ」
「う、うん」
「アナ、貴方には謝らないよ。絶対……私は嫌」
「…………」

 アナはララの言葉に答えずに沈黙する。ララはすごくしょんぼりしながら、来た道をとぼとぼと戻っていった。

 この場に留まり、無言になってしまったアナへと振り返ると、彼女はばつが悪そうに、視線を逸らす。
 
 立ち去らないということは、話を聞いてもいいのだろうか。

「……とりあえず座ったらいかが?わたくしとお話しましょう?」
「……うん、そうさせて貰おうかな……」

 私が先程まで座っていたベンチを指すとアナは、赤くした頬をそのままに悲しげな表情のまま微笑んだ。





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