115 / 305
一難去ったらまた一難……? 2
しおりを挟む目が覚めるとそこはサディアスの部屋だった。
血まみれになったベットは、パキパキに乾燥し、そして起き上がるとヴィンスとサディアスの二人が、ベットに突っ伏すようにして、眠っていた。
手や足が、ひとつも痛くなくて、制服も綺麗に復元されている。しかし首元に、魔法玉が無く、どちらかが持っているのだと予想できる。
部屋は明るいが、窓の外は真っ暗だ。模擬戦からだいぶ時間が経ってしまっているだろう。
あんな事になるとは思っていなかったが、一体、コーディは何を考えていたんだろう。彼は私を殺したいと言っていたと思う。
……なんだろう……そう言う時期なのかな?こう、尖ったナイフのようになる……そう、思春期的な……。
まぁ、でも正直、彼のことはまったくの謎だ。
彼にはたしか双子兄弟がいる。そして彼は私の弟、けれど、私は姉であって、コーディとその兄弟と三つ子という関係ではないらしい。何がどうなってそうなっているのか、クラリスの出生については謎が深い。
あまり深入りしない方がいいと思い、考えるのをやめた。クラスでも普段から関わりがないのだ。これからも出来るだけ接点を持たないようにしよう。
……結構、怖かったしね。死を感じたよ割と間近に。
思い出しても背筋が凍る。傷つけられた両腕が無事なことを再度、確認する。
……これって、ヴィンスが治療してくれたんだよね?助けて欲しいって言ってくれと言っただけあって、ヴィンスには通常の魔法では治せない傷を治す算段があったのだろう。さすがだ。
結局、どうなったのだっけなと思いながら私のすぐそばにいる、ヴィンスの頭を撫でた。
肌が白くきめ細かい、頬は少し紅潮していてあどけない。本当に美人である。ローレンスは男性らしさがあり、優しげでもあり、イケメン王道と言った具合だが、ヴィンスは線が細く中性的だ、その点ではコーディと似ているような雰囲気ではあるのだが、まったく髪の色が違うので印象も違う。
コーディは冷たいイメージ、ヴィンスは……緑の髪を見るたび思うのだが、アニメや漫画の色物キャラっていつも髪色緑だよね。そう……つまり……ひょうきん?いやいやいや、ひょうきんではないだろ。
「っふふふ」
でも、とにかくだ、こうして頭を撫でられる程、近くに居るということが今は嬉しい。とにかく寂しかったし。
ついでにサディアスのつんつんした髪も同時に撫でる。サディアスは本当に男の子っぽい顔つきだよね。あ、ピアス空いてる。
ふと気になって触れると、ビクッと彼は反応して、ふと目を覚ました。
「……何してる」
「ピアス、可愛いなと思って」
「勝手に触らないでくれ」
「うん、耳触られるの苦手なの?」
彼は起き上がって、ふわわと欠伸をする。
私はせっかく珍しくサディアスをよしよしできると思ったのに離れてしまったのが残念で、少ししょんぼりだ。
「……得意なやつは、居ないだろ」
「確かにね」
分かっているが、ここ数日寂しかったせいだろうか。つい手がうごいてしまう。
ヴィンスの頭をうりうりと撫で回した。
「…………なぁ、クレア」
私がヴィンスの背中を犬を撫でるようによーしよーしと撫でていると、少し低い声でサディアスは言った。
私が彼に顔を向けると、すごく怒った顔で私を睨みつける。
「ベットが血まみれだな?」
「う、うん」
「君もさっきまで血まみれで虫の息だったな?」
「……」
「君は俺に、なんて説明した?わかってるよな、俺は心配もしているし、できる限り安全な道を選ぶべきだと言ったな」
お説教タイムに入ったらしい。
ピリピリとした彼の雰囲気が伝わってきて、ベットの上で正座した。
「大丈夫と言った言葉は嘘だったわけだが、俺は君を信用出来る気がしないんだが、君はどう思う?」
「うん……うーん」
「うーんじゃないだろう?血を流しすぎて頭が回らなくなったのか、痛い目見れば大抵の人間は間違いに気がつくな、でも君はどうかな」
徐にサディアスは立ち上がる。私はそれをじっと見上げる。そして私の魔法玉と自分の魔法玉を取り出した。
合わせて持って彼は、私の魔法玉に自分の魔力を押し込める。喉が詰まるような感覚に、体が固くなる。
「痛い目を見すぎて、そのまま死ぬのではないかと思ったぞ」
彼はイラつきを私にぶつけるみたいに、だくだくと魔力を押し込めてくるので体がついていかずに、腹の奥の方から異物感が生まれて、侵食してくる。
私の固有魔法の練習に付き合ってくれる時は、もうちょっと優しいというか、暖かいと言うか、ふわふわしているのに、今やローレンスを想像させるような魔力量である。
「ぅ……」
正座したまま、小さく呻くと、サディアスは私の頭に触れた。優しく頭を撫でられる。
「多少あらっぽいのは許してくれ。つい先程まで、君の治療をするヴィンスに魔力を注いでやっていたからな、こちらも疲れているんだ」
「ン、……ぅう……ご、めんて、サディ、アス。ちょっと、きつっ」
「なにがだ?俺は、君の魔法を補助するためにわざわざ魔力を注いでやっているんだが?ありがとうじゃないのか」
