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一難去ったらまた一難……? 7
しおりを挟むお互い気持ちが落ち着くまで抱きしめあっていると、離すタイミングを見失ってしまったような気がする。
喉がかわいてきたので、最後にギューッと抱きしめてから体を離すと、ヴィンスはすぐに、目元を手で隠した。
……ありゃ……泣いてたの?
よしよしと頭を撫でると、頬を赤くして、離れて立ち上がる。愛らしい反応に、弄り倒したい気持ちと思春期の男の子なのだから、そんな事をしたらウザがられてしまうという気持ちが拮抗して、紅茶で口を潤した。
……ヴィンスって可愛いよね。多少狙ってやっている節があるような気もするが、何処までが意図しているものなのかはまったく分からない。
「ヴィンス、貴方ってモテるでしょ」
「…………分かりません。ですがたまに好意を寄せられているなと感じる時はあります」
「へぇ~」
自分で思っていた以上に、面白がっているような声が出てしまった。口元がにやけるのを手で隠す。
「学園生活だもんねぇ……そうだよねぇ、ふふふ」
「?……何のことでしょうか」
「ん~……いやー」
ヴィンスはあまりピンと来ていないようで、涙を拭い終わったのか、少し赤い目元をしながら私の隣へと座った。
「これから、ヴィンスも告白されたり、春色な事が色々起こるんじゃないのかなってさ」
「春色ですか……」
「そうそう。だってここは学校だしねぇ、あるよねぇ恋とか愛とか色々、んふふ」
ニマニマしながらそういうと、ヴィンスは少し目を細める。その表情は少し憂鬱そうだ。
「……面倒くさいです」
……!わ、私がか!?楽しんでごめんなさい!
「皆さん、特に女性の方はそういった話がお好きでいらっしゃいますが、結局は親の決めた相手と結婚するのですから、わざわざ辛い思いをする必要はないと思います」
「……そう?」
「ええ、私は……いえ、クラリス様がそのように」
「ああ、なるほどね」
確かに彼女の言いそうな事だ。実際に好きでも無い相手のために自国を離れて生活をしていたし、相手はローレンス。色々大変だっただろう。
まぁ、実際は、親の決めた相手から逃れて、クラリスは自分の好きな人?とそばに居るのだけど。
何事もやってやれない事はないと思えるよね。ララだって王子様と付き合えてるし。
なんだか感慨深い気持ちになったが、それらをヴィンスはどう思っているのだろうか。
「じゃあヴィンスは?女の子から告白されたらどうする?」
「……そう、ですね。……面倒くさいとは思わないと思います。多分……私は……既に大切な人がいるからとお答えしますよ。だからどれほど想ってくださってもお応えできませんと伝えます」
目が合う。そういった表情がなんとも、愛おし気で、けれども儚げで直視できない、カッと顔が熱くなったような気がする。勘違いをしてしまう女の子ってこういう風に生まれるんだろうなと思いつつ、気持ちを落ち着ける。
「……ヴィンス、貴方きっと少し注意した方がいい」
「何をでしょうか?」
「メンヘラを生むよきっと、大変だから。色々自重するべき!」
「……ふふ、なんの事だか分かりません。クレア」
……これは、もしかすると、遊ばれてるのか?私。
きっと面白がって恋愛の話をし始めた私への仕返しだろう。少し暑くなった顔をパタパタ仰ぎつつ、楽しそうに笑う彼を眺める。やっぱり可愛い。
私の方がいじられてしまったというのに、まったく憎らしくない。じとーっと彼の事を見やっているとヴィンスは、ふと笑うのをやめて、少しやはり憂鬱そうに、困ったように首を傾けて私を見た。
「貴方様も大概でいらっしゃいますよ。クレア」
「私も?」
「ええ、少し自重して下さらないと、酷いことになりそうです」
そう言ってニコッと笑った。何だこの意味深な言葉は。まったく身に覚えなどない。
それに何を自重しろと言うのか、私はただ、成り行きに抗いつつ、色んなところでお嬢様言葉で叫び出し、だいたい大怪我をおっているだけの人間だ。こんなイロモノに愛だの恋だのを抱く人間が果たしてどこにいると言うのか。
「なんないよ~!無い無い」
「……」
ヴィンスはにっこり笑顔のまま無言になった。なんだろう、なんでそんな諦めたみたいな顔をするのか。
……だって本当に無いと思うし……。私は常に崖っぷちだから、そんな事をやっている暇もない。鍛錬していた方がまだ、生きるのに役立つ。
でもそれをヴィンスに説明したところで意味は無いので、話を変える。
「と、ところで、そろそろ先生の所に行ってこようと思うんだけどどうかな」
「……何か勝算があるのですか?」
「??」
「ローレンス様との約束というのは既に結ばれていますか?」
「いいえ?」
「……」
ヴィンスは徐に私の魔法玉を引き出して、表情を曇らせる。
「貴方様が都合よく動かないのであれば、学園から消える事をエリアル先生が望む可能性を考えていますか?」
「……う、うーん」
「貴方様の場合、なんの抵抗も出来ずに手籠めにされる可能性もあります」
断りもなく魔力を流されて、体がビクッと反応した。危うく、紅茶を落とすところだった。
「ッ……」
「一応、通常の魔法が使える状態の方が良いでしょう?」
「ン……うん」
……心配……してくれたのかな?そうだよね……それなら、あんまり文句言うのも良くないよね。
相変わらずの異物感と体が熱くなる感覚に、視線を落として、拳を握る。本当は割とベットに入って「う~」とか「あー」と声を出して頭を抱えたいような感じなのだが、部屋にわざわざ戻る訳にも行かないし、浅く息をして耐える。
「……貴方様の魔法は本当に不思議ですね。……拒絶したい相手にも、こうされれば使われてしまうのでしょうか?」
「わ、わかんない……かな」
「それに、常にそばでクレアを守っている人間がいなければ、クレアは常に魔法玉の重複使用で魔力効率が悪く、戦闘力が低い……」
確かに、その通りなので、なにも言い返せることは無い。
「魔力コスト低く、貴方様を無力化し、魔法玉を奪って強化すれば、成果を出したい時、個人戦、団体戦でも、利用用途は沢山ありそうですね」
「ん、」
「攫って、抵抗するすべさえ奪ってしまえば、クレアはとても使い勝手の良い、アタッチメントになりそうです……」
ヴィンスが何やら物騒な事を言っている間に私の空洞が埋まって、魔力が止まる。彼は少し考え込んでいるようで、私の魔法玉を持ったままだ。
「…………ヴィンス?」
「……クレア、出来るだけ早く、ローレンス殿下と親愛の誓いをするべきです。貴方様は今、大勢に取って、とても都合がいい」
「そう、かな?そう簡単に人攫いなんかしなくない?」
「……クレア、世界の全員が貴方のように優しい人間では無いのですよ」
窘められるような言葉にそんなものかなと思う。ここだって私が生きてきた世界と同じぐらい優しいはずだ。むしろそれ以上に優しい場所だと思っている。だって児童文学だし……。
というか親愛の誓いの約束をしたって、ヴィンスはやっぱりわかってたんだね。あまり納得いかなかったが、どうせ近いうちにという話だったのだ。だから急ぐ分には特に問題は無い。
……ただひとつ、心残りがあると言えば……。
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