「ッ、う、あり、あと」
気持ち悪いゾワゾワする感覚にパニックになりつつ、私を撫でている人肌がなんとも心地よく。飴を与えられながら鞭を与えられると、色々パニックになるという事だけは分かる。
「…………ほら、全部入ったぞ、しばらく自己治癒に努めてろ」
「ン……うん」
生理的な涙を拭いながら熱の残量を確認する。半分程度まで回復している様子で、固有魔法を使っているから効率もいい、体の傷は塞がっているが、何だか頭がふわふわするので、血が足りていないだろうと予測する。
治れー、戻れー、とキラキラした魔法の光が血液になることを必死に想像する。
サディアスはもう動けないとばかりに、私のすぐ隣に座りこんだ。
「……なあ、痛い目にあっても、分からない人間は、どうすれば危険を犯さないようになると思う?」
「…………私の事?」
「それ以外に誰がいるんだ」
正座を崩して、足を伸ばし、枕をクッションにして腰掛けた。
「クレア、侍女が替えの布団を用意したそうです。……少し失礼しますね」
「うん……うん?」
いつの間にか起きていたヴィンスは、大きな布団を持っていて、血濡れの掛け布団を、侍女ちゃんが回収し、新しい布団がマットレスの上に敷かれる。
「もう消灯時間がすぎているようですから、本日はサディアス様のお部屋でお世話になりましょう」
「……俺はもうなんでもいい、ここで寝る」
「では、私もクレアの隣で寝ますね」
「……あ、うん」
部屋の灯りが消されて、いつの間にか暗くなる。
魔法玉だけがキラキラと光っている。
「……えっと……おやすみ?二人とも」
「おやすみなさいませ」
「おやすみ」
返事が返ってきて、私も魔法を使ったまま、真ん中で横になる。いくらサディアス貴族サイズの大きなベットだとしても、三人で横になるといかんせん狭い。こちらを向いて丸くなって目を瞑るサディアスと手が触れた。また冷えきっているので、片手で握る。魔法を使っているので暖かいだろう。
ヴィンスの手も同じように握ってみたら、彼は私を見て、ぱちぱちと瞬きをしたあと、ちゅっと手にキスをして眠った。
……あ、そういえば。
全身痛くて苦しくて、それでも目を覚ませない時、夢なのか現実なのか声が聞こえたんだ。
なんだがヴィンスはいつもより性格が歪んでいて、サディアスは何となく口が悪い。色々喋って、そしてそれから、ヴィンスは言った。
サディアスもヴィンスと同類だと。
そしてサディアスはそれに答えなかった。
……あれは一体どういう意味だろう。
それが謎だったのだが、夢なのか現実なのかも分からないのに二人にそんな話してた?と聞くのははばかれる。
横になれば否が応でも、睡魔はやってきて、意識が落ちて行く。
二人に握られた手が暖かくて、安心して眠れそうだった。
11
お気に入りに追加
137
あなたにおすすめの小説
旦那様、前世の記憶を取り戻したので離縁させて頂きます
結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
恋愛
【前世の記憶が戻ったので、貴方はもう用済みです】
ある日突然私は前世の記憶を取り戻し、今自分が置かれている結婚生活がとても理不尽な事に気が付いた。こんな夫ならもういらない。前世の知識を活用すれば、この世界でもきっと女1人で生きていけるはず。そして私はクズ夫に離婚届を突きつけた―。
悪役令嬢でも素材はいいんだから楽しく生きなきゃ損だよね!
ペトラ
恋愛
ぼんやりとした意識を覚醒させながら、自分の置かれた状況を考えます。ここは、この世界は、途中まで攻略した乙女ゲームの世界だと思います。たぶん。
戦乙女≪ヴァルキュリア≫を育成する学園での、勉強あり、恋あり、戦いありの恋愛シミュレーションゲーム「ヴァルキュリア デスティニー~恋の最前線~」通称バル恋。戦乙女を育成しているのに、なぜか共学で、男子生徒が目指すのは・・・なんでしたっけ。忘れてしまいました。とにかく、前世の自分が死ぬ直前まではまっていたゲームの世界のようです。
前世は彼氏いない歴イコール年齢の、ややぽっちゃり(自己診断)享年28歳歯科衛生士でした。
悪役令嬢でもナイスバディの美少女に生まれ変わったのだから、人生楽しもう!というお話。
他サイトに連載中の話の改訂版になります。
悪役令嬢になりたくないので、攻略対象をヒロインに捧げます
久乃り
恋愛
乙女ゲームの世界に転生していた。
その記憶は突然降りてきて、記憶と現実のすり合わせに毎日苦労する羽目になる元日本の女子高校生佐藤美和。
1周回ったばかりで、2週目のターゲットを考えていたところだったため、乙女ゲームの世界に入り込んで嬉しい!とは思ったものの、自分はヒロインではなく、ライバルキャラ。ルート次第では悪役令嬢にもなってしまう公爵令嬢アンネローゼだった。
しかも、もう学校に通っているので、ゲームは進行中!ヒロインがどのルートに進んでいるのか確認しなくては、自分の立ち位置が分からない。いわゆる破滅エンドを回避するべきか?それとも、、勝手に動いて自分がヒロインになってしまうか?
自分の死に方からいって、他にも転生者がいる気がする。そのひとを探し出さないと!
自分の運命は、悪役令嬢か?破滅エンドか?ヒロインか?それともモブ?
ゲーム修正が入らないことを祈りつつ、転生仲間を探し出し、この乙女ゲームの世界を生き抜くのだ!
他サイトにて別名義で掲載していた作品です。
【コミカライズ2月28日引き下げ予定】実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。
氷雨そら
恋愛
悪役令嬢だと気がついたのは、断罪直後。
私は、五十も年上の辺境伯に嫁いだのだった。
「でも、白い結婚だったのよね……」
奥様を愛していた辺境伯に、孫のように可愛がられた私は、彼の亡き後、王都へと戻ってきていた。
全ては、乙女ゲームの推しを遠くから眺めるため。
一途な年下枠ヒーローに、元悪役令嬢は溺愛される。
断罪に引き続き、私に拒否権はない……たぶん。

悪役令嬢の生産ライフ
星宮歌
恋愛
コツコツとレベルを上げて、生産していくゲームが好きなしがない女子大生、田中雪は、その日、妹に頼まれて手に入れたゲームを片手に通り魔に刺される。
女神『はい、あなた、転生ね』
雪『へっ?』
これは、生産ゲームの世界に転生したかった雪が、別のゲーム世界に転生して、コツコツと生産するお話である。
雪『世界観が壊れる? 知ったこっちゃないわっ!』
無事に完結しました!
続編は『悪役令嬢の神様ライフ』です。
よければ、そちらもよろしくお願いしますm(_ _)m
私を幽閉した王子がこちらを気にしているのはなぜですか?
水谷繭
恋愛
婚約者である王太子リュシアンから日々疎まれながら過ごしてきたジスレーヌ。ある日のお茶会で、リュシアンが何者かに毒を盛られ倒れてしまう。
日ごろからジスレーヌをよく思っていなかった令嬢たちは、揃ってジスレーヌが毒を入れるところを見たと証言。令嬢たちの嘘を信じたリュシアンは、ジスレーヌを「裁きの家」というお屋敷に幽閉するよう指示する。
そこは二十年前に魔女と呼ばれた女が幽閉されて死んだ、いわくつきの屋敷だった。何とか幽閉期間を耐えようと怯えながら過ごすジスレーヌ。
一方、ジスレーヌを閉じ込めた張本人の王子はジスレーヌを気にしているようで……。
◇小説家になろうにも掲載中です!
◆表紙はGilry Drop様からお借りした画像を加工して使用しています
転生者はチートな悪役令嬢になりました〜私を死なせた貴方を許しません〜
みおな
恋愛
私が転生したのは、乙女ゲームの世界でした。何ですか?このライトノベル的な展開は。
しかも、転生先の悪役令嬢は公爵家の婚約者に冤罪をかけられて、処刑されてるじゃないですか。
冗談は顔だけにして下さい。元々、好きでもなかった婚約者に、何で殺されなきゃならないんですか!
わかりました。私が転生したのは、この悪役令嬢を「救う」ためなんですね?
それなら、ついでに公爵家との婚約も回避しましょう。おまけで貴方にも仕返しさせていただきますね?

誰からも愛されない悪役令嬢に転生したので、自由気ままに生きていきたいと思います。
木山楽斗
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢であるエルファリナに転生した私は、彼女のその境遇に対して深い悲しみを覚えていた。
彼女は、家族からも婚約者からも愛されていない。それどころか、その存在を疎まれているのだ。
こんな環境なら歪んでも仕方ない。そう思う程に、彼女の境遇は悲惨だったのである。
だが、彼女のように歪んでしまえば、ゲームと同じように罪を暴かれて牢屋に行くだけだ。
そのため、私は心を強く持つしかなかった。悲惨な結末を迎えないためにも、どんなに不当な扱いをされても、耐え抜くしかなかったのである。
そんな私に、解放される日がやって来た。
それは、ゲームの始まりである魔法学園入学の日だ。
全寮制の学園には、歪な家族は存在しない。
私は、自由を得たのである。
その自由を謳歌しながら、私は思っていた。
悲惨な境遇から必ず抜け出し、自由気ままに生きるのだと。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる